ニューロダイバーシティに基づく博士課程学生への支援

2023年5月、Eirini Tzouma(エイリニ・ツォーマ)から、ダラム学術開発センターの大学院研究会議で、ニューロダイバーシティ(Neuro(脳・神経)とDiversity(多様性)を組み合わせた言葉。神経多様性とも言う)に関するパネルに参加するよう依頼されました。残念ながらその日は先約がありましたが、その後、エイリニに当日の話を聞きました。


そこで今回はエイリニに研究会の記事を書いてもらうことにしました。以下、エイリニの文章です。

私のダラム大学でのアカデミック・デベロップメント・アドバイザーとしての役割は、民族学から記録哲学まで、さまざまな学術分野における博士課程学生のサポートに重点を置いています。この仕事で、神経多様性のある博士課程の学生たちと関わり、毎年開催される博士課程の学生たちの研究会議で、学生たちが抱える課題について議論し、新たな前進のためのパネル発表をまとめるお手伝いをしています:

パネルディスカッションでは、発達障害のある博士学生にとって重要な課題がいくつか挙げられました:

  • 支援の必要性は、まず正式な診断によって判定されるべきである
  • 神経多様性を持つ博士課程の学生の全員が、正式な診断を受けている/受けられるとは限らない
  • 支援対象者は学生にも指導者にも存在するが、支援体制には乖離がある
  • 博士課程の学生は、学生と指導者の中間の立場に位置することが多く、両方の立場でサポートが必要となる。博士学生としての役割では、口頭試問やその他のサポートが必要である一方、教員としての役割では、指導の計画や実施に関するサポートが必要である
  • 指導教官や研究補助スタッフには特に個別の研修が必要である
  • (ダラム大学の)博士学生は48週制だが、大学全体では別のカレンダーで動いているため授業が休みの時のサポートも必要性
  • お役所仕事のような業務を減らす必要がある

「正式な診断」という要件が、最初の、そして最大の難しい壁となります。まず理論的な話をしましょう。

ニューロダイバーシティ(神経多様性)の診断は、諸刃の剣のように感じられることが多いです。一方では、理解と支援への道を提供しますが、裏を返せば、診断によって人間の豊かな多様性を単なる「状態」に貶めてしまう危険性をはらんでいます。神経多様性/ダイバージェンスは矯正されるべき問題ではなく、人間という多様なモザイク画の重要な一部なのです。

現実的な問題も存在します。診断へのアクセスはいばらの道であり、階級や経済状況、そして性別さえも、タイムリーな支援を受けられる道を劇的に歪めてしまいます。診断までの道のりはハードルが高く、多くの人は、書類手続きを待つ間、貴重な時間が指の間からすり抜けていくのを眺めることになります。この待ち時間の間に、何をもってニューロダイバーシティやニューロダイバージェンスとするかという議論の網の目にさらに絡めとられています。例えば、強迫性障害(Obsessive-compulsive disorder、OCD)です。 OCDは、ユニークな脳の配線を反映した神経ダイバージェンスなのか、それともメンタルヘルスの傘下にある不安障害なのか。それとも両方か?

このハードルの高さゆえに、多くの人が自己診断を自己理解と自分のニーズを明確化するための重要なツールとして利用するようになりました。自己診断は、診断書に依存した硬直的な支援モデルから、より包括的でニーズに基づいたアプローチへの軸足を提供するでしょう。

「ニーズに基づくアプローチ」とは、どんなものでしょう?想像してみてください。「診断書はありますか?」ではなく、「あなたの学業をどのようにサポートしましょうか?」と尋ねられる世界を。支援が、鍵を必要とする施錠された扉の向こうではなく、支援を必要とするすべての人を招き入れる開かれたドアであるというモデルへの転換です。それは、サポートが利用できるだけでなく、オーダーメイドで、タイムリーで、変化をもたらすものであることを保証する転換です。

医学的診断を超えて、博士課程の学生を一人の人間として見るサポートシステムを想像してみてください。これは、画一的なレッテルによってではなく、一人ひとりの微妙に異なるニーズによって調整される支援システムです。このようなシステムは単なる夢物語ではなく、現実的で包括的な方法であり、ひろく採用されるべきではないでしょうか。サポートへの入り口として、自分自身のニーズを自己申告するという、シンプルながら奥深い力が原動力となるのです。

これは、正式な診断の価値を否定するものでは、決してありません。ニーズに基づいたサポートは、私たちが提供するサポートに豊かさと柔軟性を加えるアプローチだと考えてください。それは、変化し続ける高等教育の状況に適応できるよう、サポートのシステムをより強固なものにすることです。また、学生が1年目に必要とするサポートは、ゴールラインを通過する終盤に必要とするサポートとはまったく異なるかもしれないことを認識しなければなりません。

このアプローチは単なる合理的な変化ではなく、文化的な変化でもあります。博士課程の学生、指導教官、所属機関の管理者(そしておそらくは彼らに資金を提供する政府でさえも)間の対話、つまり本当の意味での交流を促すシステムです。ニーズに基づくアプローチとは、静的で1回限りの評価から、ニーズ、要望、支援に関する動的で継続的なコミュニケーションへと移行することができるのです。

ニーズに基づいたサポートは、既存のシステムに組み込むことで簡単に始めることができます。多くの研究機関では、博士課程の学生の支援ニーズを記録し、ニューロダイバーシティを考慮しつつ対応する仕組みがすでにあり、その多くは診断書に基づいて提供されるサポートです。

この枠組みを拡大し、学生やスタッフが自分の言葉で現在の課題やサポートの必要性を明確に説明できるよう、自己申告書を含めるようにするのです。提供可能なサポート内容は教育機関によって異なるかもしれないし、既存の手続きや方針をもとに形作られるでしょう。しかし、核となる原則は変わりません。それは、より迅速で、共感的で、最終的に効果的な支援システムを構築することです。

この提案が、博士課程の学生たちの間で、神経多様性/ダイバージェンスに対するニーズに基づいたアプローチについての議論が始まり、そして願わくば、それが発展する一助となれば幸いです。

今回ダラム学術開発センターの大学院研究会議に参加したパネリストも私も英国の高等教育機関で働いているため、この視点は必然的に我々の出身機関の特殊性が反映されています。しかし、この討論は、地元や地域の関係性や経験を取り入れることで、国際的な広がりを持つことができると思います。それぞれの経験やアイデア、背景について、ぜひ皆さんのご意見をお聞かせください。

ありがとう、エイリニ!
このポストに対するご意見は eirini.c.tzouma@durham.ac.uk までお寄せください。

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