学術界での人脈形成の重要性-キャリア形成に役立つ人脈とは?-前編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「THE THESIS WHISPERER」。今回は、学術界でのキャリア形成において「大事なのは知識より人脈」という程、ミューバーン准教授が人脈形成を大事にする理由と、どの様な人脈形成が役立ち、そしてどのようにそのネットワークを広げていくかについてのお話です。2回に分けて掲載します。 (オリジナル記事は2020年2月に公開されていますので、最初に登場する森林火災は2019年秋ごろからオーストラリアで深刻になっていたものです。)


最初は森林火災の最新状況についてです。前回のブログに対し、たくさんの暖かい応援メッセージをいただきました。私たちが呼びかけたP2マスク募金へ寄付をしてくださった皆さまも本当にありがとうございました。無事に目標を達成し、3500枚ものマスクを配布することができました。さらに、残りの金額約$1500は地元のアボリジニのコミュニティに寄付をしました。 今までのところ、Survived the Australian ‘Red Summer’ (オーストラリアの「レッドサマー」)を乗り切り家族も自宅も無事です。前回の投稿の後、様々な出来事がありました。1月20日には、ゴルフボール大の雹が首都を襲い、ANUのキャンパスには特にひどく降りました。

10分間続いた嵐は信じられないほど猛烈で、構内全域の車のウインドウや、校舎の窓と採光窓が破壊されました。キャンパスの建物120棟のうち80棟が被害を受けました。幸いにもACT(オーストラリア首都特別地域)内で死者はでませんでしたが、数人がこの雹で骨折したとのことです。

パニック映画に出てくるような雹を目の当たりにするのは恐ろしい体験で、ソーシャルメディアで見ていてもそれは伝わってきました。雹(Hail)とアルマゲドン(Armageddon)を合わせた造語#hailmageddonのハッシュタグでこの天災が拡散された際、私は偶然にもHelen Swordが主催するAt a lovely writing retreat run by the famous Helen Sword on Weihake Island(書き手のためのリゾート・ワークショップ)でニュージーランドのワイヘキ島にいましたが、晴れ渡った空を見ながら、自分だけが安全な場所に居ることに少し後ろめたさも感じました。

 

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執筆のための休暇は生産的で良かったのですが、破壊されたキャンパスを見て現実に引き戻されました。ACT内で合計11,000台の車が被害に遭い、キャンパスの駐車場に停められていたものも相当数に上ります。キャンベラにはこの規模の災害に対応できる数の牽引車がないため、多くの車がそのままになっています。幸いにもANUは当面の間、駐車違反の罰金を課さないことにしています。そうでなければ暴動が起きていたでしょう。

壊れた車や枝葉のない木々のおかげで、映画『マッドマックス』の撮影セットの中で仕事をしている気分です。

オーストラリアの新聞の1面が新型コロナ関連の記事で持ち切りだったところに、今度は森林火災がACTを襲いました。先週、一機のヘリコプターが着陸した際に発火したことに端を発した火災は、現在では市の南側の国立公園のほとんどを焼き尽くしています。実に、ACTの総面積の4分の1です。こんなことは冗談でも考えられないでしょう。写真は、南に広がる赤い炎に脅かされるキャンベラ郊外の夜の街です。

北側に家がある私は、火災が差し迫っている状況ではありませんが、多くの友人が迫りくる火事を前に眠れない夜を過ごしています。現在は封じ込めに成功していますが、森林火災は少なくとも1ヶ月はくすぶります。木の中心部が燃え続け、気温が上昇すると地下茎を通じて再び燃え上がるということで、危機はまだ去っていないのです。

どれほどの野生生物と美しい自然が失われたのでしょうか。本当に悲しいことです。オーストラリアの環境政策はひどいものでしたが(世界的にもよく知られたことですが)、森林火災への取り組みは素晴らしかったと思います。オーストラリアは経済的にも豊かで資材や人材も豊富なため、それなりの対応ができました。人の手によるインフラは再建できますが、美しい自然のかなりの部分は回復できません。首都地域緊急庁(ACT ESA)とANUの当局は混乱の中、暖かい支援を差し伸べてくれました。感謝するべきことは多々ありますが、正直言って、非常につらい状況が続いています。

この状況が一か月は続くでしょう。

この夏のキャンベラで良かった出来事があるとすれば、それは人々の絆が深まったことでしょう。見ず知らずの人々が、被害と恐怖の体験を共有し、街頭やキャンパスで肩を寄せ合いました。危機的状況での助け合いは連帯を高めます。私は、キャンベラの友人たちのネットワークのありがたみを再認識しました。そこで、今月は「コネクション」、「人脈」というトピックについて考えたいと思います。

学術界では人脈、人のネットワークが重要だという話はよく耳にします。博士課程修了後の就職活動は、「良好なネットワーク」を持つことで確実に楽になります。去年のクリスマス直後に投稿されたクリス・コーンスウェイト博士(Chris Cornthwaite)のツイートを読んでみて下さい。

200以上もの履歴書を送付したけれど、職が得られたのは結局のところ自分のネットワークによるものだったと博士は報告しています。諺で、It’s not what you know, it’s who you know(何を知っているかではなく、誰を知っているか)というように、大事なのは知識より人脈なのです。

学術界や公的機関での採用が「公平」だと馬鹿正直に考えるべきではありません。人脈は依然として重要です。私の場合、全ての仕事は人のネットワークを通じて得られたものです。現在のポジションは、私のために創られたものですし、その前の2つの職は知人が採用担当者に私を推薦してくれたことで得られました。それ以前は、学術界の「パトロン」を頼り、学期毎に仕事を提供してもらう臨時教員でした。

思い返せば、私の人生では仕事を見つける上でネットワークが欠かせませんでした。本屋とレコード店でのアルバイトは個人的な推薦によるものでした。10年に渡り携わった建築関係の仕事も全て同様です。スーパーマーケットでの人生初のバイトを除き、「通常」の方法で仕事の応募に成功したことはありません。それでも、14歳から継続して職に就いています。

履歴書や面接がひどかった可能性もありますが、そうではないでしょう。雇用適性に関して、より踏み込んで調べるうちに、(白人の)多くの人々が似たような経験をしていることを発見しました。裏舞台での強力な推薦で、候補に残り、場合によっては第一候補になることがあるのです。「白人」と括弧で囲ったのは、白人は白人の友人を持つ傾向があり、学術会ではその白人の友人が大きな力になるという白人優位の状況が依然として続いているからです。(詳しくは後述します。)

学術界でのネットワーク作りに関するアドバイス(これに関して今まで多くの発信をしています)は、見ず知らずの人への自己紹介や「自分の売り込み方」について偏りがちです。会議の休憩時に同業者に挨拶をするといったことなら、すでに皆さんの多くが行っているでしょうが、ネットワーク作りはそんな単純な話ではありません。「職業上のネットワーク作り」といったフレーズは一般的過ぎて、ここで取り上げている関係性を表わせないでしょう。ですから、私の考える学術界でのネットワーク作りを、次のような一文で表現したいと思います。

「良いネットワーク作りは、キャリアに役立つ友達作りをすることである。」

このような定義には、抵抗を感じられるでしょうか?ネットワーク作りは「新しい人に会う」ことであるとよく言われるのは、友人からの見返りを話題にすることがはばかられるからでしょう。オーストラリアでは、こうした友情と利益を結びつけるような話はタブーですが(他の国の人の意見も聞いてみたいところです)、私の場合、友人との関係は、個人的な面でも職業的な面でも重要なのです。

実際、多くの場合、二つの側面の区分は明確ではありませんし、合わさることで、より深い関係となっているのです。

今回はここまで。前編では人脈形成がどのようにしてキャリア形成において役立つかご紹介しましたが、後編ではどういった人脈を形成すべきかとそのネットワークの広げ方をご紹介しますので、「学術界での人脈形成の重要性-キャリア形成に役立つ人脈とは?-後編」をご覧ください。

 

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2020/02/05/academic-spy-networks-and-why-you-need-one/

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