パンデミックの次の局面で予測されることとは?

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、いまだコロナ禍にある2023年の学術研究業界の変化について、インガー教授が予想します。


年末までたどり着きましたね!

コロナによる最初の死亡例の報告(2020年1月11日)から3年が経とうとしているのです。個人的には、今年のコロナ禍は、他の年よりも疲弊しているように感じます。おそらく、「元の生活に戻る」ことへのプレッシャーがあったからでしょう。私は11月中旬に初めてコロナに感染しました。いわゆる「軽症」と呼ばれる状態でしたが、ぶっ倒れて1カ月まるまる仕事を休むことになりました。

この3年間で、多くのことが変わりました。そこで、未来予知の占いのように、将来に目を向けてみようと思います。その前に、前回の記事で紹介した読者アンケートに答えてくださった皆さんに心から感謝します。2分間のアンケートに952人が回答、800以上のコメントを残してくださいました。皆さんの回答は、私のサイト再構築にとても役立つもので、たくさんの優しくて肯定的なコメントを読んで、ちょっと涙ぐんでしまいました。私のブログの読者さんは最高ですね。もし、まだアンケートに回答されていない方がいらっしゃいましたら、こちらからご意見をお聞かせいただければと思います。1月末日まで受け付けています。

正直なところ、このアンケートの結果を見るまでは、そろそろブログを止めようかと考えていました。でも、皆さんのご意見を聞いて、まだまだ「研究室の荒波にもまれて(Thesis Whisperer)」の新しい記事を求めている人がいることを確信しました。というわけで、これからも月1回のペースで更新していくつもりです。来年は、より持続可能で、ユーザーフレンドリーで検索可能な形式を構築するために、ゆっくりと取り組んでいくので、サイトの変化をお楽しみいただければ幸いです。

変化といえば、このパンデミックの次の段階において、学術界はどこに向かっているのか、いくつか考えてみました。

学術界の求人数は回復し続けるが、仕事内容はもっとひどいものになる

6月にPostAcアルゴリズムを使って、研究職市場の健全性を測定する年次レポートを発表しました。これは、オーストラリアにおける学術系と非学術系の研究職のトレンドグラフです。

両市場とも、需要がパンデミック以前の基準線を上回って推移していることがわかります。しかし、求人広告をよく見てみると、多くの学術職の求人は期間限定契約で、レベルも低く、大学が労働力を暫定的にリフレッシュさせていることがわかります。ニュージーランドとイギリスのデータもありますが、3つの市場すべてで似たような傾向が見られます。

明るいニュースとしては、学術研究以外の分野での需要が引き続き高く、リモートワークの傾向も依然として高いということです。博士号取得者は2023年も優位な立場にあると予想され、経済状況がより不安定になったとしても、市場が持ちこたえてくれることを願います。もし2023年にポスドクの求人を探しているのなら、分野によって需要は大きく異なり、特定の分野で他の分野よりずっと需要があることを念頭に置いておいてください。より詳細な分析をご覧になりたい方は、こちらのスライドをどうぞ。

次世代の研究ツールは、仕事のやり方そして学生の勉強の仕方を変え続ける

近年、さまざまな形態の社会ネットワーク分析(SNA)が学術研究ツールに組み込まれています。私は、Connected PapersResearch Rabbitのようなネットワークスタイルの文献検索ツールの台頭を興味深く見てきました。まだ使ったことがない方は、ぜひ試してみてください。

また、Obsidian、Roam research、Notionのようなネットワーク型の個人データベースにもとても興味があります。私はObsidianを使っていますが、学生は無料なのでとてもおすすめです。5年目の博士課程の学生が作成したObsidianの始め方についてのこの動画を見れば、活用のアイデアが浮かぶと思います。私もThesis Whispererの資料を発表する新しい方法として、Obsidian Publishを使って遊んでいます。

多少暗い話題(?)では、ジェネレーティブAI(生成人工知能)技術の台頭にも興味を惹かれています。GPT-3のような高精度な言語モデルや、DALL.E-2のような画像生成AIツールは少し以前からありました。 最近では、Meta社が公開した科学論文を作成するための新しいAI「Galactica」が、人種差別的でデタラメな論文を作成し始めたことで炎上し、すぐに公開停止せざるを得なくなりました。しかし、AIが私たちの仕事にもたらす変革の効果を全否定するのは間違っています。GPT-3に触発された言語モデルは、あっという間に大学の論文執筆課題を陳腐なものにしてしまうレベルに達する勢いです。教員も評価方法を見直す時期に来ているのかもしれません。

お口直しに、AIが作ったアドベントカレンダーでもご覧ください。

より分断された新しいソーシャルネットワーク

悲しいかな、私はもうTwitter上に存在しません。イーロン・マスクに乗っ取られたTwitterの舵取りは上手くいっているとは言えません。Twitterのアカウント@thesiswhispererは新しいコンテンツへのリンクを配信するために残していますが、読者やリスナーとの会話はMastodonに移行しました。aus.social/thesiswhispererで見つかります。参加したいけどMastodonがよくわからないという方のために、最新のOn The RegポッドキャストでMastodonの解説をしていますので、お聴きください!ポッドキャストと一緒に公開したディスカッション・ガイドにも、Mastodonについてのちょっとした説明も載せています。

さまざまな学問分野のサーバーも出現しています。大学生向けオンラインメディアInside Higher Edでは、Mastodonが#academictwitterを取り込んだと言っていて、今のところ間違っていないようですが、長期的にどうなるかは未知数です。アカウントを作ったら、すでに移行している人たちを再フォローできるMovetodonのようなツールを利用すると便利です。

私はTwitterに憤慨しているので、このTwitterのスレッドでTwitterがどうなると思うかを書きました。今回の規約変更の影響は大きいので、私が教えているソーシャルメディアコースを完全に改修しなければならないでしょう。研究の普及、特にジャーナリストや政治家との直接のコンタクトにおいて、今のところTwitterと全く同じように機能する他のものはないですが、最終的にジャーナリストの行くところにみんなが落ち着くと予想して、新しいサイトPost.newsを注視しています。

コロナは今後も学習と教育に影響を与え続ける。

パンデミックは終わっていません。いくら願っても、ウイルスを消し去ることはできません。新しいワクチンや変異株の発生スピードの低下についての記事を希望を持って読みましたが、現実的には、パンデミックから立ち直り続ける力を持たなければなりません。具体的には、教室内の空気清浄の基準を改善するよう大学に働きかけたり、ピーク時のマスクを義務付けたりすることが必要です。また、教育方法についても見直す必要があります。多くの人がオンライン学習にうんざりしていますが(私もその一人です)、選択肢の1つに入れ続ける必要があります。

また、管理職として、私自身を含め、予期せぬスタッフの欠席に備えて計画を立てなければなりません(残念なことに、今週末の久々の対面式ブートキャンプは、まだ体調が悪いのでキャンセルせざるを得ませんでした)。私の働くオーストラリア国立大学では、対面・オンラインのブレンド形式で授業を行うための新しい技術に投資しています。新しく導入したOwl Labsは、顔認識AIを搭載した高度なウェブカメラとエリアマイクで、部屋やオンライン上の360度から話者の声を拾い、話者にオートフォーカスしてくれます。今後は対面授業に戻る予定ですが、体調が悪いときや感染が心配なときに、Owlを活用できるようになると思います。

みなさんの年末年始が平和で安らかであることを祈りつつ、新年最初の水曜日にまたお会いしましょう。

インガー

原文はこちら

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