研究プロジェクトを終わらせるためのマインドセット

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。博士課程で研究を続ける中で、研究が終わらないんじゃないか……と不安になったことがある人は少なくないはずですよね。今回は、ミューバーン准教授が研究プロジェクトを終わらせるために必要な考え方、マインドセットについてのヒントをご紹介します。


ざっくりと言って、人は3つのタイプに分類できると思います。

  1. 設定した時間内に終わらせるつもりで研究プロジェクトを始める人
  2. 終える時期を気にせずにプロジェクトを始める人
  3. 期限を過ぎるまでプロジェクトの期限を意識しない人

もしあなたが博士号取得を目指しているのに上の3つのタイプの2番目に当てはまると自覚されているのであれば、幸運を祈ります。頑張ってください!熱意を持ってじっくりと博士課程に取り組み、自分のスケジュールでそれを完了させるための十分な時間とリソースがあるという人も中にはいるでしょう。しかし普通の人はそれほど恵まれてはおらず、経済的な理由はもちろん、その他さまざまな理由で決められた時間内に研究を終えなければなりません。

昨年、私は「心で叫んでも、研究続行– プロジェクト管理と不確実性」という記事の中で、さまざまな種類のプロジェクトの不確実性に対処する方法を紹介しました。しかし、資金が尽きる前に研究プロジェクトを完了させるには、戦略だけでは足りません。必要なのは「研究プロジェクトを終わらせるためのマインドセット」と呼ぶべきものです。

経験豊富な研究者の多くはこうしたマインドセットを持ち合わせています。彼らは自分たちの仕事に情け容赦もなく実用的なアプローチをとります。生産性がないと判断すれば、躊躇せずに、その時点で行っているやり方を止めることができるのです。そして、こうした研究者の論文が学術雑誌(ジャーナル)に出版されます。というのも、彼らはジャーナルが求めることを過不足なく行っているからです。自分たちの「意見」あるいは視点にこだわらないため、バッサリと(かつ効果的に)自身の論文を編集できます。彼らの特徴は、ひとつの研究を効率的に終わらせ、すぐ次の研究に着手することです。もちろん次の助成を得ることにも抜かりありません。

私は学生の時に、こうした百戦錬磨の研究者たちが立ちはだかっているということに気づきました。私自身、彼らのことを理解していたとは思えませんし、正直かなり批判的でした。学部で成功していたひとりの研究者のことを、研究の手を抜いて、質に気を配っていないとひそかに思っていました。研究自体より、助成金獲得に関心があるように私の目には映っていたのです。実際の作業のほとんどは、働きすぎで不機嫌なリサーチアシスタントたちが担っていました。ところが、私自身10年以上にわたり、限られた予算で多くの関係者やリサーチアシスタントを抱えて研究プロジェクトを遂行してきた今では、この研究者のことが少し理解できるようになりました。彼ほど偏屈ではありませんが、研究について前よりも感情に左右されることなく、冷静で効率的に編集できるようになっています。

古代ローマにおける英雄ユリウス・カエサルが言ったとされる名言に、「経験することはすべてにおける教師である。(Experience is the teacher of all things.)」という言葉がありますが、確かに経験から学べることはたくさんあります。私は、博士号取得の期限が迫る学生たちに話を聞く「5 Years+」というプロジェクトに取り組んできました。さまざまな問題に直面しながら、最後まで博士課程をやり遂げようと決意した学生たちから1週間かけて個々に話を聞くのは刺激的な体験でした。彼らから「プロジェクトを終わらせる」というマインドセットについて多くを学べたと思います。ここで、その一部をご紹介します。

何も「完璧に」やり遂げていないという状況に慣れる

学術研究では何かの問題が解決しても、またすぐに新たな問題が発生します。私たちは皆、非常に難しい問題に取り組んでいます。他の人が、わざわざ解決しようと思わないような難題です。どんなデータ収集や分析をしたとしても「十分」とは言えません。一方で、学術界は真実を重んじ、洗練された完全なものを求める非常に高い基準を設けています。

私たちは皆、狭く険しい道を進みながら、有意義で有益だと思われる結論を導き出さなければなりません。学術界の高い基準は幻想です。プロジェクトにより多くの時間とお金をかければ、より良い結果が出せるかもしません。でも、どこかに気になる点が残ったとしても、ある程度のところで線引きをして、プロジェクトを仕上げる能力を身につけましょう。

他人の意見は参考にならないことがある

話を聞いた学生の多くは、自分の研究について著名な専門家から意見を貰うため、多くの時間を費やしていました。しかしある時点を過ぎると、他人の意見はたとえ専門家のものあっても、役に立たない雑音になってしまうと話してくれた学生もいます。研究者はそれぞれの理論や方法を持っています。専門家の「私ならこうするが――」というアドバイスは、往々にしてあまり役に立たないものなのです。

残念ながら、プロジェクトを行うのは彼らではなく、自分たち自身です。

研究計画を立てる段階を過ぎてしまえば、他人のやり方を聞いてもほとんど意味がなく、不安が募るだけです。ありがたくご意見を賜り、本当に役立つことだけを参考にしましょう。

失敗は必ずしも学習機会ではない

研究とは困難な作業であり、失敗がつきものです。せっかく揃えたデータセットや書き上げた文章を捨てて、一からやり直した経験は誰にでもあるはず。よく、失敗から学ぶとか、失敗は成功のもとと言いますが、実際には、私たちは同じようなミスを何度も繰り返して失敗を重ねてしまうこともあります。

例えば、私は長い数字の羅列を読むのが苦手です。基本的な計算ミスから、日記の日付や時間の書き間違いまで、ありとあらゆることをやらかしています。数字の間違いがトラブルにつながることもしょっちゅうです。ですから、時間がかかっても常に誰かにチェックしてもらうようにしています。私ほど、数字に悩まされている人もいないでしょう。しかし、自分の弱みや限界についてくどくどと考えてばかりいると、自分は頭が悪くて、博士課程にいられる人間じゃないというような誤った考えを持ってしまうかもしれません。

何でミスをしたのかを確認し、解決するためにできることをしたら、次に進むべきです。もし、同じ失敗を繰り返すようなら、防止策を講じておきます。確認プロセスを追加したり、誰かに一緒にやってもらったりすること、または誰かに何らかの作業を代わってもらうといったことが失敗の回避策になります。(もちろん、代行してもらえる作業は限定的です。例えば、ほとんどの大学ではライティングの代行は退学処分でしょう。)

友達との関係を大切にする

「5 Years+」でインタビューした学生たちの話で最も印象的だったのは、彼らが仲間について語る姿でした。彼らは皆、同じ学部の学生と親密な関係を築いて互いに支え合っていました。彼らは「Shut Up & Write」(メンバーで集まり黙って執筆を行うという活動)のグループを作り、互いの草稿を読み合い、時間を設けて感想をぶつけ合っていました。私自身、人生のどの時期より、博士号取得を目指していた間に親しい友人ができたので共感できました。プレッシャーこそが、美しく長続きする絆を育むのです。

他の研究者との関係構築は研究キャリア上の資産となるなど、人脈は手段として語られることが少なくありません。しかし、こうした横のつながりは、学生時代に築くことのできる最も貴重で永続的なものなのです。同じ専門分野の研究者が引退して没交渉になったとしても、学生時代の仲間とは一生寄り添えるのです。

この記事でお伝えしたヒントが、博士課程のさまざまな段階にいる皆さんに役立つことを願っています。

インガー.

追記:博士課程時代からの友人であるジェイソン・ダウンズとPodcastを始めてもうすぐ1年です。最近では、仕事を先延ばしにすること含めたさまざまなことについて話しています。複数のプラットフォームでお聞きいただけますので、詳しくはOn the RegのPodcastぺージを見てみて下さい。

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2021/06/02/how-to-finish-your-research-project-on-time/

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