博士号はキャリアにおける最高の資産だ

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン教授のコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、オックスフォード大学で社会法学の博士論文を提出したオウェイン・ジョンストン(Owain Johnstone)が、社会に売り込める博士号取得者の有するスキルについて書いたコラムを紹介します。


この投稿はオウェイン・ジョンストン(Owain Johnstone)によって書かれたものです。オウェインは最近、オックスフォード大学の社会法学研究センターで社会法学の博士論文を提出しました。彼の研究は、2000年代初頭に英国で初めて奴隷労働や人身取引に関する法律が制定されて以来、この「現代奴隷法」の社会的構築に影響を与えた英国国家の役割について探求したものです。
オウェインのLinkedInはこちら:https://uk.linkedin.com/in/owain-johnstone-a1231344 

 

博士課程が終わるころ、先に学術研究から離れた友人たちが登ったキャリアの階段(3年、あるいは4年、5年)を自分は博士課程に費やしていて登り損ねたような気分になるのは、私だけでしょうか。たまに、閉じられた学術の世界から抜け出そうと考えるとき、またイチからやり直さなければいけないのではと不安になります。

でも、学術研究界から出るべきかどうかはわかりません。実際、博士号を取得すれば、採用者(雇用者)にとって本当に価値のある有用なスキルの数々を身につけることができると思います。博士課程とはその世界を知らない人にとっては不可解なものなので、学術界の外から博士号取得者の有するスキルを理解するのは難しいかもしれません。理解を得るためには、私たち学生がもっと明確に主張する必要があるということでしょう。そこで、博士号を取得することでどのようなスキルが身につき、外の世界でどのように役立てられるのか、また、博士号取得者を採用する側はどのようなスキルを評価すべきかについて、話したいと思います。

以下に博士号取得までに身につくスキルのリストを挙げてみますので、他にも何かあればコメントをください。

自己管理能力

多くの分野の博士課程の学生は、ほとんどの時間を一人で行動しています。友人や家族を除けば、どこにいるか、どんな服装をしているか、何時に仕事をしているか、食事をしているかなどを気に止めてくれる人はいません。ということは、組織力、行動力、自己管理能力、時間管理能力がなければ、成り立たないということです。あなたが博士号を取得できたのなら、それは自分で行動できる人間であることの証明になります。

優れたコミュニケーションスキル

博士課程の学生は、さまざまな機会に多様な聴衆に向けてものを書いたり、発表したりすることに多くの時間を費やしています。学部のディスカッション・グループ、ポスター・コンペティション、学会論文、あるいはセミナーでアイデアを発表する時でさえも、常に、自分の専門知識(あるいは意見)を共有していない人々に自分のメッセージを伝えるにはどうすればよいかを考えています。それは、単に言葉を投げかける場合だけに言えることではありません。博士課程の間にも多くのネットワークを築いています。自分の研究に注目してもらう必要があるので、自分の研究が本当に興味深く重要であることを人々に説得するために多くの時間を費やします。時には苦しい闘いのように感じることもありますが、自分のメッセージを届けるために努力すること、そのためのコミュニケーションスキルは他の多くの人が持っていないスキルなのです。

他者との調整能力

研究を進める中には、自己管理だけでなく、他者との調整を行う必要性に迫られることもあります。ここでは、学術界での状況を例にしてみます。他者との関係を考える時、伝統的な上下関係があります。例えば、会議でリーダーを務めたり、委員会や学会のリーダーを務めたりする場合(学生代表のような単純なものも含めて)は自分が上の立場に立つことになります。しかし、共同研究を行う場合や、ワークショップやセミナーの開催などに関しては関係者が同じ立場、「水平」の関係になることもあるでしょう。自分のアイデアに賛同してくれるように共同主催者を説得したときのことを覚えていますか?それこそが他者との調整です。重要なのは、組織や団体では自分が上になったり、同じ立ち位置になったりするだけでなく、上位の管理者も多数いることです。指導教官、大学院の責任者、学部の管理者など、きりがありません。そうした人たちとの調整も大切です。次の区切りとなる時期について指導教官と協議したとき、あるいはいつまでに作業の区切りを付けることを指導教官が期待しているかについて話し合ったときのことを思い起こしてみてください。

お金の管理

博士課程の学生はあまりお金を持っていません。学生の間に主要な研究助成金の申請に名前を連ねることはほとんどないでしょう。しかし、フィールドワーク、旅費や会議費用、書籍購入などへの助成金や支援金、奨学金などに応募することはあるはずです。その際には、予算や計画を組み立てることも含め、資金提供の申請に、かなりの時間を費やしています。

プロジェクト管理

自己管理も大事ですが、卒論を執筆・提出するにあたって実行可能な計画を立て、それを実際に実行しない限り、何も始まりません。3年間の研究プロジェクトは一大事業です。正しい計画を立てるには、多くの事前計画が必要です。さらに、議論に穴があいたり、フィールドワークの手配がうまくいかなかったり、自分が執筆中に新しい本が出版されたりと、思い通りに進まないこともあります。

議論と分析

一番わかりやすいので最後にしましたが、重要ではないとは言いません。それは、すべての博士課程の学生は、複雑な議論を組み立て、維持し、興味深い質問を投げかけ、それに答えるための適切な方法を選択するスキルがあるということです。こうした技能が重要なのは研究職だけではありません。

ここまでにあげた6つのスキルは、採用担当者が新卒の博士号取得者を高く評価すべき理由です。博士号を取得していれば、自分自身を管理し、他人との調整を図り、複雑なアイデアを明確に伝え、お金を扱い、長く困難なプロジェクトを計画することができると証明したことになるのです。こうしたスキルを持つ人材は多くの採用者にとって魅力的なはずです。

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