COVID-19が収まるまでPhDを中断する?前編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中に拡大し、あらゆる人間活動に影響を与える中、ミューバーン准教授からのコロナ禍でPhDを継続するか止めるか悩んでいる人へのメッセージです。2回に分けて掲載します。

最近、10年のブログ作成生活で初めて更新を一時中断する事態となりました。

私は毎週更新するタイプのブロガーではありませんが、クリエイティブなインスピレーションを与えことは好きです。なので、常に6か月分ぐらいのネタを準備しておくのですが、ここオーストラリアでは3月の半ばに非常事態に突入し、2020年に予定していたものをすべて計画通りに投稿するには、「世界中で通常通り物事が進んでいる」状況下でこそ可能なのだと気づいたのです。私たちの生活が「通常」に戻るのはいつになるのでしょう?分かりません。そのため、私はネタを保留しています。中には投稿されるものがあるかもしれませんが、当面皆さんに読んでもらうのは無理そうです。

 このブログはパンデミック状態での最初の投稿ですので、この厳しい状況下のPhDについて取り上げてみます。コロナ禍が終息したときには不要な情報になるかもしれませんが、その時には私たちが現在直面している多くのことは「史上初の恐ろしい事態」として記憶されていることでしょう。

 私は今年、毎月第1水曜日にブログを投稿すると約束し、そのスケジュールを守ろうとしてきました。いつものように実用的で思慮深いブログを提供できるようにと思っていますが、それについて今コメントすることは控えておきます。従来は誰でも私の確認を待たずにコメントを投稿できるようにしていますが、これは大変な作業を要します。今は、挑発的なメッセージの投稿や論文代筆業者の広告に対処する時間や余力がありません。この投稿記事について議論が行われるとすれば、社会のどこかで行われることになると確信しています。

 ご理解に感謝します。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大している中、PhDの途中で諦める(退学)べきか?もしくは一時中断(休学)すべきか?

今回のコロナ感染拡大のようなパンデミックの状況に置かれたとき、PhDを継続するのか、中断するのかは「苦渋の決断」で正解はありません。どちらにも良い点と悪い点があることに疑いの余地はありません。特に、奨学金を受給している学生は、PhDに留まりたいと思うかもしれませんが、現在直面している博士課程での停滞は、将来予期せぬ結果をもたらすかもしれません。また、PhDをすぐにでも断念したいと思っている学生は、どんなに絶望的だと思えたとしても、今回が進路を変えるのに最適なタイミングではないかもしれません。

(COVID-19に関する研究に従事している人たちは、とても忙しい時を過ごしていることでしょう。皆さんの研究活動に感謝します。継続してください!)

もちろん、私はすべての問いに対する答えを持っているわけではありません。それでも、読者の皆さんに自問自答してほしい質問を幾つか持っています。この投稿記事が、現在起こっていることが個々のPhDプラン(将来の予定)に及ぼす影響について考える助けになればと思っています。PhDプランは、不確実なウイルス抑制までに要する時間によって、一層複雑かつ解決困難になっていきます。オーストラリア国立大学(ANU)は、オーストラリア国内での感染ピークが収まると期待される6月末まで閉鎖されています。しかし、ロックダウンや学校閉鎖は先が見えず、さらに長期におよぶ可能性もあります。実際には、ワクチンができるまで、国際的な移動やグローバルサプライチェーンには影響が残り、経済的低迷がいつまで続くかほとんど分かっていません。

この投稿では、研究の段階や学生を支援する仕事の有無、PhD取得者の長期雇用の見込みなどに関連する題材を取り上げていきます。すべてを考える必要はありませんが、これらはさまざまな状況下でPhDを継続するかについて助言を求めている多くの人々と私が話し合っている項目です。

ここではオーストラリアの詳細に焦点を当てていますが、このブログがよく読まれている国でも、多くの所見は役に立つと思います。私が現時点で考えられる最良のアドバイスを書いておくので、どうか読んでみてください。だって、私はPhDを終了させるのを助けるプロですから。私は自分の経験をもとに、できるだけパンデミックがもたらす学業の中断による影響を考え、穏当と思える幾つかの予想をたててみたので、役立てるとともに力になれれば幸いです。

検討項目1:経過年数

一見する限り、PhD課程になって半年から1年程度の学生であれば、この「フィジカルディスタンシング(physical distancing)」を有利に活用することができる立場にいると言えます。フィジカルディスタンスとは、客観的な数値などにもとづき「離れていること」です。今こそ、じっと座って邪魔されることなく書くことに集中できると自分に言い聞かせてください。家に閉じこもっている時は、腰を落ち着けて書くことに集中できるチャンスです。

「書き上げる」ことができれば素晴らしいことです。しかし、誰もがすぐに「書き上げる」ことができるわけではありません。多くの人にとって独りですごすことは予想以上に大変で、滅入ってしまう人もいるでしょう。中には、なぜ今「学術的生産性」を追求しては駄目なのかと説得力のある議論を仕掛けてくる人がいるかもしれません。

今のように問題の渦中ではなくても、どんなことであれ「書き上げる」ことは困難な作業であると覚えておいてください。自宅に素敵な書斎があって、孤独を紛らわしてくれる猫がいる人もいるでしょうし、シェアハウスのキッチンのテーブルで作業している人もいれば、家族の世話でストレスを抱えている人もいるでしょう。しかし、たとえ猫と過ごす幸せな状況の中、一人で書き物をしている人でさえ社会的距離(social isolation)と支援不足という問題を抱えているかもしれません。私たちのほとんどは心配性で、日々の生活に同じ日はありません。この危機的状況下においても自分自身や他者に「生産的」であるべきと過大なプレッシャーをかけないように注意しましょう。ロックダウンされている時間が「書き上げる」のに適さないと思えば、保留することをためらったり恥じたりすることはありません。それでも書かなければならないと思えば、論文の執筆よりも軽い、例えばジャーナル記事などのような他の文章を書くことに取り組むとよいでしょう。

PhD課程に入ったばかりなら、文献を「深く掘り下げて」、担当する研究が何についてのものか内容を正確に理解できるまたとないチャンスです。あなたがこの段階にいるなら、素晴らしいことです。でも分からないことも多いと思うので、そんな新人さんに少しばかりの助言をしましょう。PhD課程の半年から1年の間は、長期的な成功を勝ち得るための準備期間として重要な時です。なので、可能であれば指導員らと常に連絡を取り、論文を読んだり計画を立てたりするのに指導を仰ぐべきです。

PhDの開始時に集中して論文を読むことは、不安材料になると評判が悪いのです。というのは、該当分野の研究に当初考えていたより多くの作業があることが見えてくるからです。もし、1)プロジェクトそのものに、または2)受け取った指導内容について不確かな部分があれば、数ヶ月間一時停止しても問題ありません。指導員と言っても神様ではありませんので、常に正しいとは言えません。なので、研究初期の段階では、自らプレゼンテーションを行い、自分の所属部署の人たちと話し合いをすることをお勧めします。もっとも、キャンパスが閉鎖されていたり、アクセスが制限されていたりする中では実行できないことが残念です。

私が思うに、あなたの指導員も今のこの状況下で注意が散漫になっているかもしれません。優れた指導員でも研究に十分な注意を払わなかったために検討不足となり、最後までひたすら「修正」を余儀なくされることになったのを見てきました。研究の半ばでデータの収集方法や研究課題(Research Questions)を変えたくないと思うのであれば、私の言うことを信じてください。研究初期の誤った指導の結果、指導員とうまくいかないというのであれば、指導員を変えるべきです!研究半ばで駄目になってしまうより、少し遅れたとしても考え抜いた研究を行うほうが有意義です。

既にPhD課程の半ばに差し掛かっているなら、一緒に考えてみましょう。ANUの学生たちは、実験を破棄し、フィールドワークの途中で戻って来たと聞いています。本当に心残りだったことでしょう。研究には「やること」を延期するのが難しいこともあり、その結果を予測するのは困難です。例えば、実験によっては時期に影響されるものもあるし、特定の場所でのフィールドワークを計画していても何年もの間実現不可能になるかもしれません。タイミングが悪いことに、既に簡単に6ヶ月も保留できない作業に着手してしまっているかもしれません。一部のデータは入手できたとしても、必要なデータすべては得られていない、またはそのデータの関連性にもはや確証が持てなくなっているかもしれません。PhDの研究計画の根本的な変更を余儀なくされ、慎重な検討と問題解決のための時間が必要となる人もいることでしょう。

PhDを続けるか、またはしばらくの間でも正式に身を引くかを決断するのは非常に難しいことです。フルタイムの学生からパートタイムの学生に切り替えることは、「減速する」選択であり、大学とのつながりを維持したままプレッシャーから逃れることができる方法だと覚えておいてください。しかし、他の検討項目も重要なので、次に進んでみましょう。

今回はここまで。検討項目2以降が続きますので、「COVID-19が収まるまでPhDを中断する?後編」をご覧下さい。

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