カテゴリーアーカイブズ: 世界のコトバ事情

Created 2017 06 15

Q&Aセッションを効果的に行う6つのポイント

学会などでの発表は、自身の研究を他の研究者に知ってもらい、彼らからの意見を得るのに理想的な場です。発表する論文をショートペーパー(ページ数の少ない論文)とするか、またはフルペーパー(ある程度のページ数のある論文)とするかを含め、発表のやり方にもいろいろあります。ラウンドテーブルやパネルディスカッション、ワークショップ、ポスター発表もよく見られる形式です。ただし、いずれの形式にせよ、発表に伴うQ&Aセッション(質疑応答)の準備をしておくことは非常に重要です。質問に対して説得力のある回答ができれば、聞き手に響きますし、自身の専門性を示せるいい機会にもなります。同時に、発表内容を確実に印象に残すことができるでしょう。とはいえ、ベテランの研究者でも不安を感じることの多いQ&Aセッション。成功させるためのポイントを見ていきましょう。

Q&Aセッションとは

Q&Aセッションとは、聞き手が直接発表者に質問できる時間で、発表の最後に設けられるのが一般的です。質問内容は、発表の中で触れた特定の内容についてかもしれませんし、関連する研究、最近のニュース、もしくは研究テーマの背景についてかもしれない……そうです、質問内容がわからないという点がQ&Aセッションのもっとも難しい点なのです。発表に慣れている研究者でもQ&Aセッションを恐れる理由はここにあるのかもしれません。ただ、逆にQ&Aセッションを聞き手とコミュニケーションを取り、発表では触れられなかった、もしくは深く言及できなかった点を説明できるチャンスととらえればどうでしょうか。質問されることで、研究内容について気づかなかった見方や補強すべき点を発見できる可能性もある有益な機会ととらえることもできます。

効果的なQ&Aセッションを行うポイント

Q&Aセッションを効果的に行うためのポイントはいくつかあります。

・想定問答を作成する
発表の準備をする際に、一緒にQ&Aセッションの準備もしておきましょう。過去の研究発表における経験などを踏まえ、聞かれそうな質問を想定し、回答を用意しておくのです。

・明確に線引きをする
実際のQ&Aセッションの際は、質問のために設けた時間であること、その時間は限られていることを明言しておきましょう。質問者が自由に自分の意見を述べる、発表をするなどの自由な時間ではないということを理解してもらいます。

・質問のとっかかりを作る
もし質問が出てこなければ、自分から例を挙げて質問しやすい雰囲気を作ってみましょう。例えば、「私がよく聞かれる質問は…」といった具合です。こうすることで、質問してほしい方向を示すこともできます。

・わからないことは正直に
演台上で答えられない質問をされると神経をすり減らすものです。でも心配いりません。もし答えがわからなければ、その質問は研究の範囲を超えているとの見解や、もしくは、その解を得るためにデータを収集しているところだというような状況を率直に伝えればいいのです。取り繕ってあいまいな回答をするよりも断然いいでしょう。

・常に全員に向かって回答する
回答する際、質問者だけに向かって話さないようにしてください。あくまでもQ&Aセッションは聞き手全員が参加している場です。質問をわかりやすく言い換える、聞き手全員に視線を配るなどして話に興味を持ち続けてもらうようにしましょう。

・異なる意見を受け入れる
もし自身の意見に異を唱える人がいても戦わないでください。相手の意見を認め、「私の研究では異なる結果が出ています」、「ご意見をいただきありがとうございます。この点について考え方の異なる方がいることも理解しています。では次の方」といった具合で対応しましょう。

Q&Aセッションは、自身の研究に興味を持ってくれた人たちとコミュニケーションをとれる貴重な場です。準備をして臨み、リラックスして、楽しみましょう。


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論文の自主撤回は研究者の経歴にマイナスか?

自分の研究の間違いに気づいた時、沈みこむような思いを感じた経験はありますか?例えば、実験を続けてきたサンプルのラベルに付け間違いが起こってしまい、細胞株が想定していたものとは異なっていたとしたら・・・・・・既に論文にして発表した実験の結論は、正しくなかったことになります。まったく想定外のこととは言え、自分の研究成果が学術界を意図せずミスリードしてしまうだけでなく、自分の実験を再現するために他の研究者の時間と労力を無駄にさせてしまうことになることでしょう。さらなる悪影響が生じる前に、論文を自主的に撤回しますか?論文を撤回すると、誤った研究結果を発表したことが学術界の知るところとなるほか、研究者としての経歴にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

論文撤回の影響

研究結果を発表・報告することを目的に出版された論文を修正する方法には、訂正と撤回があります。訂正はあくまでも修正のレベルであり、論文に記された実験の結果の信頼性が疑われるような深刻な間違いなどが見つかった場合には、撤回となります。過去における論文の撤回の多くは研究者による不正に伴うものであり、学術雑誌(ジャーナル)の編集者が撤回を行います。一方、研究者が自分の間違いや重大な問題に気づき、自ら編集者に論文撤回を申請することもあります。自分の非を認めて自主的に論文を撤回することが歓迎されたとしても、不名誉な印象はつきまといます。今後、撤回論文の研究者が発表する論文を他の研究者は信頼して引用してくれるでしょうか? 研究資金の獲得に影響する恐れはあるのでしょうか?学術界で職を得ることができるでしょうか?論文撤回が否定的に見られる以上、不安は山積みです。

有難いことに学術界は、意図しない誤りによる撤回には寛容な姿勢を示す傾向があります。撤回を通じて研究者は誤りから学ぶことができ、同時に、ジャーナルは不適切な論文を除外することができるので、関係者にとっては有益です。従って、長期的に見れば、自主撤回を推奨することは学術界のためになるのです。

研究履歴に「論文を自主撤回した」記録が残ることで疑念を持たれるとしても、逆に自分の長所に変えてしまうこともできます。つまり、自主撤回は、その研究論文の執筆者が次のような資質を備えていると言えるのです。

  1. 誠実であること
  2. 自分を省みることができ(自省的)、自分の研究も批判的にみることができること
  3. 自分の考えに対し、批判を聞く耳があること
  4. 自分の誤りから学べること

自主撤回は推奨されるべき

発表した論文の間違いを執筆者が認めて撤回しなければ、その誤りは修正されないままとなってしまいます。そう考えれば、論文の撤回は推奨されてしかるべきことでしょう。とはいえ、研究不正を隠すため、あるいは不正行為に基づく研究を発表したとの疑惑を回避するために自主撤回することも考えられます。一、二度程度であれば自主撤回を悪用して不正を切り抜ける不誠実な執筆者がいるかもしれませんが、度重なれば学術界から疑念を持たれることになります。

不適切な研究論文が淘汰されることは望ましいことです。そして、学術誌は確実に自主撤回の悪用を最小限に抑える仕組みを考慮しつつ撤回に関する方針を作成することでしょう。学術界にとって自主撤回は確かな利益となりえるのです。

自主撤回するには

ほとんどの著者は論文の撤回を自ら率先して行いたいと思いません。それでも間違いに気づいたら、学術雑誌の定める撤回のガイドラインに従って申請を行いましょう。ガイドラインとは、学術出版に従事する人たちが一定の質を確保し、その分野での一貫性を保持することに資するものです。学術雑誌により多少の違いはありますが、全般的な考え方は同じです。撤回の場合の手順は次の通りとなります。

  1. 共著者がいれば、その全員に、間違いと自主撤回の意向を伝える。
  2. 学術雑誌の編集者に対し、自主撤回する理由を文書で伝える。
  3. 編集者から、撤回ガイドラインに従った手順を教えてもらう。
  4. 状況によっては、法的な助言を受ける。当該論文の出版に関与した研究者や編集者の全員で自主撤回を決断する。

自らの誤りを告白した研究者のその後

自主撤回した後も、研究者としての活動は続きます。

論文の撤回は、研究者の将来のキャリアに悪影響を及ぼす否定的なものと捉えられてきました。しかし、ハーバード医学大学の学生であるNathan Georgetteのように、最初に執筆した研究論文を自主撤回した経験を有していても、彼の誠実な行動がその後のキャリアにマイナスの影響を及ぼすことはなかったという例もあります。また、自主撤回からさらに一歩進んだ行動を起こした研究者もいます。カリフォルニア大学のPamela Ronaldは、彼女が行っていた細菌株の実験においてラベル付けを誤ったため、分析結果の信頼性を失っていました。彼女は、該当論文を自主撤回しただけに留まらず、学会でそのミスについて発表したのです。この発表は、彼女にとって生涯最大の試練でしたが、学会に参加した科学者たちからの称賛を得たのです。

誰でも間違いを起こす可能性はありますが、その間違いを正すことが大切です。悪意のない誤りによる間違いの撤回であれば、キャリア上に深刻な影響をもたらすことはありません。真摯な態度で研究を続け、学術研究の利益・発展のために行動することが何よりも求められているのです。

論文撤回の状況

論文撤回を監視するサイト「Retraction Watch」の発表によると、1年間に学術雑誌から撤回される論文は、500~600本にもおよびます。しかも、過去数十年間にその数は確実に増えてきています。2000年以前には年100本以下だった撤回数が、2014年には約1,000本に増加。撤回される論文の割合は大きく変わっていないので、発表される論文の増加に応じて、撤回数が増えていると言えるでしょう。これだけ多くの論文が撤回されていることを鑑みれば、これらが撤回されずに放置されていた場合の弊害が非常に大きなものになることは想像に難くありません。間違いに気が付いた論文執筆者は、躊躇することなくできるだけ速やかに撤回すべきでしょう。

学術文献が信頼できるものであることが、全ての人にとって極めて重要なのです。


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指標に関するレポート『Profiles not Metrics』

クラリベイト・アナリティクスの学術情報部門である科学情報研究所(Institute of Scientific Information:ISI)は、2019年1月30日、『Global Research Report – Profiles, not Metrics』を発表しました。

研究の影響力(インパクト)を探ることは、学術出版社だけでなく研究者自身にとってもきわめて重要です。そこで、学術雑誌(ジャーナル)または出版された研究の影響力を計測するために、定量的な指標「メトリクス」が使われます。例えば、出版された論文が他の研究に引用された回数を計測するのはメトリクスのひとつです。学術出版および研究において広く利用されているメトリクスには、学術雑誌ベースと著者ベースの2種類があります。学術雑誌ベースのメトリクスは、掲載論文の平均引用回数を長年にわたって算出しているもので、学術界における学術雑誌の影響力を計測するのに役立ちます。一方、著者ベースのメトリクスは、学術界における著者の影響力を計測するものです。しかし、学術界はこれらのメトリクスが正しく利用されているか疑問を呈しており、今回発表されたレポートには、メトリクスについての考察が記されています。

『Profiles, not Metrics』が示すメトリクスの有効性

本レポートは、学術出版におけるメトリクスの有効性を取り上げると共に、学術雑誌または著者の学術界への影響力を測定することの短所について考察しています。

このレポートの注目すべきトピックは、さまざまなデータを用いて指標(h指数、ジャーナルインパクトファクターなど)を作成する過程で、研究者/著者、学術雑誌、研究機関、大学に関する情報が抜け落ちてしまうため、完璧な分析情報が提示できていないことを示している点です。その結果、著者や機関の影響力の計測が不十分となってしまいます。レポートは、従来のメトリクスに替わる別のアプローチのほうが影響力の算出には有効だと提案しています。

研究者
レポートは、研究者を評価する指標としてh指数は一般的すぎると述べています。例えば、h指数は複数の分野に及ぶ研究者の影響力を考慮することができていないとしています。代替手段として、マックス・プランク研究所のLutz BornmannとRobin Haunschildによって提唱された、個々の研究者の論文出版数と引用された回数といったビブリオメトリクス(計量書誌学)的データを視覚化する新しいアプローチ「beam-plot」があげられており、レポート内では2つの指標の比較が記されています。

学術雑誌
学術雑誌に掲載された論文が特定の年/期間内に引用された回数の平均値を示すジャーナルインパクトファクター(Journal Impact Factor:JIF)だけに絞りこまず、引用データから算出された年間統計(インパクトファクターも含まれる)を提供しているデータベースであるジャーナルサイテーションレポート(Journal Citation Reports:JCR)も参照することの重要性を強調しています。

研究機関
本レポートでは適切なデータの範囲を広げることを重視しており、全体的なインパクト分析(Impact Profiles)のほうが平均引用インパクト(Average Citation Impact)よりも明確かつ、綿密な情報を与えてくれるとしています。

大学
大学の世界ランキングは、大学の個々の活動や多様性の考慮に欠けた単なるリスト上の位置付けに過ぎないため、大学による多元的な研究の功績(Research Footprint)に注目することを提案しています。

このように、本レポートは、新しい情報、あるいは新しい研究形態について提案し、その活用を促すとともに、従来のメトリクスの必要性が薄れてきつつあることを示しています。

メトリクスの利用における注意

クラリベイト・アナリティクスの科学情報研究所ISIのディレクターであるジョナサン・アダムス(Jonathan Adams)は、メトリクスに関する研究の重要性について「必要以上に単純化された、もしくは誤用されているすべてのメトリクスの代わりとなる指標があり、それらは一般的に、正確かつ信頼のおけるデータ分析に基づいています。データをより俯瞰的に見ることで新たな特徴を見つけ、理解を深め、さらに研究活動を読み取る力を向上させることができるのです。」と述べています。ISIは、さまざまな分析手法とそれらの短所を検証し、それを補う別の方法を提案しています。そしてこの研究が、知識を広げ、さらなるイノベーションを推進する学術研究へのアクセスを可能にするのです。

学術研究の影響力の分析や評価は重要で、そのためのメトリクス(定量的な指標)は不可欠です。しかし、メトリクスの利用頻度が増し、技術的な革新が進む中で新たな手法が登場する一方、従来の手法の短所や誤用が指摘されるようになりました。メトリクスの誤用が危惧されていることに留意するとともに、Profiles not Metricsに提案されているような代替手法の利用を検討するなどが必要とされているようです。


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リジェクトへの対処法―起死回生のチャンスを掴む

無料

2019年7月25日(水)10~11時(日本時間)

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影響力のあるジャーナルへの論文掲載は、すべての研究者の目標です。エナゴアカデミーが開催する次回オンラインセミナーでは、リジェクトを乗り越えるためのベストプラクティスと査読者コメントへの効果的な回答方法をお伝えします。

本セミナーのトピック

  • 査読プロセス
  • リジェクトされる要因
  • 不採用通知によくみられる不採用の理由と、不採用通知のサンプル
  • 査読者コメントの理解と効果的な回答
  • リジェクトを回避するためのポイント

講師について

田口善弘 教授(中央大学理工学部物理学科)

1961年東京生まれ。1988年東京工業大学理工学研究科卒。理学博士。2006年より現職。専門はバイオインフォマティクスおよび非線形物理学。30年以上の研究を通じて100を超える論文を発表。また過去5年間だけでも『BMC Medical Genomics』『Medicine (Lippincott Williams & Wilkins journal)』『PLoS ONE』『IPSJ Transaction on Bioinformatics』など50以上の国際ジャーナルにおいて査読を担当。バイオインフォマティクスの国際学会「InCob」では、2014年と2017年に最優秀論文賞、 2018年には最優秀口頭発表賞を受賞するなど数多くの受賞歴を持つ。著作も多数あり、『砂時計の不思議』では第12回講談社出版文化賞科学出版賞を受賞。
※クラウドファウンディング中です。AI創薬における「教師なし学習による変数選択」の活用を広げたい!https://academist-cf.com/projects/122?lang=ja

査読レポートの公表は査読に影響するか?

研究者が実績を積み、経歴を高めていくために、論文の発表は必須です。しかし、論文を発表するには、査読プロセスで採択されなければなりません。査読の結果、学術雑誌(ジャーナル)の編集部がどのように掲載論文を選定しているのか疑問を感じている研究者が多かったことから、一部のジャーナルは査読の結果を「査読レポート」として公表することで応えています。

査読レポートは、査読の依頼を受けた研究者が、専門家の立場から投稿論文に対する意見や所見を示すもので、編集部が該当論文を出版するかどうかの判定を左右します。編集部が査読レポートを著者に送り、必要な修正を求めることもありますが、通常は非公開とされてきた査読レポートをプロセスの透明性向上のために公表することは、査読者の推薦判断に影響を及ぼすのではないかという新たな疑問が生じています。

今回は、査読レポートの公開に関する調査研究の結果を紹介します。

査読レポートの公表に関する調査研究

エルゼビアが発行する5誌を対象に、2010年から2017年にかけて査読レポートの公表が査読者の対応に影響するかを調査した結果がNature Communicationsに掲載されました。この調査にあたったのは、スウェーデンのリンネ大学、スペインのバレンシア大学、イタリアのミラノ大学、オランダのエルゼビア社の研究者のチームです。調査は次の4項目への査読レポートの影響に重点が置かれました。

1. 査読者が査読を引き受けるか否かの傾向
2. 論文を査読した結果の推薦判断
3. 査読に要する期間
4. 査読レポートの論調

この調査では、偏り(バイアス)を極力抑えるため、以下に配慮しています。

  • インパクトファクター、投稿数、投稿動態などが近似のジャーナルを調査対象とした。
  • 査読者の動向の変化を、査読レポートの公表を始める前と後で比較すると同時に、査読結果を公表しない対照グループを設定した。
  • 論文執筆者と査読者に対し、調査に関する説明を十分に行った。
  • 査読者から、査読レポートを公表することにつき了承を得た。
  • 査読者は、オプションで氏名を公表しない(匿名とする)ことを選択できるようにした。
  • 調査では、最初の査読のみを対象とし(つまり2回目の査読であるラウンド2を対象外として)、査読者に対する他の査読結果の影響を排除した。
  • オープンアクセスと購読限定のジャーナルの両方を対象とした。

調査研究の結果

査読レポートを公表する前後で比較した統計解析の結果、以下の点が判明しました。

  1. 査読者が査読を引き受ける傾向:
    査読レポートが公表される場合でも、査読者が査読を辞退する傾向は見られませんでした。査読者が論文の査読を引き受ける割合は43.6%から30.9%に下がっていたものの、対照グループでも同じ傾向が見られたことから、査読を引き受ける率の変化は、公表の影響ではなく、全般的な傾向だったと考えられます。
  2. 採択の推薦判断(結果):
    全般的に、査読レポートの公表によって、査読者による採択の推薦判断、つまり、投稿論文を受理したいか却下したいかの判定に変化は生じませんでした。推薦結果に唯一差があった要素として挙げられるのは、査読者の立場の違いです。査読者が若手や学術界に所属しない場合は、教授や博士号取得者に比べて、より前向きな判定を行う傾向が認められました。
  3. 査読期間:
    査読レポートが公表される以前は、査読者はレポートの作成に要する時間を特に気にしていないように見えましたが、レポートが公表されるようになると、レポートの表現と構成により長く時間をかけているようでした。
  4. 査読レポートの論調:
    査読レポートが、限られたジャーナル編集部だけでなく、より広範な読者の目にさらされるようになれば、レポートの書きぶりに変化が生じると予想されていました。しかし、結果的には、レポートの論調はやや前向きにはなったものの、特に大きな差は見られませんでした。

査読レポートを公開する際の留意点

予備研究の結果を考慮すると、査読レポートの公表は、査読プロセスの透明性の向上に十分に機能しうる策だと思われます。ただし、留意すべきこととして、次の項目があげられます。

  1. 今回の調査は予備研究であり、全ての分野を含めた調査研究が必要
  2. 査読レポートの公開は、論文の掲載前に査読者、編集者、論文執筆者の間で行われるやり取りよりも、高い透明性を示すことができる
  3. 自分の氏名が公表されなければ、査読者は自分の査読レポートが公表されることに対して抵抗感が少ないことから、査読者の匿名性を確保することは重要な要素となる
  4. 他方、査読者の氏名を明らかにすることは、ジャーナルが利益相反の追及を受けることを防ぐことに繋がる

査読レポートを公開することのメリット

査読レポートを公表することは、学術研究界の全ての関係者にとって、大きなメリットをもたらす可能性があります。上に述べた透明性の確保だけでなく、査読レポートから論文執筆者が学べることは、論文の質の向上に役立つでしょう。その結果、ジャーナルは、より質の高い投稿論文を受け取ることができるようになります。査読レポート公表の動きは、学術界の全ての関係者にとって歓迎すべきことなのです。


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17 July, 2019; 8:30 – 9:30 AM (EDT)

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Are you uncertain about your English writing skills? Do you need help to communicate your research effectively? Researchers often face challenges in publishing their work in international peer-reviewed journals due to language constraints. Getting assistance from a professionally experienced editor helps you present your data clearly and eliminate the common language and grammar errors. Through this webinar, we aim to highlight how professional editors with technical and subject-matter expertise can help ESL researchers in simplifying their publication journey. Through this webinar, researchers will learn:

  • Overview of primary challenges faced by ESL researchers in academic writing including reasons for desk-rejections
  • Common examples of errors related to English language and grammar, subject matter, and writing style
  • Role of professional editors in improvising manuscripts for meeting publication specifications
  • How Enago can help researchers decrease the odds of journal rejection

About the Speakers Ishan Dave & Aditi Prabhu BELS-certified Editors and Publication Consultants, Enago

  • Ishan has been working closely with ESL researchers for almost a decade now, helping them getting published in international peer-reviewed journals. He also has experience in organizing and conducting author workshops focusing on various author training initiatives that Enago pursues with its partner universities.
  • At Enago, he has helped establish editorial teams and mentored team members on several technical and language-related concepts related to editing. He has also worked extensively with various pre- and post-publication divisions of publishers and journals, and have assisted them in resolving publication-related challenges.
  • Aditi has been extensively involved in editing and analyzing scientific documents submitted by ESL authors, and getting them published successfully in world-class peer-reviewed journals.
  • She currently manages the Editorial Operations and Quality divisions at Enago. Her current role involves mentoring editors on various aspects related to language, grammar, content, and style; analyzing client feedback; and helping ESL authors with next steps that will aid in successful publication.

データ利用可能性ステートメント(DAS)の重要性

公開された研究論文の根拠となっているデータの公開は、学術研究にとって不可欠なのか?そもそも、データは公開されるべきなのか?論文のオンライン化が広がるにつれ、研究データのオープン化に関する議論も活発化しています。知識の共有を促進することにより新たな知見を生み出し、科学の発展に大いに寄与することができる――との考え方を背景に、学術界でもデータ共有と利用促進が進められており、Data Availability Statement(データ利用可能性ステートメント、以下DAS)が注目されています。今回は、このDASについてご紹介します。

データ利用可能性ステートメント(DAS)とは

DASとは

公開された研究論文のオリジナルデータを著者以外がどのように入手および利用可能かを示すものです。ここでいうオリジナルデータには、生データや加工データも含まれ、また状況に応じてデータへのリンク情報や引用情報(識別番号など)も対象となります。

なぜ論文中にDASを記載する必要があるのか

著者がDASを論文中に記載することで、研究に使用したデータセットを著者以外も効率的に再利用・再分析することが可能になり、研究の再現性が高まり、ひいては研究分野の更なる発展へとつながっていくことが期待できます。

DASの掲載箇所

DASの掲載箇所は学術雑誌(ジャーナル)の書式にもよりますが、たいていは参考文献の前に記載されることが多いようです。

DAS情報の形式

著者にはデータの登録を促進し、利用者には再利用しやすいよう、DASによる情報公開はFAIR原則と呼ばれるデータ共有の基準に従って行われます。FAIRとは、Finable(見つけられる)、Accessible(アクセスできる)、Interoperable(相互運用できる)、Reusable(再利用できる)の頭文字を取ったもので、データ公開の実施方法を示しています。基本的に、研究データは誰もが簡単にダウンロードして再利用・再分析しやすいように管理・共有されていることが求められており、DASは以下のような形式で表すことができます。

・要請に応じてデータを提供する
倫理的な理由から、公開に適さないデータは、要請に応じてのみ利用可能とすることができます。例えば、被験者から入手した情報をすべて開示することができなくても、病院などの第三者から入手した情報によっては開示できるものもあるような場合、情報提供が可能な人について情報開示が制限される理由と詳細を明記する必要があります。

・データを補足文書や論文中に記載する
データを補足文書あるいは論文中に記載します。ジャーナルでは、補足文書にデータをまとめるのが一般的です。

・データを公開リポジトリに登録する
データをリポジトリに登録して入手可能とする場合には、該当するレポジトリのリンク情報などを明示する必要があります。ただし、そのリポジトリが、研究分野に適したものでありつつ、汎用性があること、さらに、きちんと管理され、長期にわたってアクセスが可能であるといった信頼性を備えていることが重要です。

・論文に図表の元データを挿入する
図表の元データを論文の中に記載することは一般的ではありませんが、図表を分析したい研究者にとって元データは大変役に立ちます。

DASの有用性

研究データの共有が、科学の進歩にとって有意義であることはすでに実証済みです。たとえば、米国国立生物工学情報センター(NCBI)によってインターネット上に公開されているヌクレオチド・データベースはその良い例で、DNA塩基配列のデータが公開されているおかげで、そのデータを活用したさらなる関連研究が次々に進められ、研究分野の発展へとつながっています。このような傾向は医療分野において特に顕著です。研究データの共有により、再現性が効率的に高まれば、医療技術の進歩の加速が期待されます。

Natureおよび関連誌によっては、既に2016年9月からDASを論文中に記載することを義務化しています。DASの掲載を義務付けているジャーナルの多くは、当該研究分野の基準に適した推奨レポジトリ情報のリストを提示しているので、参考にするとよいでしょう。また、DAS導入の動きは学術雑誌に留まりません。研究助成機関などでもDASを導入あるいは義務付けており、研究者が自らのデータの保存や積極的な共有を進めるように求めています。ここでもデータの共有化を図ることにより、研究の再現性、透明性を向上させること、研究データの再利用による研究の効率化、加速化が求められているのです。

DASのコンセプトは今後ますます普及していくことが予想され、対応が求められることでしょう。

科学における仮説を立てるときの注意

科学における仮説とは、研究における「問い(命題)」を設定し、予想される「結論」を記述するものです。仮説の設定は、科学実験の基盤をなす研究手法に組込まれているものなので、注意深く厳密に行う必要があります。仮説に、たとえ小さくとも不備な点や欠陥があると、実験に悪い影響が生じかねません。よって、堅固で検証可能な仮説を立てることが重要です。検証可能な仮説とは、実験によってその仮説が正しいか間違っているかを証明することができることを意味します。

検証可能な仮説の重要性

科学的な方法に基づいて、実験を計画して実行するには、検証可能な仮説が必要です。科学的な仮説が検証可能であると判断するためには、次のような基準を満たしていることが不可欠です。

1. 仮説が正しいことが証明される可能性があること(検証可能であること)。
2. 仮説が誤りであることが証明される可能性があること(反証可能であること)。
3. 仮説の結論に再現性があること。

こうした基準を満たしていなければ、仮説とその結論は曖昧なものとなってしまい、実験の結果としても、なんら有意義なことを立証も反証もできないことになってしまいます。

有効な仮説をどのように設定するか

検証可能な仮説を立てることは、簡単ではありません。科学的な実験の目的と、予測される結果について、明確に示すものであることが求められます。的確で説得力がある仮説を組み立てるために、考慮すべき重要なことがいくつかあります。

1. 答えを導こうとしている問題を定義する

  • 仮説によって、実験の命題と注目点が明確に定義されている必要があります。

2. できるだけ“if-then”論法で記述する

  • 仮説は「もし~であれば」という“if-then”論法、つまり、もし(if)特定の行為を行ったら、その結果(then)特定の結論が導き出せる――という条件と結論の関係を示せるように記述します 。“if-then”論法で記述できないのであれば、立証も反証もできない命題となってしまうからです。

3. 変数を特定する

  • 科学実験における仮説とは、独立変数(推定される要因)と従属変数(検証の対象として観察される結果)を特定し、両者の因果関係を検証するものです。従属変数の変化は、独立変数の変化の結果に依存する、あるいはそれにより決定されるのです。例として、次の仮説をみてみましょう。

ある地域に多数の石炭工場(独立変数)があれば、その地域の水質汚染(従属変数)は悪化する。独立変数が変化(さらに石炭工場を建設)した場合、従属変数(水質汚染の程度)は変化する。

上に述べた仮説の組み立てにおける重要な項目を軽視してはいけません。実験とその結果の有効性は、仮説が堅固で検証可能であることに依拠しているのです。強固で検証可能な仮説を立てることには、いくつかの利点があります。研究の結果について、注意深く、明確に考える力が身に付くだけでなく、問題が含んでいる意味や、関与している他の変数を理解することも可能になります。また、先行研究の情報を収集し、それに基づいて的確な予測を立てる力も得られます。このように、仮説を立てることは、研究にとって大きな価値があるのです。

検証可能な仮説の例

では、検証可能な仮説とはどのようなものか。例をあげてみます。

  • 授業に出席する学生は、授業をサボる学生より成績が良い。
    授業に出席する学生グループと出席しない学生グループの成績を比較することができるので、検証が可能。
  • 紫外線を多く浴びる人は、一般的な量の紫外線を浴びる人に比べてガンの発生率が高い。
    紫外線を高レベルに浴びた人を見つけて、そのグループのガン発生率を平均的な人と比較することができるので、検証可能。
  • 暗室に閉じ込められた人は、赤外線がいつ照射されたか分からない。
    実際に人を暗室に入れて、赤外線を照射し、その部屋の中の被験者に赤外線が照射されているか否か質問することができるので、検証可能。一方、具体的な主張がないもの、表現が曖昧な物事、あるいは定義のないことについて述べられた意見のようなものについては、検証ができません。さらに、仮説が「正しい」としてもなぜ「正しい」のか説明するには、具体的な調査や研究が必要なこともあります。

科学における仮説とは、検証することが可能であると共に、その仮説が間違いだったときには反証することが可能な、根拠のある推測のことであると覚えておいてください。

検証可能な仮説かのチェック

仮説は科学的な実験の土台となるものです。実験の手順に取り掛かる前に、自分の立てた仮説が明確な根拠に基づく検証可能なものであるかを確認しましょう。チェックリストを使って、確認してみてください。

1. 仮説の記述は明確であり焦点が絞られているか?
2. 研究命題を取り入れた仮説となっているか?
3. 仮説に独立変数と従属変数が入っているか? 両変数は容易に特定できるか?
4. 仮説は、実験で検証できるものか?
5. 仮説は、実験で起こると推定される事象を説明しているか?

このチェック項目を見直すことで仮説の弱い部分や不備な点を発見し、必要な修正を加えるのに役立てください。

アンケート調査を行うときの要点

ほとんどの調査研究では、データの分析が必要です。アンケート調査は、必要な情報を収集するために有効な方法です。例えば、薬物治療の効果を調べるための臨床研究や、人々がアレルギーにどのように対処しているかを知るための統計分析などに利用されます。こうしたアンケート調査によって新しい事象が見つかり、新規の研究に繋がり、ひいては新たな解決策が開発されることになるかもしれません。

アンケート調査を行うときに留意すべきこと

適切な科学的調査のためのアンケートを作成するには、次の点に留意することが必要です。

1. 調査のテーマと収集すべきデータの項目を明確にすること
2. 明瞭で、一貫性を備えた調査様式を準備すること
3. 回答者に対する説明、依頼は明瞭かつ簡潔に行うこと
4. 質問は簡明な文書で記すこと
5. 質問および説明文に書き込む用語の定義は明確に示すこと

こうした点を心がけることで、調査を円滑かつ回答におけるミスを少なく進めることができるでしょう。

アンケート調査の強みと弱み

アンケートの質問表の作成には、多くの下調べや準備時間が必要となります。しかし、貴重な情報が収集できれば、その結果を分析し、さらなる研究のアイデアが引き出せる可能性を秘めています。ただし、アンケート調査には強みがある反面、課題もあることを認識しておく必要があります。以下に、強みと弱みを挙げてみます。

強み

  1. コスト・パフォーマンス:
    よく練られた質問票を作成することで、調査に要する時間と費用を節約することができます。特にオンラインでのアンケート調査は、用紙の印刷や発送の負担が削減できます。
  2. 扱いやすさ:
    どのような研究においても、収集するデータ量が増えれば、分析や予測がより容易になる傾向があります。オンライン調査の実施やツールを活用することで、よりデータの収集がしやすくなっています。例えばSurvey Anyplaceのように、インターネット上で対話型のアンケートを行えるソフトウェアもあり、大勢の人から回答を集める調査が容易になっています。また、アンケートは、研究者が自分の目的に応じて内容や実施方法を決められるという柔軟性があります。
  3. 調査対象者の数の多少にかかわらず使える:
    アンケート調査は、調査対象者の数にかかわらず少人数でも実施することができます。例えば地域に特化した事象に関する調査を少人数に対して実施する、または、広範囲におよぶ事象に関する調査を大人数に行うなど、収集したいデータに応じた調査規模に適用できます。

弱み

  1. 回答の問題:
    ● 不誠実な回答:回答者が本当に正直に回答しているか、実施者側には分かりません。意図的な回答をする場合もありえるでしょう。回答者が自分の社会的役割を意識したり、自分のプライバシーを守ろうとしたりした場合など、こうした回答になりえます。
    ● 感情に引きずられた回答:回答者の感情によって、質問の意図が正しく伝わらず、結果として回答がゆがめられることがあります。
    ● バイアスを含んだ回答:回答者にとって質問内容や、質問の背景にある考え方が好ましいものでない場合、自分の先入観に沿うように回答を意図的に変えることがあります。
  2. 解釈の問題:
    作成者が意図した質問の内容が回答者に異なった解釈をされることは課題のひとつです。解釈が異なれば回答が的外れとなり、調査結果がテーマからずれてしまったり、主観的過ぎるものになったりしてしまいます。
  3. 個別対応への限界:
    アンケートの質問項目を完全に個別対応することはできません。よって質問によっては、回答者が自分には関係ないと感じるものもあるでしょう。回答者が回答しなかったり/できなかったり、データとしては使えないものにならない回答となることもあります。

アンケート調査における駄目な質問

アンケート調査の成功の可否は適切で有効なアンケート調査票の作成にかかっています。悪い質問には悪いデータしか得られません。では、良い質問を作成するにはどうすればよいのでしょうか?アンケート調査票の作成に役立つ具体的な書き方を説明しているウェブサイトやセミナーがあるので、参考にするとよいでしょう。そして、下の3つの駄目な質問に注意して質問票を作成しましょう。

  1. 多すぎる質問:
    質問項目が多すぎると、回答者は関心を維持できず、すべての質問に対する回答が得られないことになりかねません。
  2. 不明瞭な質問:
    質問文は簡潔に。また、誘導尋問や自由回答式の質問にならないようにします。
  3. バイアスを生じさせる質問:
    調査は客観的であるべきです。質問は全て曖昧さがなく、中立的で、回答者が客観的に回答できるようにすべきです。

ヘルスケア領域におけるアンケート調査:症例報告書

最後にヘルスケア領域におけるアンケート調査の活用と関連する動きを紹介します。

科学研究の中でもよくアンケート調査が活用されるものに、医薬品・医療機器の開発のための治療について情報を収集する目的で行われるものがあります。治験に参加した被験者を対象にアンケート調査を行い、収集した結果を基に症例報告書(Case Report Form: CRF)が作成されます。CRFの作成には所定の雛形や指示書OpenClinica Reference Guideなどの情報が参考になります。最近は電子化も進んでいますが、紙媒体または電子媒体のいずれの症例報告書も保存されます。臨床試験のデータを蓄積するにあたり、世界中で共通のデータ標準が用いられるようにとの取り組みが進んでいます。これに乗り出したのがCDISCS(Clinical Data Interchange Standards Consortium)と呼ばれる組織です。世界的な標準開発機関と連携し、ヘルスケア領域におけるデータ項目の国際的標準化を進めています。CDISCSのデータ標準に関連する文書や指針はウェブサイトで無料公開されていますし、日本国内で行われるCDISCS関連のイベント情報なども入手可能です。こうした標準に準じて調査を行えば、収集する情報の質と有効性を確保することに役立つでしょう。

アンケート調査は、さまざまな分野の研究者にとって、大変有用なデータ収集の方法です。いろいろな場面で使用されており、多くの研究者が慣れ親しんでいることでしょう。しかし、意外と気づきにくい落とし穴もあるのです。適切で効果的なアンケート調査を実施するための要点を改めて確認し、レベルアップすることで調査実施者と回答者の時間と労力をできるだけ削減し、効率的に調査研究が進むように心がけてください。

オーサーシップにまでジェンダー格差が!?

学術雑誌(ジャーナル)には、オーサーシップについての倫理的な問題が常に存在しつづけています。特に、論文著者が複数の場合には、論文著作者が適正に公表されない「不適切なオーサーシップ」問題が顕著です。さらに、女性研究者を著者に加えないなどの不平等も問題視されています。これは、学術界において女性の科学者の人数が少ないことにも起因していますが、学術界にマイナスの影響を与える可能性があります。さらには、こうした状況によって科学の道に進もうとする女子学生の将来を閉ざすことになりかねません。

学術界にはびこるジェンダー格差

アメリカ国立科学財団(NSF)のフランス・A・コルドヴァ(France Córdova)や、アメリカ科学振興協会(AAAS)のマーガレット・ハンバーグ(Margaret Hamburg)のように研究機関のトップを務めるような注目すべき女性がいることも事実です。とはいえ、このような地位にいる女性は少数であり、やはりジェンダー格差はいまだに存在しています。Royal Society of Edinburghがスコットランドにおける科学・技術・工学・数学(STEM)分野の研究者について調査を行った『Tapping All Our Talents』によれば、STEM分野で学術研究に従事する女性研究者は2012年の27%から、2017年の30%に増加したものの、その伸びは芳しいとは言えません。Natureに紹介されているPLoS Biologyに掲載された論文からも、STEM分野の女性の苦しい立場が見て取れます。女性研究者の数は、物理学、コンピューター科学、数学の分野で特に少ないのが現状です。

ジェンダー間の不平等に関する複数の研究によって、学術出版の貢献度にもジェンダー格差があることが明らかになっています。ある研究では、査読プロセスにおいて格差があることが示唆されており、同じ分野内で比較した場合に、男性の論文掲載率のほうが女性より圧倒的に高いことが示されていました。

ジェンダー格差はオーサーシップや出版という限定された範囲にとどまらず、学術界全体に蔓延している問題だと言えます。

ジェンダー格差の研究が明らかにしたこと

eLIFEに投稿されたジェンダー不平等に関する論文に記された研究では、オーサーシップとジェンダー格差について詳細に検証しています。研究では、2名以上の共著論文における特徴について、以下の重要な3点が明らかにされています。

  • 論文の共著において圧倒的によく見られる組み合わせは、男性2名、もしくは、男性のみの複数名による共著
  • 2名による共著(2349本)のうち、両名とも男性なのは1377本、残りの972本は男女混合。そのうち、男性が第一著者なのは548本(56.38%)、女性が第一著者なのは424本(43.62%)と、ここでも男性優位な数字となっていた
  • 第一著者として名を連ねることに対する不平等は、業績の認知や助成金の獲得、キャリアの構築、学術界での地位といった点でのジェンダー格差を生む要因になっている可能性がある

研究では、共著論文の場合のクレジットの在り方について、現状よりも透明性を高めていく必要があることを示しています。

ジェンダー格差の打開策

ジェンダー格差の是正に向けた動きは遅い、というよりもむしろ停滞していますが、その一方で、このテーマを扱った研究が増えてきていることで問題への認知は高まり、提言される解決策の数も増えてきています。

具体的には、それぞれの立場により以下のような解決策が考えられます。

  • 大学は、科学分野での女性の採用に注力する、キャリア開発のためのメンター制度を整える、同時に女性による研究活動を推進する、など。
  • 科学研究に従事する女性研究者は、女性研究者同士で研究グループを作成し、コミュニケーションを図る。国外の大学にある既存の女性コミュニケーションサイトは参考になる。例えば、Women in Science at Yale(WISAY)やBU Women in Economics Organization(WEorg)など。
  • 学術雑誌は、オーサーシップにおけるジェンダーの倫理的な問題についての監視を強める。
  • 学術界全体は、STEM分野での男女平等を推進しているWomen in Science and Engineering campaign(WISE)のような、この問題についての認知拡大と平等を実現するための運動を推進する。

このように解決に向けては、各方面から取り組めることがあります。不平等なオーサーシップ、特にSETM分野におけるジェンダーの問題は日本でも深刻であり、対策が必要とされています。社会的な影響も無視できないとはいえ、女性研究者の研究成果やキャリアが公正に評価されないという状況は、もっと積極的に議論され、解決されていくべきでしょう。

オーサーシップの性別に関らず、重要な研究が公平に評価され、学術界が前進していくために多くの行動がとられることが望まれます。


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