卒論を1日1万ワード書く方法

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(INGER MEWBURN)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。このコラムで人気の高い記事の1つが「悲鳴をあげずに1日に1万ワードを書く方法」です。今回は、ミューバーン准教授が気になったという作家レイチェル・アーロン(Rachel Aaron)による投稿「私はこうやって1日の執筆量を2000ワードから1万ワードに増やした」という記事のことも含めて、1日に書ける文章量を増やす方法について語られています。

レイチェルの記事を見たとき「えっ!1日に10000ワード」と驚かされましたが、彼女は3つの条件が揃えば1日に10000ワードを書くことは可能だと言っています。その条件とは――

1)事前に何を書くか考えがまとまっていること

2)執筆のための時間を十分にとっておくこと

3)書こうとしていることについて熱意を持っていること

レイチェルが記事に書いていることの多くは、私が過去の記事「悲鳴をあげずに1日に1000ワードを書く方法(原題:How to write 1000 words a day and not go bat shit crazy)」で取り上げたものでしたが、本当に彼女がそこまで生産性を高められたのか半信半疑でした。もし習慣的に10000ワードを書けるとしたら、夢のような話ですよね。自分が1日10000ワードを書けるとしたら、1週間で論文が書けちゃう?学術雑誌(ジャーナル)の記事なら1日で完成??

無理~!と叫ぶでしょう。私も無理だと思いました。

ところが、今は1日に10000ワード書くことは可能だと信じています。私がオーストラリア国立大学(ANU)で開講している「論文ブートキャンプ( Thesis Bootcamps)」に参加した学生が1日で10000ワード以上書いているのを見ているので、「できる!」と言えるのです。

論文ブートキャンプのやり方は、メルボルン大学のリーアム・コーネル(Liam Connell)とペタ・フリーストーン(Peta Freestone)の二人の博士によって、PhD過程後半の学生が研究論文を執筆するための手助けになるように開発されました。国によってはPhD学生が書く論文を「学位論文」と呼ぶようですが、私は敢えて「卒論」と呼んでおきます。論文ブートキャンプの構想は「キャンプ」の名の通り、多数のPhD学生を週末の間、一部屋に詰め込み、各自に20000ワード書くとの目標を課すものです。

嘘でしょ、と思いました?いいえ、これ本当です。

論文ブートキャンプでは毎回、少なくとも1人の学生はこの目標を達成できますし、他の多くの学生も自分たちが考えているよりはるかに多くのワード数を書いています。以前の記事「DROP AND GIVE ME 20,000 (WORDS)!」に、リーアムとペタが語る論文ブートキャンプの裏話について書いているので、こちらも見てみてください。今回は、レイチェル・アーロンの提唱する3つのアドバイスを論文執筆に当てはめてみます。

1)事前に何を書くか考えがまとまっていること

卒論を作成するためには普通の執筆とは異なる方法で書く必要があります。例えば、研究アイデアを形作り、明瞭に伝えるには、できるだけ上手に書くよりもできるだけたくさん書くことによって、「文章を生み出す」のです。書けるだけ書いておくことは、後から後悔しないためにも賢明です。考え方としては「書き散らかしたものでも後できれいに整えれば何とかなる」です。完璧主義者はこの方法に抵抗があるからなのか、たくさんの完璧主義者が私の論文ブートキャンプに参加してくれています。

論文ブートキャンプでは、生産的効果を高めるためには、文章を作り出すことに集中するように教えます。ここで重要なのは、学生がブートキャンプに参加する前に、少なくとも1週間かけて「論文マップ」を作成しておくことです。マップは、新しい文章を作る、あるいは既存の文章を再利用するにしても、論文の見出し・小見出しなどを考える上で不可欠なものです。

特に、人文学や芸術を専攻する学生は、卒論の「構成」のことで頭を悩ませることが多いようですが、「卒論の構成」を、学生が見出さなければならない完全に概念的な形であるかのように考えることが不安を生む原因ではないかと思っています。

大切なのは、構成とは見つけ出すものではなく、作るものだと認識することです。卒論の構成は、専門分野の先例および卒論自体の内容に大きく依存しています。学術研究には過去から現在まで脈々と続く長い歴史があり、科学系のPhD論文は過去の研究における実験の手順に準ずるものとなるかもしれません。しかし、多くの専門分野のPhD学生または教育のような「多言語」環境でも共通するものがある分野のPhD学生にとっては、簡単に踏襲できる形がないこともあります。このような場合、学生は自分で構成を練らなければなりません。次のような手順を参考に考えてみてください。

  • 以下のような文章を書き出してみることで卒論(論文)の全体をつかむ。
    • この論文は、・・・の知識に寄与するものである
    • この論文は、・・・であることから重要である
    • ここにあげる論文の仮説(Research question)に対応する問い(Sub-question)は――
  • 論文の長さを決めておく。多くの大学では卒論の長さ(ワード数)に制限を設けていますので、少なくとも制限ワード数の2/3は書きましょう。(2/3以上書けるかもしれませんが余裕を残しておくことをお勧めします。)
  • 章の見出しから考え、その横にワード数を書いておくと目安になります。イントロダクション(序章)は2000~3000ワード程度、その後にそれぞれ同じぐらいの配分で7つの章を続け、最後に結論を4000~5000ワード程度でまとめます。
  • 結論部分については、見出しの下に結論に書き込むべきポイントを大まかに書き出しておきます。(ここに書くことは、事前にあげた研究課題に対する答えであるはずです。)データは得られているか、自分の見解は述べられているか、結論を支持する証拠と論点はそろっているかなどを慎重に確認します。このような結論におけるポイントは、単数であれ複数であれ、論文にとって「重要な習得事項」となるものですので、研究で得られた知識および読者に伝えたいアイデアなどを盛り込みます。
  • 各章に少なくとも1つの、もしくはそれ以上の重要な習得事項を書き込みます。各章の見出しの下に、300ワード程度の簡潔な梗概(あらすじ)の形式でそれぞれの重要な習得事項を書き出しておきます。この梗概はアブストラクト(要旨)の簡易版と考え、その章の内容を説明します。
  • 次にその章に入れ込む資料類を箇条書きにします。この時点で書けていないことについては心配せず、できる範囲で書いておきます。この箇条書きにした短い文章を元に章の小見出しを作ります。
  • 最後の章にまで書き進めたら、重要な習得事項の正当性について読者が納得するか、最初に考えることは何か、そして次に何が来るか、などを自問自答してみてください。研究について話をするように、記述した章のすべての小見出しが配置できていると思えるまで文章の編集をしたり、新しい見出しを追加したりしてみてください。

上述の手順は論文マップの作製に役立つはずです。ただし、これはあくまでも執筆支援にすぎず、執筆プランを固定するものではないことを覚えておいてください。書きながら内容を変更、追加、移動させることでよりよいものに仕上げてください。

論文ブートキャンプでは学生に、論文マップの中から好きな項目を選び、できるだけいいものを書こうとせずに、できるだけ早く書いてもらいます。それで完璧な論文執筆用の文章素案ができるのかって?必ずしもそうとは限りません。それでも、多くの学生はキャンプで作成した文章は、キャンプに参加する前、単語の一つ一つを心配していた時に作成した文章よりも分かりやすい文章になっていると言っています。論文マップが、どう論文を書くかに重点を絞っていることが、明快な文章を作成するにあたって大きな役割を担っていると思います。

このようにまとめられた手法は、卒論執筆の後半にいる学生にはとても役立つものです。とは言っても、作成過程のどの時点でも手順を考え、書くべきことを見直したり、書き足したりする際にも有効です。私自身が上に書き出した手法に準じて作成した論文マップをダウンロードできるシートにまとめたので参照にしてみてください。

2)執筆のための時間を十分にとっておくこと

執筆の時間については今までにもたくさん書いてきたので、ここで再び記述することはしません。執筆時間を作るためのちょっとしたコツやアイデアに興味がある方は、以下の投稿をご覧ください。

3)書こうとしていることについて熱意を持っていること

これこそ1日10000ワードを書く「秘策」だと思います。レイチェル・アーロンは、生産的な執筆ができた日々について深い分析を行い、たまに発生するそれほど生産的な執筆ができなかった日と比較しました。レイチェルが1日に10000ワード以上を書くことができた日は、心から「書きたい」と思っていた日であり、このような日のことを「キャンディー気分の日(candy bar scenes)」と呼びました。甘いものが嬉しい気分につながるのはどこも同じようです。逆に、書くことに飽きて1日に5000ワードも進まなかった日のことは次のように述べています:

考えてみれば当たり前なことに、そんなときに書いても新たな問題を引き起こしかねません。著者が退屈して書きたくないと思いながら書いているものを誰が読みたいと思うでしょうか。結局、書いているのは私なのです。私の作品です。執筆者の私がその作品を好きになれなかったら、誰も好きになってくれることはないでしょう。

小説の世界でレイチェルが感じたジレンマへの答えは、退屈ならもっと面白くすればいいんだ!という単刀直入なものでした。しかし残念ながら論文の執筆では、同じことができるとは言えません。実用的ではあっても面白みに欠けることは常に存在します。私はこれらを「パサパサのトースト」と解きます。その心は、しっかりモグモグ噛まないと飲み込めない。味もイマイチですしね。

退屈な繰り返し作業のことをゲームの世界では「Grinding」または「Grind」と呼ぶようです。ゲームでは、レベルやランクを上げてより多くのパワー/武器/防具など獲得する前に、同じアクションを何度も何度も繰り返すことを余儀なくされますよね。レベルアップの代償として繰り返し作業が必要という点は執筆作業と同じです。

リーアムとペタがブートキャンプに取り入れた中で最も天才的なアイデアの1つは、「レゴブロック」でした。5000ワードの執筆達成ごとに特定の色(緑、青、赤、金)のブロックを進呈します。学生はブロックを組み立てて小さな「壁」を作り、各自の机に並べるので他の参加者に達成度合いを「見せつける」ことができます。学生はレゴブロックが最初に配られたとき笑っていましたが、すぐに、誰もが次のブロックを獲得するという目的に向かってひたむきに手を動かしていました。ブロック獲得が執筆のモチベーションを上げたのです。誰かがブロックを手に入れるたびに祝い、名前を書くためにボードに向かう学生を軽く叩いて喝采します。大したことではありませんが、それは執筆という作業の苦しみを楽しみに変える働きをしたのです。あなたも5000ワードを書き上げるごとに自分へのご褒美を考えてみてはいかがでしょう。

まだ10000ワードを書くことに抵抗がありますか?機会があればANUのYou Tubeも見てみてください。

原文を読む: https://thesiswhisperer.com/2015/01/16/how-to-write-10000-words-a-day/

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