Uneven Uの手法で論争的かつ読み進めやすい文章を書こう

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はアカデミックライティング含め様々な執筆に役立つ「Uneven U」と呼ばれる文章の構成方法についての解説です。読者を引き込み更なる探究を促すような、論争的かつ読み進めやすい文章を書けるようになるこの方法。さて、Uneven U―形の整っていないU型とは何を意味しているのでしょうか。


よく出版社から評価(レビュー)用の学術書が送られてくるので、喜んで全部に目を通しますが、私は書評を書きませんし、書くことを皆さんに心からお勧めすることはできません。私は、書評を書くことで同僚の著者の気持ちをくじけさせたくないのです。送られてきた書籍は、私の本棚の一番下に、罪悪感の塊となって積まれています。

最近、部屋の片付けをしていたら、2014年にコロンビア大学出版から送られてきたエリック・ハヨ(Eric Hayot)著『The element of academic style(仮題:アカデミック・スタイルの要素)』が出てきました。最近、キャサリンとショーンと私の3人は、2018年に私たちが出版した『How to fix your academic writing trouble(仮題:学術文書を書くときのトラブルをいかに解決するか)』を基に新しい本(暫定的なタイトルは『Level up your Essays(仮題:エッセイをレベルアップしよう)』です)を書く契約を結んだところだったので、せっかく出てきた『The element of academic style』を本棚に戻す前に、何か役に立つことが書かれているか確認してみようと何気なくページをめくりました。それを認めるのは恥ずかしいことですが、私は最初にこの本を見たとき、この本の素晴らしさを完全に見落としていました。なので、何年も見過ごしてきたことをここでお話します!幸い、この本は今でもオンラインで見つけることができます。以下が遅ればせながらの本書に対するレビューです。

本の正式な題名は『The elements of academic style: writing for the humanities』ですが、これが私がこの本を本棚に埋もれさせた一因でもあります。私が、あらゆる分野で使える文章の書き方を提供しようとしているのに対し、この本は博士課程(PhD)の研究者向けに書かれたものです。対象を絞って情報を提供することは良いことですが、科学系の学生や社会科学のような他の人文系分野の学生ですらこの本を手に取らないだろうと思うともったいないことです。ハヨがこの本で示している多くのアドバイスは、誰にとっても有用なもので、特に「Uneven U(形の整っていないU型フォーマット)」についての概念は、段落を構造化するために非常に画期的なアドバイスと言えます。

「Uneven U」とは、段落を構造化するための一般的なアドバイスとは一線を画すものです。一般的なアドバイスでは、トピック文(文章を要約した一文)に続いて、例、分析、要約と書き進みます。このような基本的な段落構成は、TEXASまたはトピック(topic)、証拠(evidence)、例(explain)、リンク(link)それぞれの頭文字をつなげてTEELと呼ばれることもあります。私は長年このTEXAS/TEEL手法を教えてきて、すばらしい効果をあげてきました。PhDの学生がこの基本的なアドバイスからどれほどの恩恵を得てきたかは驚くものがあります。しかし、このような経験則が複雑なライティングにおいて明らかに役立つこともありますが、TEXAS手法の問題は、書かれた文章が繰り返しになりがちなことです。すべての段落にTEXAS手法の全部の要素を入れ込む必要がないことには配慮が必要です。例えば、序論や結論のように他のセクションよりも内容をまとめて書く必要がある部分を、単純に手法に準じて書いたのではうまくいきません。「Uneven U」とは、洗練されたTEXASの変形版であり、より柔軟で役に立つ手法だと思います。

ハヨは、論争的な文章には5種類あり、それらは異なる概念レベルで考えることができるとの主張から入ります。以下に彼の本の60ページに書かれている文章のレベルについて抜粋して書き出してみました。

レベル5:アブストラクト(要旨)

一般的な文章。解決に向けた方向付け、または結論。

レベル4:あまり一般的ではない文章。問題に向けた方向付け。アイデアをまとめて引き寄せる。

レベル3:概念的要素のまとめ。2つ以上の証拠をまとめて書くか、幅広い例を提示する。

レベル2:説明。明らかな、あるいは解釈的な要約。エスタブリッシング・ショット(始めに全体の状況を説明するためのショット)のようなもの。

レベル1:具体的な文章。証拠に基づくもの。生データ/未編集データまたは情報。

ハヨは、「Uneven U」の構成として、レベル4から始めて、レベル1まで進め、最後にレベル5をまとめることを提案しています。これをグラフの形で示すと以下のようになります。

トピック文は、TEXAS方式が示すように壮大で広範囲にわたるものである必要はありませんが、簡潔かつ焦点を絞って書くべきです。

壮大で広範囲におよぶ文章は段落の後半に取っておきます。概念レベルで文章を構成するという考え方は、「執筆する」には複雑な文章を書かなければという考えからあなたを解放するでしょう。私はいつも、レベル1の文章を「手の込んだ文章」に見せようとしがちですが、この手法を取り入れてからは、気にしなくなりました。実際、ハヨのアドバイスはとても有用です。

数ヶ月の間、私自身や他の人が文章を書く際にハヨのアドバイスを採用してみたところ、とても上手く機能しました。どう良かったかを的確に説明するのは難しいので、実際の例をあげて説明してみます。以下に示すのは、最近発表した論文『A Machine Learning Analysis of the Non- academic Employment Opportunities for PhD Graduates in Australia(仮題:オーストラリアのPhD修了者のための非学術関連の雇用機会に関する機械的学習分析)』から抜粋した段落です。

PhD課程は、当初、学術界における次世代の研究者を育成するためとされていましたが、今日の卒業生は博士課程での成果を同じようには捉えていません(レベル5)。少なくとも過去10年間、学術関連の職の数より多くの卒業生が排出されている(過剰な人材供給)と指摘されてきました(Coates and Goedegebuure, 2010; Edwards, 2010; Group of Eight, 2013)(レベル4)。オーストラリア学術評議会 (Australian Council of Learned Academies , ACOLA)の報告書(McGagh et al., 2016)に示されたデータによれば、オーストラリアのPhD卒業生の60%が学術関連の仕事に就けていないことを示唆しており、他の先進経済諸国の同様の結果とも一致しています(レベル3)。例えば、イギリスの研究者の能力開発やキャリア開発を支援する非営利組織Vitaeの調査(2013年)によると、PhD修了者全体における失業率は約2%と低いものの、PhD卒業後に学術関係の職に付けているのは修了者のわずか38%に過ぎないと示されています(レベル1)。

この段落構成をハヨの手法によるレベル推移で図に示すと以下のようになります。

どうです?では次にでは、「Uneven U」に準じて修正してみます。最初の文章(レベル5)を最後に移動させ、冒頭にトピック文をより印象強い文章にするために新たな文章を作成し、レベル3にあたる2つ目の文章を追加しました。さらにその後のレベル3の文章をレベル2に書き直し、レベル1の文章は残しました。その上でレベル3の文章を追加し、最後の文章(もともと1つ目の文章だったもの)をレベル5の文章として明確化しました。その結果を見て下さい。

10年以上、高等教育の研究者は学術職への人材の供給過剰を指摘してきました(Coates and Goedegebuure, 2010; Edwards, 2010; Group of Eight, 2013)(レベル4)。この供給過剰問題が現実となった場合、学位取得後、より多くのPhD修了者が学術研究を離れるとの合理的決断を下すことになると予測され、統計にはこの傾向が出始めています(レベル3)。オーストラリアの最新のデータによると、PhD修了者の60%が学術関連職に残らないことを示唆しており、これは他の先進国の傾向とも一致しています(McGagh et al., 2016)(レベル2)。イギリスの研究者の能力開発やキャリア開発を支援する非営利組織Vitaeの調査(2013年)によると、PhD修了者全体における失業率は約2%と低いものの、PhD卒業後に学術関係の職に付けているのは修了者のわずか38%に過ぎないと示されています(レベル1)。さらに多くのPhD修了者が学術関係の職から離れていくのであれば、PhD課程の変革の必要性を問わなければならなくなるでしょう(レベル4)。PhD課程が、当初、学術界における次世代の研究者を育成するためとされていたことを鑑みれば、この変化は劇的であり、入学希望者、指導教官、および組織・機関に大きな影響を及ぼす可能性を有しています(レベル5)。

この修正した文章のレベル推移を改めて図にしてみましょう。

文章全体の「トーン」が一層論争的になったと思いませんか。最初の文例では無かった勢いも出たと思います(読者の皆さんも出版された論文を編集できればいいのにと思います)。私は常にそれぞれの段落の最後の一文に苦労してきました。「要約」するという考え方は、あまり役に立ちません。私の最後の文章はいつも少し煮え切らず、漠然としたものでした。でも今は、かつてないほど刺激的な考えを伝え、読者に読み続けてもらえるような文章になっています。

「Uneven U」の考え方は、私が段落を書くときに「外付け(文章の肉付け)」が落ちてしまう学生を助けるのに役立っています。読みにくい段落をレベル分けしたマッピングにすると、大概はレベル3あたりで行ったり来たりしているのが分かるのです。よりインパクトのある段落にするには、段落の途中で具体的な場所に「着地」させる(落ち着かせる)ことが必要です。ハヨの手法で面白いのは、書き手は必ずしもレベル1に至らなくてもよいということです。レベル3の文章を、レベル2まで持って行けば十分ということもあるのです。Uの形は「Uneven」でも、良い文章の流れを作ることができるというわけです。

是非、ハヨの手法を自分で作成する文章の段落で試してみてください。ハヨは、この手法を小区分(サブセクション)の構成や、さらには文章全体にも応用しているので、この本を読むことは本当に考え方を広げることに役立つはずです。Uneven Uの手法が、論文を書くときにどう役立つかを説明するにはこの本一冊全部必要です。ハヨが本書で説明してくれているので、この本を自分で読んでみてください。印刷版でもKindle版でも入手可能です。ただ、書かれている内容はかなり濃厚で、初心者向けではありませんので、その点は留意しておいてください。文系の学生や研究者以外の人は、部分的に読み飛ばした方が良いかもしれませんが、どんな文章でも書けるようにライティングスキルを上達させたいと真剣に考えている人は、この本を非常に有用だと思うことでしょう。

Uneven Uの手法をどう思いますか?一度この考え方が理解できれば、いろいろなところに応用できるし、何が欠けているのかを見つけ出すこともできるようになります。Uneven Uについての説明に興味を持ってもらえたことを願っています。

参考:Uneven U(YouTube, by Dallin Lewis)

Uneven U – YouTube

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2019/02/13/the-uneven-u/

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