稼げる研究者とは。コロナの時代に学術の仕事で生計を立てる(3)

ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はコロナショックで研究者求人の減少を目のあたりにしているミューバーン准教授が意を決して、自身の収入源を赤裸々に明かしながら学術の仕事で生計を立てるための考え方を語ります。こちらは3部作コラムの3本目。それまで仕込んできた方向性をどう収入に結び付けるかのヒントを解説します。

>> 前回(3部作コラム・2本目)はこちら


3)収入に結び付く活動の、方向性を決める

私の場合、収益化の戦略において、研究者としての判断により商売的な算段を優先することはありません。

キャッシュフローの問題を解決するには広告がひとつの対策となりますが、その効果を発揮する為には、オンラインでの自分のイメージとの整合性に注意を払う必要があります。Googleの広告は奇抜なコンテンツもページに表示してしまいます。私も少し試してみましたが、ユーザーが親しみを覚えず、クリックされなければ、ほとんど無駄になってしまうという結論に達しました。また、この10年で有料広告に関する様々なオファーも断ってきました。悲しいことに、アプローチの多くは、倫理的に了解出来ないもの(論文代理執筆)や私のやっていることとはまったく関係ないもの(インターネットバンキング等)でした。

将来的には広告を掲載するかもしれません。しかし、それはクリックした人が“インガー、これを紹介してくれて本当にありがとう”と言ってくれるようなものでなければなりません。例えば、Scrivenerというソフトを開発した開発会社Literature and Latteなどの広告であれば、喜んで掲載します。実際、私はブログを通じて、博士課程の修了者の就職支援の製品、PostAcのプロモーションを行っています。(大学を通じて何かを商業化する際のご多分に漏れず、これを通じて金銭的な見返りが得られるとしても、何年も後のこととなるでしょうけれど。)

パートナーシップは長期的な視点で考える

パートナーシップは、直接収入をもたらすというものというより、チャンスを生み出す方法です。最近、韓国や日本、中国等でサービスを提供するグローバルの翻訳会社のユレイタスで「研究室の荒波にもまれて」を翻訳してもらう契約を結びました。この契約は、お互いにとってのメリットとなるものです。この契約によって私が対価を得ることもありませんし、自社で翻訳を行うユレイタスもコンテンツを販売することは出来ません。それでも、私たちはそれぞれ異なる方法でベ利益を享受します。私の側では、書いたものが、より多くの読者を得られます。翻訳されなければ、英語を解さない読者層とは接点を持てないのです。一方のユレイタスの側では、自社の翻訳能力を示す良質なコンテンツアーカイブを持つことができます。

このユレイタスとの契約ついては悩みました。幸い東南アジアで翻訳ビジネスを行っている知り合いがいたため、助力を得てしかるべき調査を実施しました。ユレイタスが信頼に足る会社で、論文の代理執筆をしてないことを確認しなければならなかったのです。論文の代理執筆業者とブランド連携すれば、私の信頼は失墜します。このユレイタスとの関係が今後何をもたらしてくれるか、興味深く見守っていきたいと思います。これまでの経験から、得られる利益というものは次第に明らかになっていくものだということを私は知っています。自分の専門性を収入に結び付けるには、長期戦で取り組まなければならないのです。

自身のコンテンツで稼ぐ方法は書籍だけではない

書籍は、私の仕事において非常に重要です。ですから、私は長い間Amazonのアフィリエイトページを持っていました。これは私が収益に結びつけた最初のもののひとつです。月30ドル程度を得られていましたが、そのまま本の購入費に消えていました。アフィリエイトをしていて得られるのは、現金だけではなく、サンプルなどが貰えることあります。例えばレビュー用に多くの本が送られてきますが、私が良いと思わない本はレビューを行わないですし、おすすめもしません。(こうした私のアプローチに関し、読むに値しない本についても、読むに値しないとレビューで述べるべきだと批判する人もいます。しかし、たとえ傑作でなくても他人の労作を貶すようなことはすべきでないと考えています。)

「研究室の荒波にもまれて」のSNSのフォロワーは100,000で、もし投稿を読んだひとりひとりがPatreon(パトレオン)で毎月1ドル払ってくれたとすると月額80,000ドルが得られて本業が必要なくなるでしょう!このような‘チップ提供’サイトの可能性は大きいのですが、現実には私のような多数のフォロワーのいる者でも、それだけで生計を立てることは困難です。

現在は、毎月得られるのは200ドル程度です。私は、Patreon(パトレオン)で、。通常のコンテンツに加えて、有料コンテンツを作り続けるのはそもそも無理ですし、また無償でないものを作ることに違和感があるのです。Patreonの支援者の皆さまには心から感謝しています。彼らの善意によりウェブのサブスクリプションの費用が賄え、余った金額は必要な物の購買費に充てられます。最近ではPatreon(Patreon)のおかげで素敵なiPadのスタンドを購入できました。

多くの人は、些少の寄付なら出来るということで支援者になってくれているのでしょう。1ドルよりも多くの金額を寄付してくれる人もある程度います。大変ありがたいことですが、押し付けるつもりはありません。定期的にブログを読んでいながら、Patreonでの支援者になっていなくても、後ろめたく感じる必要はありません。今は1ドルでも貴重であるということは十分承知しています。

書籍の販売益が、私の副収入の大きな割合を占めています。自費出版は、ブログの内容を再構成し、手を加えることで、無料コンテンツを収益化する手段の1つです。基本的に、人々は利便性に対価を払います。そして、本は便利な(そして多くの場合素敵な)情報のパッケージなのです。もちろん自費出版では、学術的な‘勝利’は得られませんが、キャッシュフロー上は多くのメリットがあります。自費出版を行うのであれば、「役に立つ」ということをまず考えてみて下さい。よくできた‘ハウツー’のコンテンツがオンラインでは売れます。

オーストラリアでの自費出版について、私が掘り下げてお話しすることもできますが、興味のある方はALLi(独立作家同盟)の会員になるとよいでしょう。(Helen Karaさん、お勧めいただきありがとうございます。)自費出版以外の書籍の印税は出版社から受け取ります。私の場合は、自費出版よりも通常の出版からより多くの収入を得ていますが、皆さんが想像されているほどではありません。出版社から出ている私の書籍から得られた収入は昨年1年間で3,000ドルでした。私の知っている最も多作な学術著者は17を超える著作があり、それでようやく10,000ドル程の収入になるといいます。悲しいことですが学術出版だけで生計を立てるのは、全く無理でしょう。

自分の専門性を使って実際に収入を得られているのは、ワークショップを行っているからです。もちろん、多くの場合、通常の業務を休んだりして、スケジュールをやりくりする必要があります。。そのため、それほど多くのワークショップは開けません。価値を提供できるように心がけており、毎年参加していただくリピーターいらっしゃいます。ワークショップについては宣伝に時間は掛けず、ただ情報を my Workshop page に掲示して反応を待ちます。パンデミックの影響で今年のワークショップは全てキャンセルとなりましたが、オンラインでの実施を多くの人が希望するようになっています。驚いたのは、オンラインでの授業は比較的容易で、ポジティブなフィードバックも返ってきます。今後、完全な対面形式のワークショップを再開することはないでしょう。オンラインの方が、あちこち飛び回る必要も無く、様々な意味合いで継続性があるのです。私の知り合いではUdemyなどのプラットフォームでオンラインコースを始めた人もおり、そのうちの何人かは驚く程の金額を稼いでいます。私がこれをやっていないのは、本業と利益が相反するからで、もし失業したとすれば、すぐにでもオンラインコースを始めるでしょう。

副業で授業をする場合、基本的な部分を無料で公開し、それ以外の部分に課金する、いわゆる「フリーミアム」の方式を検討してみて下さい。これは、インターネットの視聴者と会い、フィードバックを行う方法ともなり得ます。私はかなり前に、講演や基調演説を必要経費のみで引き受けることを決めました。このことにより、いろいろな場所に出かけて人々と知り合いになり、取り組んでいる研究に関する情報を伝えることが出来るようになりました。現在は、社会奉仕活動の一環として「コロナ禍の中で卒業、その後」と題したズームのセッションを頻繁に行っています。研究者の授業スキルは、賢明に活用すれば、大きな資産となり得るのです。

 多くの選択肢から、自分に最適な収入源を選ぶ

お話しした通り、「研究室の荒波にもまれて」のようなブログをやっていくには多くの費用が掛かりますが、私は、細々とした収入源ひとまとめにすることで、ひとつの‘サイドビジネス’を成立させています。幸運なことに、私はその収入を本業以外のクリエイティブなプロジェクトに投じたり、チャリティーに寄付したりできています。「研究室の荒波にもまれて」関連の諸収入から月額200ドル程度をUN WomenPeter MacCullum cancer instituteThe Australia Institute等に寄付をしています。さらに、ある程度の金額を貯めておき、その年に最も必要とされる災害援助に寄付しています。(悲しいことですが常に何かが発生してしまいます。)例えば、オーストラリアを襲った壊滅的な森林火災の際しては、自費出版の『How to Tame your PhD』からのアマゾンのロイヤリティーの全額約1000オーストラリアドルを、救援活動に寄付しました。自分の読者の多くが、できればもっと寄付をしたいと思っていたはずです。ですから、私は自分の立場を活用し、そのような人々が支払ってくれたお金を大義の為に寄付したのです。

私自身、副業だけて生計を立てることはできていませんが、失業した場合の土台としては機能しています。長年の非常勤での境遇のおかげで、私は生き残るための生存本能を研ぎ澄ましました。そして、常に備えとなるプランを持つべきだという考えを持つに至りました。もし大学での職を失ったとすれば、私は「研究室の荒波にもまれて」の仕事を中心とした社会事業を立ち上げることに本気で取り組むでしょう。人々のサポートを行いながら収入を得られる事業です。ここまでお付き合い頂きありがとうございます。副業に関してお話しすることがこれほどあったかと、自分でも少し驚いています。

私は、このようなビジネス/学術のアプローチで、安定しない境遇にある研究者たちが金銭的な余裕を得られる方法はないかと考え続けてきました。ズームのワークショップの開催や自費出版本(タイトルは「稼げる研究者とは」)の執筆が役に立つかとも考えました。もし、皆さんの中でもっと情報が欲しいという人がいらっしゃればご連絡をお願いします。コメントはまだオフにしてありますが、皆さんの考えや、疑問点を、気軽にラインやツイッターで教えてください。

このような時だからこそ、どこにいても、連帯を。

>> 本コラム「稼げる研究者とは。コロナの時代に学術の仕事で生計を立てる」1本目はこちら

>> 本コラム「稼げる研究者とは。コロナの時代に学術の仕事で生計を立てる」2本目はこちら

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2020/08/05/13052/

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