その痛み、外国語で伝えられますか

翻訳会社

海外に滞在中、急な体調不良で冷や汗を流した経験を持つ人は多いことと思います。病気や怪我はいつでも経験したくないものですが、それが見知らぬ土地で起こったとしたら……。「痛み」を母国語以外で説明するのは、まさに苦痛以外の何者でもありません。医師に的確に「痛み」を伝えるには、どうしたらよいのでしょう。

■ 痛みを伝えるのって難しい

事故による怪我などで、開いた傷口や折れた骨など原因と痛みの状況が見えているような場合はわかりやすいですが、問題は、腹痛や頭痛など目に見えず、本人にしかわからない痛みの状況を説明する時です。痛みは、体温や血圧などのように測定することも、血液のように分析することもできない上、個人によって体感が異なるため、度合いを判断するのが困難です。医師は患者の痛みに関する正確な情報が必要なのに、患者は痛みを客観的に示すことができないのです。

どこが、どう痛いのか――。母語でもなかなか的確に伝えるのが難しい痛みを、他言語でと考えるだけで、痛みが増しそうです。伝える側が苦労する一方、情報の受け手である医師は、どのように患者の痛みを判断するのでしょうか。

■ 医師の理解を阻む言葉の壁

言葉が通じない相手の痛みを理解するため、医師によっては、痛みの性質や程度を示した語のリストを使ってコミュニケーションを測ろうとします。「鋭い」(Sharp)、「鈍い」(dull)、「焼けつくような」(Burning)、「刺すような」(Stubbing)、「どきどきする」(Throbbing)などなど……。患者にとって最初の難関は、初診で痛みの性質や程度をうまく言葉で説明することです。このリストがあれば、患者は該当の痛みを指差すだけでよく、大いに役立つことでしょう。しかし、それでも書かれた言葉の意味がわからなければ、リストを使っても理解しきれない可能性があります。また、 痛みの頻度も重要です。ずっと続く痛みなのか、波のように時間をおいて強弱がある痛みなのか、あるいは特定の姿勢や動きに伴う痛みなのか。一つひとつを確認していく必要があります。

リハビリテーション医学を専門とする理学療法士のジェフリー・シェイムズ博士がこれに対して、一つの方法を示しています。イスラエルに4つある主要な健康維持機構の1つ、 Maccabi Health Servicesのリハビリテーション部門を統括する博士は、慢性症状の長期管理に携わっており、患者の痛みの診断と対応は欠かせません。シェイムズ博士は、身体を描いた図に痛みの個所を示してもらったり、痛みの程度を1から10までのゲージで示してもらったり、ストレスレベル、体の動きの不具合、QOL(生活の質)など、さまざまな視点から痛みに焦点を当てて答えてもらう質問表を準備するなどの工夫が、患者の痛みを把握するのに役に立つとしています。

■ 痛みにもいろいろありまして――

確かに痛みの表現のリストや程度のゲージは、言葉によるコミュニケーションの助けとなります。しかし、例えば日本語では「胃がシクシク痛む」「頭がズキズキする」など、痛みのニュアンスを伝えるためにさまざまな擬音語を駆使します。痛みにもいろいろあるのです。患者は的確な診断と治療を受けるため、できるだけ正確に痛みの種類や性質、度合い、範囲、頻度などを、痛みのニュアンスも含めて伝えることが大切です。

チャートやゲージだけでは伝えきれない「痛み」は、やはり言葉によって伝える必要があります。例をあげれば、英語で痛みを表す単語にはPainの他にAcheがあります。Painが治療の必要のない軽度の痛みから我慢できない重度の痛みまでをカバーする単語であるのに対して、Acheは頭痛(Headache)、腹痛(Stomachache)など、より主観的かつ慢性的で、緊急性の低い「痛み」を示しています。医療現場では、急性(鋭い)=Pain、慢性(鈍い)=Acheという区別で、患者に対応していると言えます。

■ 医療通訳者・翻訳者が必要

外国語ができても、医師に「痛み」を正確に伝えられる人は、そういないのではないでしょうか。そのため、外国人の治療におけるコミュニケーションを助ける医療通訳者・翻訳者の需要が高まっています。患者の痛みを正しく理解し、医師に的確に伝える能力が、最良の治療への助けになることは間違いありません。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、外国人旅行者の数がますます増えることが予想されます。また、日本の医療技術を学ぶべく来日する外国人や日本で高度医療を受けるために来日する外国人も然りです。言葉の変換だけでなく、文化や習慣の違いなどにも配慮した、きめ細かな対応ができる医療通訳者・翻訳者が、今後さらに必要になることでしょう。

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