稼げる研究者とは。コロナの時代に学術の仕事で生計を立てる(1)

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はコロナショックで研究者求人の減少を目のあたりにしているミューバーン准教授が意を決して、自身の収入源を赤裸々に明かしながら学術の仕事で生計を立てるための考え方を語ります。こちらは3部作コラムの1本目。


 今年の2月に深刻なコロナ危機に襲われた際、この記事を塩漬けにしました。記事は教員としての収入を、学術に関連した‘副業’で補う方法に関するもので、3月時点で、全てが最悪の状況になりつつあり、時宜にかなったものと思えなかったからです。オーストラリアの大学で後期が始まる時期になり、多くの人が仕事を失っている中、この記事も役に立つのではと思います。そこでこの記事を整理した上で、私達が直面する現在の状況を反映させて手を加えました。

 私を含む多くの研究者は、いわゆる学術のハンガーゲーム、‘ギグエコノミー(Gig Economy)’の環境でキャリアをスタートします。時給ベースや単発の仕事を複数掛け持ちして糊口をしのぐというのは珍しいことではありません。これを「ポートフォリオキャリア」と呼ぶ人もいますが、実際には不安定・不確実な仕事を美化しようとしているとしか私には思えません。

これは左派と右派を含む歴代政権が十分な予算を投じて来なかったことが原因です。最近のMcCathyとWienkによるオーストラリア数学研究所(AMSI)の報告から引用した、学術関連の仕事に対する博士号取得者の数の増加を示した図を見てみましょう。

私が1989年に建築学科に入学した頃に比べ、現在は9倍の学生がいますが、教員の数は9倍に増えたわけではありません。政府は、公的予算の削減により学術界に対して‘効率化’を強いてきました。大学への資金は年々増加していますが、費用の増加には追いついていません。大学は経営を成り立たせる為、学期間の休校期間の給与を払わない「季節労働者」を利用せざるを得ない状況になっています。

20年前は、臨時教員(Casual teaching)とRA業務が学術キャリアのスタートとして見られていました。今や非常に多くの人が、臨時教員や非常勤講師として学術キャリアを終えるようになってきています。(私は臨時教員の業務を指す、Casual Teachingの「カジュアル」という言葉に非常に抵抗があります。彼らは仕事に対して決して「カジュアル」なスタンスではなく、情熱的かつ献身的臨んでいるのです。)

学術的な仕事は清掃作業員よりずっと‘良い’と見られます。このため私達の業界とその他の業界の‘ギグエコノミー’との間の明確な比較が行われたことはほとんどありませんが、条件にあまり違いはありません。清掃会社や介護施設、食肉加工場で働く人たちは、コロナのクラスターを発生させたと非難されますが、欠勤して収入を逸するような余裕のない人々に対してこうした非難を浴びせるのはフェアではありません。これには臨時教員の仕事にも同様ことが言えます。私はある時期6つの大学を掛け持ちしており、病気で休むようなことはしませんでした。ですから、非正規雇用の教員・研究者も‘スーパースプレッダー’に簡単になり得るのです。Zoomがなければ、大学のキャンパスも‘ホットゾーン’となっていたはずです。

学術キャリアのこのステージを生き残るのは困難で、指針となるものはほとんどありません。わなにはまっているような感覚にさせられる状況なのです。先輩の研究者たちは、この状況を脱するには論文を書くしかない、と言うかもしれません。しかし、論文で埋め尽くされた履歴書は、雇用を縮小するシステムの中においては意味をなしません。現状の危機を前提とすれば、少なくともしばらくの間は不安定な雇用状況はより不安定になる可能性が高いでしょう。

もちろん辞めてしまうということもできます。しかし、学術界とのつながりを持ちながら、現在のこの悪い状況をやり過ごすにはどうすればよいでしょうか。手段のひとつは、学術以外の収入源を持ち、やりくりすることです。しかし学術的スキルを活用しインターネットで収入を得ることは、ハードルが高く、ほとんどの人が始めるノウハウを知りません。ここで昨年末に、博士課程の生徒のJulietからもらった手紙を見てみたいと思います。次のような内容です。

先生は、ブログの中で、自分の研究を商業的な利益や機会に結び付けることに関しては非常に慎重にご説明されています。例えば、ご自身がAmazonアソシエイト・プログラムから得られる資金の使い道を詳細にご説明されています。また、先生は条件の良いオファーを受けられているとは思いますが、ご自身のサイトでは広告の表示をされていません
大学に対する公的資金が削減され、私たちが積極的に自分たちをブランド化しソーシャルメディアのアイデンティティを造りあげるよう強く求められています。ビジネスや研究への投資、公的サービスの環境が不明瞭な状況をどう切り抜けて行くべきなのでしょうか。(さらには、研究者個人の人生やキャリアの不明瞭な状況をどう切り抜けて行くべきなのでしょう。恐らくこれは全く別の話となりますが。)この点に関し、先生はどのようにされているのでしょうか。単に内面の強い倫理規範に従うということなのでしょうか。この問題に対応する決断を支えるのはどのような信条や原則で、そしてその原則はいかにして形成されたのでしょうか?

 この学生の手紙への回答を試みる中で、私は、これに答えることが、収入を増やす方法をさぐる研究者の卵にとっても役立ちうる学術とビジネスの両立モデルについて語ることになると気づきました。

 この長い投稿の中では、私自身の役に立ったことを並べてみました。皆さん、それぞれの道のりは異なり、役に立つ戦略もあれば、そうでないものもあるとでしょう。私自身は他の人々に比べて恵まれている点があるかも知れませんが、以下に挙げるアイデアのいくつかは役に立つと思いますし、恐らく考え始めるきっかけになると思います。

>> 続き(3部作コラム・2本目)はこちら

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2020/08/05/13052/

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