PhDの研究を学術書として出版するには Part2

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。

この記事はPhDの研究を学術書として執筆して出版するには方法について述べた「PhDの研究を学術書として出版するには」の続編です。前回の記事で紹介した3つのステップに続く、ステップ4と5を紹介します。


PhDの研究を学術書として出版するには」という記事では、媒体の検討、出版社との連絡、アイデアの売り込みについて説明しました。このPart2では、契約の交渉方法についてお話し、次のPart3では、執筆と編集のプロセスについて説明します。

ステップ4:学術界の嫌われ者になるべからず

以前の投稿記事に書いたように自分で自分を売り込まない限り、学術出版社からすぐに返事が返ってくる可能性は低いと思ってください。メールのやり取りに数週間、あるいは数ヶ月かかってしまうこともあるでしょう。私の経験から言うと学術出版を支えている人たちは、研究者と同じく時間に追われています。彼らは複数のプロジェクトに関わり、複数の役割を担っており、専業でない人が多いのです。ですから、そうした相手の日々の業務状況に配慮したコミュニケーション戦略を立てる必要があります。焦らず、あなたからの最初のメールに対する返事が来るまで1ヶ月程度は待ってみましょう。

どのような内容をどのような形で出版するかを決めるのは出版社なのに、この当たり前とも思えることが、意外と忘れられがちです。優れた出版社は、優れたブロガー同様、自分たちの読者層を熟知しています。出版社は特定の市場を対象としており、そこに連なる書店やオンライン流通業者へのアプローチや販売に力を入れ、販売実績を参考に販売戦略を決めていきます。ですから、過去に類似した本を出した出版社だからといって、自分の本を出してくれるとは限りません。この出版社なら興味を持ってくれるはずだと思っても、売り込みがうまくいかないこともあるのです。

私の経験を共有すると、学生向けのライティング指南書『Postgraduate study in Australia: surviving and thriving』という書籍は学生以外の人にも売れるだろうと高をくくって、売り込みをかける前に全部書き上げてしまいました。ところが、これが大間違い。こんな過ち二度としません!宣伝媒体として有効なはずのこのブログのアクセス数を示しても、オーストラリアの出版社で興味を持ってくれるところは1社もありませんでした。結果として、この本の出版計画は何年も棚上げされることとなり、私は自分の過信を職業柄とても恥ずかしく思うこととなりました。

結局、同僚のクリスがヨーロッパの出版社と契約をしてくれたのですが、私が希望していたよりもはるか高い価格が付くこととなりました。『Survive and Thrive』を世に出せたことを嬉しく思っているので、彼の努力には心から感謝していますし、彼の「決して諦めない、希望を捨てない」という姿勢には感心します。私は今でもオーストラリアの出版社にとってこの本の版権はかなりお買い得なものだったはずと信じています。というのも、この本を博士課程への進学を考えている学生に渡せるように常に1部は手元に置いてあると同僚たちが話してくれるからです。この本が大変気に入っているというメッセージをくれた学生もいました。なのに、簡単には出版できなかったのです。

もし出版社との話がうまくいかなかったとしても、学術界で嫌われる人になってはいけません。何としてでも出版社に自分が正しいと認めさせてやる、などと意気込むのは得策ではありません。研究者は議論をすることに長けていますが、外の世界で私たちの議論スタイルは煙たがられます。出版社と議論することと、ジャーナルの編集者と議論することは別と考えましょう。相手がジャーナル編集者であれば、私が信条とするように「求めなければ得られない」で議論してみる価値はあります。しかし、それができるのは通常ジャーナルの編集者が研究者だからであって、出版社は研究者ではないと頭に入れておくことが大切です。自分の本を出してくれと出版社を説得しようとすることは、おそらく時間の無駄です(おそらくお金も失うでしょう)。最悪どこかの出版社のブラックリストに名前が載ってしまうようなことになれば、将来の出版のチャンスを失うことになるかもしれません。

私は、義理の父スティーブがくれた、子育てに関する最高のアドバイスを心に留めています。それは、「礼儀正しくすれば、費用をかけずにたくさんのものを得ることができる」というものです。メールにわざわざ返信してくれた出版社に対してお礼を述べ、次の候補に移りましょう。上手くいかなかったことに拘らずに前に進めば、次はもっとうまく行きます!保障します。

ステップ5:丁寧な企画書を作成する

出版社から学位論文に興味を示してくれた場合、このステップは不要かもしれませんが、従来の学術出版ビジネスにおいては、何らかの形で企画書を作成する必要があります。企画書とは、一般的に以下のような問いかけに対する答えを文書にまとめるものです。

  • なぜこの分野で新しい本を出す必要があると思うのか
  • 自分の本の価値提案(私は「その本が読者に対して何をもたらすか」と考えるようにしています)
  • 各章の概要または大要
  • 自分の本の市場と読者層の簡単な分析(その本が使用される可能性のある教養課程なども含めて)
  • 構成とフォーマット(ページ数、サイズ、製本のタイプなど。この点を著者に聞かずに決める出版社もあります。装丁について版元と議論する苦痛については覚悟しておいてください。)
  • 市場に出ている類似本と自著の主な違い
  • 自分自身について(自分こそ、この本を執筆するのにふさわしいと出版社に確信させるチャンスです)

企画書を書くことは、倫理審査に似ています。アイデアを書き出すことでより具体的になりますが、同時に論理の穴や、素材・資料の足りないところも見えてきます。ですから、企画書の執筆には神経をすり減らされることも多く、出版を投げ出したくなることさえあります(私自身、少なくとも1度それを経験しており、出版社をがっかりさせてしまいました)。

企画書を作成するプロセスは、書籍についての考えを固め、明確な形に整えるには最適です。私はショーン・リーマンとキャサリン・ファース(Research Voodooブログのメンバー)との共著『Your academic writing trouble and how to fix it』(2018年12月23日発売)の企画書を、18ヶ月に及ぶ改訂作業を経て完成させました。

この本の作成にあたって私たちが直面した問題の一つは、担当者が何度も変わったことです。まず、私が大英図書館でコーヒーを飲みながら、ある出版社の編集者にこの本のアイデアを「売った」のですが、このときの合意事項を踏まえた初期の企画書には、あまり詳細な内容が含まれていませんでした。以下は、私たちの最初の売り込みの文言です。

私たちは、3人合わせると20年以上にわたって教鞭を取り、学生たちをサポートしてきた経験を有していますが、その中で、

大学の教授陣からのフィードバックを貰った学生たちが、多くの問題に直面していることが分ってきました。そこで私たちは、学生や同僚の研究者に繰り返しアドバイスしてきた内容を分かりやすくて使いやすい本にまとめたいと考えています。現在の高等教育モデルでは、学生たちには、学術英語のライティング方法を詰め込み式に覚えることが期待されています。自分が本当は何をしているのか、なぜそれをやっているのかをよく理解しないまま、他人のライティングスタイルを真似るのです。私たちは、「なぜ」を説明し、何らかの「欠陥」があると判断された文章を修正するためのヒントやコツを紹介したいと考えています。

残念ながら、最初の担当者は1年ほどで外れてしまい、2番目の編集者はプロジェクトが承認されていたにもかかわらず前の担当ほどプロジェクトに乗り気ではありませんでした。彼女はこの本の前提条件に懐疑的で、私たちは振り出しに戻ることになったのです。そしてスカイプや対面でのミーティングを重ねて企画書を書き直し、やっと完成しかけた頃にその編集者も異動になりました。幸いにして、最後の編集者は私たちに変更を求めず(ありがとうカレン!)、契約の交渉に移ることができました。

企画段階では苦労しましたが、その作業のおかげで、本の内容はほとんど固まりました。一連の作業により、企画書の最終版は最初と比べて、より説得力のある明解なものになったと思っています。

私たちには、研究者や大学院生のライティングをサポートしてきた豊富な実績があり、学生や同僚の研究者にも、同じようなアドバイスを繰り返し行ってきました。そこで、それらのアドバイスをまとめた簡潔で使いやすい本を作りたいと考えています。大学院生を対象としたライティングの本は刊行数が増えていますが、まだまだ十分な需要が見込めます。これは、大学院生が、自分自身の言葉で長い文章を書こうとする際に多くの問題に直面するからだと思われます。現在の高等教育のモデルでは、学生たちは正しい学術英語のライティングを、それが何であるか、なぜそうするのかをよく理解しないまま、他人のスタイルを模倣するという詰め込み式のやり方で学ぶことを期待されています。 このような「徒弟制度式」のライティング教育は、英語の仕組みについての無理解に結びつき、特にフィードバックの与え方や受け取り方についての問題を生み出し続けています。

ライティングに関する問題の多くは簡単に修正できますが、フィードバックを与える研究者自身、何が問題なのかを正確に説明できないことが多く、それがあらゆる研究領域に共通して見受けられる不満の原因にもなっています。こうした学術界にくすぶる不満があまりにも一般的なため、それを冗談にして集めたサイトもあるほどです。「文章の流れが悪い」、「著者の言いたいことが伝わらない」といったフィードバックでは、具体的に何をすべきかが分からず学生たちは混乱してしまいます。

私たちの経験から言えば、英語の仕組みについて基本的に理解するだけでも、学術英語のライティングにおける問題の多くを解決することができます。ライティングに関するほとんどの書籍は上手に書く方法を説明していますが、本書では学生のライティングの問題点を説明することから始めます。本書は、学生が自分の文章の問題を診断し、「欠陥」部分を修正するためのコツを伝授し、学術界における英語の複雑さと多様性を認識するのに役立ててもらえるものとなるでしょう。

本書で紹介するアドバイスは、私たちのブログや教室で実際に効果が試されてきたものであるため、対象読者たちにも有用なはずです。今後、読者からのフィードバックを参考に、アドバイスをよりわかりやすくして、本書の最終的な内容を再構成していきます。2017年の1年間に、アドバイスのさらなる検証を行いつつ、話題性を高めていきます。私たちのサイトの読者は、この本の有用性と質を認めてくれるでしょうし、1冊の書籍に集約されることの利便性も感じてくれるはずです。このような理由で、本書は発売早々にも、多くの方に購入してもらえるものになると確信しています。

皆さんがこの本に興味を持ってくれるだろうとの私たちの考えが現実となることを願っています。続くPart3では、出版社と協力して原稿を準備し、販売するための実務についてお話ししますので、お楽しみに。ところで、皆さんの中で企画書を書いた経験のある方はどのくらいいますか?ご意見やご質問をお寄せ下さい。

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2018/10/03/9134/

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