プロの論文校正者が解説。校正の内容やその必要性

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回の題材は英文校正についてです。ミューバーン准教授が、オーストラリアのキャンベラでプロの論文校正・校閲者として活躍をするキャリン・ホスキングが校正者の立場から「校正」を語ってくれたものを紹介してくれました。英文校正とは何か、そしてどんなときに英文校正を使うべきなのでしょうか。


キャリン・ホスキングは、キャンベラを拠点に活動する校正・校閲者です。学位論文の校正を専門とし、特に英語圏以外の学生や研究者と多くの仕事をしています。彼女のLinkedInのプロフィールはこちらで、chezkaz@gmail.com 宛てにメッセージを送ることも可能です。この記事は、校正者の基本的な仕事について、そして、論文作成時の校正者の役割についてキャリンに話してもらったものです。

*****ここからキャリン・ホスキングが主語の解説です*****

私は校正・校閲の仕事をしていますが、このところ書籍や掲示物で目にする言葉の誤用や誤字の多さにいささか圧倒されています。そして、もっと気軽に校正者を使ってくれたら良いのにと思っています。私たち校正者のほとんどは穏やかでフレンドリーな人たちで、人々の円滑なコミュニケーションを手伝いたいと願っているのです。かつて校正者のことを高度な技術をもって布地の損傷を修復する熟練工と同じように「見えない修復者(invisible menders)」と表現した人がいました。校正者の全員が必ずしも、表に出ない存在でいることに満足しているわけではないでしょうが、この言葉は私たちの役割を的確に表現していると思います。

何がそんなに気になるのか-気になりだすと止まらない

1冊の本を最初から最後まで読んで、1つも間違いを見つけなかったことは久しくありません。表記のゆれ(例えば、単語や登場人物の名前の記述などにおける表記のばらつき、ハイフンの有無など)に気づくこともあれば、誤字やスペルミス、時制(過去形、現在形、未来形)の混在、条件節の矛盾などを発見してしまうこともあります。

物語(ストーリー)や語り口(ナラティブ)に矛盾がある場合もあります。例えば、私のパートナーが最近買った本は、ある大規模な鉄道路線の建設についてのものなのですが、その路線について「建設途中」という文章と「開業済み」という文章が入り乱れていました。本に複数の版があって、前の版から引き継いだ内容を誰もチェックしていないようなのです。また別のある本の中では、著者が全文において特定の文字列を一括変換したようで全くの意味を成さない箇所がありました。執筆から出版までの間に誰もその本を通読しなかったことは明らかです。

私は学術論文の校正を専門としていますが、担当するのは、ほとんどが(すべてではありませんが)、英語圏以外の人の文章です。プロの校正者が論文を編集する際にしてよいことと、してはいけないことに関しては一定のルールがあります。オーストラリアおよびニュージーランドの校正者は「Institute of Professional Editors Limited (IPEd)」を準拠しており、国内のほとんどの大学も同様のルールを定めています。私の本質的な役割は、論文著者がスペルミス、表記ゆれ、単語の抜けや重複、句読点の誤用といった誤った表記を取り除いて、該当論文を輝かせる手助けをすることだと考えています。論文以外の校正では、より積極的に、ぎこちない表現を書き換えたり、再編したりすることもありますが、いずれにしても、校正とは、著者の言いたいことを変えることなく、より明確な表現にしたり、文中のミスを修正したりすることです。

校正の種類

校正の主な種類を紹介しておきます。

– Substantive editing(サブスタンティブエディティング) – 内容、構成、言葉、文章スタイルなどあらゆる面に着目し、完成度の高い原稿に仕上げる校正。文章やパラグラフを並べ替えるなどの、原稿全体の流れも改善する。

– Copyediting (コピーエディティング)– 文書のミス、表記ゆれ、あいまいさ、不適切な表現などを修正する校正。文章の流れの明確さやシンタックスを改善する校正ではなく、語法を正すもの。(私の仕事のほとんどがこの種の校正です)

– Proofreading (プルーフリーディング)– 文書が公開に向けて提出される前の最終チェックと修正作業

コピーエディターが注視する項目

学術書においては、校正とコピーエディター(copy editor)の作業は似通っていますが、コピーエディターは表記の統一に加えて、参考文献の書き方、参照の仕方、見出しの書き方といった全体的な部分にも注視します。

– レイアウト

– 句読点

– 文法と構文

– 単語の表記法(スペースやハイフンの有無など)

– 大文字小文字の区別

– スペル(当該地域の英語表記法、およびジャーナル等の表記法に基づいたもの)

– スペルミス、誤字

以下のような表記ミスは、信じられないほど頻繁に目にします。

affect/effect appraise/apprise
asses/assess born/borne
chaise longue/lounge complement/compliment
dairy/diary discreet/discrete
dual/duel elicit/illicit
emigrate/immigrate extend/extent
faze/phase flout/flaunt
font/fount form/from
forward/foreword its/it’s
lead/led magnet/magnate
metre/meter ordnance/ordinance
pallet/palate/palette peak/peek
pedal/peddle potable/portable
principal/principle prostate/prostrate
public/pubic rational/rationale
ravish/ravage stationery/stationary
team/teem there/their/they’re
vial/vile waive/wave
where/wear/we’re woman/women

複数形のアポストロフィーや、引用符の間違いにも遭遇するのは言わずもがな、です。

コピーエディティングでは細部にこだわるのですが、そのこだわりが役立つこともあります。ある犯罪小説を校正していたとき、178ページで登場した雄犬が、180ページではいつのまにか雌犬に変わっていることに気づきました。作者はプロットの流れに気を取られ、それに気づかなかったのです。思わず笑ってしまいました。

校正者の力を最大限に引き出すには

次に校正者に力を発揮してもらうのにはどうしたら良いかを書き出しておきます。

– 校正者に充分な作業時間を与える

– 始めから校正を入れることを考慮して計画を進める

– 校正者が作業時間を見積もるために必要な情報を提供する(校正者が文章のサンプルを見てみたいというのは、単に作業にかかる時間を算出するためで、著者の力量を値踏みするためではありません)

–誤字脱字の簡単なチェックなのか、より詳細な文法や事実関係のチェックなのか、自分が求めているものを明確にする(1ページにミスが多数あろうと無かろうと、校正者は時間をかけてすべてのページ、すべての文、すべての単語に目を通し修正案を提案します)

– 対象文書が従うべきガイドライン・規程がある場合には、それを校正者に伝えておく(大学や出版社のスタイルシートやスタイルガイド、アメリカ英語・イギリス英語のいずれかなど)

どんな人が校正を必要としているのか

自分の言葉を出版やその他の方法で公表したい人は、誰しも校正が必要となるでしょう。小説、学位論文、学術雑誌への投稿論文、レストランのメニュー、博物館の説明表示、立て看板など、どんなものを書くにしても誰かに目を通してもらい、意味が通っているかをチェックしてもらったり、ミスを指摘してもらったりすると良いでしょう。その際には、知識のある友人や親戚などに頼むのではなく、本業の校正者に依頼するのが理想です。優秀な校正者は、ミスを減らすためのツールやチェックリストを持っていますし、さらに言えば、私たち校正者の費用は皆さんが思うような額ではありません。私の時給は、電気工事士や車の整備工の半分、歯科医の6分の1ぐらいだと思いますよ。

校正にかかる費用を余計な出費とは考えないでください。ご自分の本や論文、レポート、ウェブサイトを読むことを楽しんでもらうための投資なのですから。

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2019/04/17/who-needs-an-editor/

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