「I am sorry, I cannot speak English」と前置きをして、
2008年、ノーベル物理学賞の受賞記念講演を異例の日本語で行った益川敏英氏。それは、共同受賞者の小林誠氏の英語によるスピーチに続いて行われた。
贈賞理由である「少なくとも三世代のクオークの存在を予言する破られた対称性の起源の発見」をした2人の関係は、1972年にその論文を益川氏が日本語で書き、小林氏が英語で仕上げた当時から36年間変わっていなかったことになる。
2008年のノーベル物理学賞は日本人3人の独占受賞で沸いた。故南部陽一郎氏への贈賞理由は、「サブアトミック物理学における対称性の自発的破れのメカニズムの発見」であった。大胆な発想で素粒子物理学の「標準理論」への道筋をつけた一連の研究成果は、「宇宙の起源」という壮大な謎の解明にも重要な鍵となっている。
ここでは、益川氏の「英語嫌いの起源」に迫ってみれば、その原点は意外なほどシンプルであった ― 物理の法則のように。
取材・構成=赤岩ゆみ 編集=古屋裕子(クリムゾンインタラクティブ)