学術界での人脈形成の重要性-キャリア形成に役立つ人脈とは?-後編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「THE THESIS WHISPERER」。前編では、学術界でのキャリア形成において、人脈がどのように役立つかについてお話しました。後編では、どういった人脈を形成すべきかとそのネットワークの広げ方をご紹介します。

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ブログのおかげで、世界中の様々なネットワークとのつながりができました。解決したいことがある場合やアイデアに関する意見を求めたい場合、大抵はその分野の専門家にメールで問合せでき、これは大きな恩恵です。#circleofnicenessの親しい友人からは、情報源やリソース以上の大きな助力を得ています。お互いに助けを求め、お互いに助け合う関係なのです。私は、常に友人たちの状況を気に掛け彼らの目標達成の手助けをしたいと考えています。また、将来発生しそうなチャンスやトラブルに関し、迅速な情報提供も心掛けています。知っている人々の情報も共有し、誰を頼るべきか、そして誰を避けるべきかを判断できるようにもしています。

このような会話を「ゴシップ」と一蹴してしまうのは、社会の複雑さを矮小化する見方だと思います。多くの人々(特に女性や慢性疾患を抱えた人たち、そしてマイノリティとされる全ての人たち)にとっていわゆる「ゴシップ」は、階層的で競争の激しい業界を生き残るための重要な社会的情報です。私の場合、前職でいじめに遭ったときには、友人たちがまさに生命線となり、心身を保って日々を生き抜く上で代えがたい存在でした。自分を気に掛け、アドバイスをくれる友人を持たない人々が他人の仕打ちで苦しんでいるのも見てきました。こうした経験がきっかけとなり、私自身は周囲のライフラインになるよう心掛けています。

ですから、私は友達と親密な関係の維持に努めます。では、友情と内輪びいきの境界線はどこにあるのでしょうか?これに答えようとすると社会性に関する複雑な問題に触れてしまうため、ほとんどのワークショップが、ネットワーク作りにおける友情の要素をあえて取り上げないのが実情です。でもここは勇気を持って、これについて考えてみましょう。

まず、全ての社会的ネットワークがみな同じではないということを認識することが大切です。就職の際、どのような友人関係がより多くの「幸運」をもたらすかについての研究が行われていますが、その結果は興味深いものです。友人のジェラルディン(Geraldine)が教えてくれた、マーク・グラノヴェッター博士(Mark Granovetter)の著名な論文「The strength of weak ties」は示唆的です。1973年に発表されたこの論文は、社会学の手法である社会ネットワーク分析を援用し、個人同士の小さなつながりが、いかにしてより大きなスケールの社会構造を生み出かを解析した先駆的な研究結果です。

グラノヴェッター博士は、強固な社会的絆は強い感情を伴うもので、相互の信頼が基盤になると述べています。悪いことが起きた時に相談したい相手は、その人に悪いことが起きた際にこちらに相談に来るような人のはずです。そして、信頼し合うことで相手との親密さが生まれてきます。さらに、自分が信頼を寄せる複数の相手がお互いのことを知っていれば、強力な友人の輪が生まれます。これが #circleofniceness の本質です。複数の友人の輪の構成員が知り合いになったり、信頼し合ったりすることでより大きな輪が形成されます。親密さにも程度はあるでしょうが、あなたの友人の輪にいる人は皆、あなたのお葬式の際に心から悲しんでくれるような人々です。

親しい友人は就職の手助けもしてくれるでしょうが、弱い絆の方が役に立つことが多いのも事実です。弱い絆とは、自分の友人の輪を超えたところにあるつながりで、知人の知人で、知人のことを信頼しているものの自分とは直接の友人関係はない人たちのことです。「義理の友人」とでも呼んでおきましょう。イベントや集会で会った程度のことはあるかもしれませんが、友人を介したつながりのみが実際の関係性です。あなたのお葬式については、共通の友人を通じて後々知ることになるような人々です。彼らは、あなたの存在を知っていても、本当によく知っているわけではないので、あなたのお葬式の際に同情は示しても、本当の悲しみを感じることはありません。

就職の際、なぜ弱い絆が役立つのでしょうか?それは、弱い絆がスパイネットワークだからです。

スパイネットワークは、あなたの今後のチャンスについて、あなたの知らない情報を持っています。弱いつながりにある人たち自身にも、それぞれの友人の輪があります。彼らは、あなたの全く知らない人と親密で、信頼感関係があるのです。

仕事を探していることを自分の全ての社会的ネットワークに発信することで、あなたの名前はそのようなネットワークを通じての採用を検討している人の耳に届くかもしれません。履歴書のリストにあなたの名前があれば、義理の友人はあなたを候補者に選ぶ可能性は高まります。なぜなら、あなたのことを少なくとも評判の上では知っているからです。そして往々にして、このようなことが同点の候補者がいる場合に有利に働きます。

弱い絆が多ければ多いほど、効果が増します。これがお互いに知らない人と多くの社会的なコンタクトを持つ利点です。自分のネットワークの弱い絆からの推薦は、強い力を持ちます。その弱い絆を生み出す強力な社会的絆から「信頼を借りる」ことになるからです。

例えば、私の前職は産休の欠員補充のポジションだったのですが、私がその求人について知った理由のひとつは、修士課程の指導教官(指導担当になる前から友人でした)が産休に入る女性の親友だったことでした。話が進むにつれ、もう一人の指導教官が、産休予定の女性の夫だということも明らかになりました。つまり、その産休予定の女性は、私の人となりや能力に関する情報を信頼するふたりから得ていたのです。採用担当者は彼女自身ではありませんでしたが、彼女からの推薦が担当者に伝えられたのでした。このネットワークでの「借りた信頼」は私に有利に働きました。後に分かったことですが、5名がこの産休代理の仕事の面接を受けており、私だけが博士号を持っていない人間だったのです。(博士号保有が採用の際に望ましいとされる条件でしたが、私は合格した時点で修士号すら持っていませんでした。)採用担当者は、資格の問題を除いても、私を採用すべきでなかったかもしれません。しかし彼は私を好意的に評価し、面接も上手くいって契約を結ぶことができたのです。

当時はこの一連の流れをラッキーだったと捉えていましたが、これは人脈による地ならしのたまもの、人脈がもたらした特典・チャンスと考えた方がよいでしょう。もとより、ネットワークに対し自分の能力を明確に示すことが出来ていなければ推薦も無駄になっていたはずなのです。周囲の人々が自分をどのような社会的存在と捉えるかは、日々の細々としたやりとりの積み重ねに左右されます。人は、遠くから常に見られているのです。そしてこれが、私がこうした関係性をスパイネットワークと呼ぶ理由です。

社会的ネットワークを銀行に預けている「資本金」のようなものだと言われます。ここで人種差別の問題が出てきます。

白人はオーストラリアとその他の国で長い間、権力と影響力を持ってきました。自分のネットワークが白人で埋め尽くされているならば、より力強い「義理の友達」を持っているということになります。このような構造的な問題に対抗するには、意図的に多様性に富んだ、強力な友人ネットワークを作らなければなりません。この取り組みを白人以外の人たちだけに担わせるべきではありません。多様性の豊かなネットワークを持つことは、全ての人に資することで理不尽な不公平を緩和することになるのです。

多様な専門家を友人として持つことは、いろいろな場面で役に立ちます。友達が現れるのを待つのではなく、潜在的な友人を積極的に探しましょう。戦略は無数にあるはずです。

皆さんは自動的に学校や学部の学友ネットワークの一部となります。学友のネットワークは、当初は心理的な支えとなりますが、学び続ける中で得られた友人は、時間が経つにつれ気持ちの支え以上の存在になります。10年前、博士課程を共に過ごした友人は就職で苦労していましたが、現在はみな立派なキャリアを築いています。私は、チームに空きのポジションが出た場合、彼らに人材の推薦をお願いします。彼らだってそうするでしょう。

学友のネットワークは、学科の交流行事に参加して、人々に声を掛けるだけで大きくなります。行かない手はありません!それは仕事から離れる時間では無く、それ自体が仕事なのです

家庭の用事や仕事、距離的な問題などで学校や学科の行事に参加できなかったとしても、オンラインで「軽め」の友人関係を維持することは難しくありません。ですから、交流イベントに出席し、学部や学科の人たちと出会えるあらゆる機会を生かして下さい。そしてテクノロジーも活用しましょう。オンラインでの友人関係は非常に強固です。私自身、最も親しい友人の中にはツイッターで交流を始めた人もいます。

自分と似たタイプばかりを友達にしようとすることにも注意が必要です。意識的に新しいタイプの人や、一見シャイな人たちにもアプローチしましょう。社交的な機会で明らかな少数派になってしまうような人々は、そうした機会をできるだけ避けようとします。しかし、少数派が歓迎されていると感じるようにするのは、多数派の義務だと私は考えます。例えば、オーストラリアでは、文化的な分断はお酒により助長されます。飲酒をしない文化もあれば、オーストラリアほどの飲酒をしない文化もありますが、オーストラリアのお酒を多く飲む文化は必ずしも万人に「フレンドリー」とみなされるわけではありません。大勢の酔っぱらいと一緒に過ごすのを異常で、居心地の悪いことと感じる人もいるのです。私たちは、数年前から会合の際にお酒を飲むことを止めましたが、それにより大きな変化が起きました。それまでは静かにその場を去っていたような人が、会話するために長くとどまるようになったのです。

知識面でのネットワークも重要です。関連する分野を学習する人や同じような興味を持つ人々のネットワークです。このような人々とは会議や専門家の会合で知り合えます。指導教官や学友からの紹介も得られるでしょう。このネットワークは「水平」と「垂直」の強力な絆を特徴としています。様々な年代やレベルの人と関係を持つことになるからです。このネットワークでの弱い絆は多くのチャンスをもたらしてくれます。開拓する最善の方法は会議に参加することですが、参加するには多額の費用が必要です。ですから、研究に関する団体やグループに積極的に関わるのもよいでしょう。団体の機関誌の編集や査読を行ったり、理事会の役割分担を申し出たり、会議の運営サポート行ったりすることで、研究者コミュニティで知り合いを増やせるのです。

博士課程を終了後に、学術界を離れようとする人にとっては、学術コミュニティの外で友人関係の開拓は特に重要です。卒業間際に構築しようとしても手遅れです。PostAc appは、そうした皆さんが自分たちに合った業界を見つけられるよう開発されました。学術界に残る場合も産業界との関係は無視できません。全く知らない人々の元に飛び込んで職業上の人脈作りを行うためには、複雑なスキルが必要ですが、そうしたスキルは、身に着けておいて損はありません。こうした学術界以外との関係構築についてもっと詳しく知りたいという方は、M.R. Nelsonの『Navigating the path to Industry』をご一読ください。このテーマの本で、私が読んだ中ではベストだと思います。Amazonでも格安で売られています。

上述のとおり、友情は商品ではありませんので、ネットワーク作りを友人関係構築のように語るには少し注意が必要です。また、友人から受け取るばかりでも長続きしません。友情を偽ることもしてはいけません。もちろんそのような人もいることはいるにはいますが。

頻繁に会うことのない軽い関わりであっても、真の友情は、お互い様でなければ長続きしません。友人のTseen Khooが、自身のサイト、Research Whispererで、大切な友人への配慮や与えることについて注意深く記述していますので、是非読んでいただきたいと思います。私も、Tseenに全く同意見です。与え、与えられる友人関係の中で、与えることだけを考えていれば後は上手くいくはずです。

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2020/02/05/academic-spy-networks-and-why-you-need-one/

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