研究者同士のカジュアルな会話をうまくこなす方法

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、実は研究キャリアにとっても重要な研究者どうしのカジュアルな会話「ティールームカンバセーション」を上手く行う方法について、ミューバーン准教授の共著書を引きながら紹介します。


年末年始はゆっくりできましたか?(訳者注:原文は2022年1月に公開されたものです。)

オーストラリアは夏の静かな1月が始まりました。2019年(から2020年にかけて)の恐ろしい夏を後に、火災の危険性の低い夏を2年続けて迎えています。実際、12月の大半はかなり雨が降って、ものすごく幸せに過ごせていました。

そんな中、オミクロン株の流行が起きたのです。

クリスマスにちょうどぶつかり、陽性者が出た私の家族は隔離生活をしていました。2021年は、2020年を振り返って「大胆に行こう」という風潮が一般的になったと思います。でも、私個人としては今でも2019年の終わりを引きずったままです。

いつも読んでくださっている皆さんはご存じだと思いますが、私は新年に「抱負」ではなく「キーワード」を掲げることにしています。キーワードとは生き方の指針で、決断を下す際の材料になるものです。2年連続で「Less(より少なく)」をキーワードにして取り組みましたが、2022年も、これをキーワードにして取り組むべきだろうと考えています。そこで、今回も「Less」について書こうかと思いましたが、「Less=省力化」の精神で、年の初めの記事には、執筆中の本から文章を転用しようと思います。一粒で二度おいしい形で。

ここでご紹介するのは、研究によって人々に影響を与えることについてサイモン・クルーズ(Simon Clews)と共に書いている本のある章の初稿です。(私たちは『Be visible or Vanish』=人の目に付かなければ消えてしまう、というタイトルにしたいのですが、今のところ出版社は乗り気ではありません)

この本の中では、学会発表からテレビのインタビューまで、自らの研究を紹介するよう求められる約20の場面への対処法を紹介しています。そのような状況における隠れた法則を表面化し、成功のための戦略を打ち出すのがこの本の目指すところです。各章は、キーポイントのTL;DR(Too Long; Didn’t read=長すぎるという方のための要約)で始まります。次に、自分の研究について話すよう求められる具体的な場面についての「簡潔な」説明を行い、準備の仕方や上手く話すためのヒントを書いています。最後に、変化する現在の世界に合わせ、「離れていてもソーシャルメディアを使って雑談をするための追記」というセクションを設け、対面からオンラインに変わった際に、そうしたヒントをどのように活かせばよいかという、工夫やテクニック、アイデアを補足しています。

この本では、どのような状況にも適用できるような一般的な「良いコミュニケーション」についてのアドバイスとは一線を画するものを目指しています。研究の紹介・発表では、ひとりひとり期待されるものや何をもって成功とすべきかが異なり、習得すべき事柄も人それぞれであるという考え方のもと、私たちはこの本を書いているのです。これに類した本は今のところ発売されてないでしょう。しかしニーズはあるはずだと思います。サイモンと私は、長いキャリアの中で、数え切れないほどのワークショップやマスタークラスでこれらのヒントやテクニックを伝えてきましたが、ブログ記事を除いては、それらを文字にする時間をとってきませんでした。「How to fix your academic writing trouble」と同様、この本を書いた動機は、対面式のワークショップへの参加以外の選択肢を人々に持ってもらうことです。もちろん私自身も活用しようと考えています。

ここでご紹介する章は「ティールームで研究について話す方法」と題されています。ここでは、学術的な社交の場という、あまり知られていない状況を取り上げ、大勢の人と一緒にいる時に研究についてどのように話せばよいかを考えています。皆さんが興味を持ち、今年の半ばの出版を楽しみにしていただけることを願っています。書籍が刊行され(割引券を発行し)たらお知らせします。

PS: On the Regの新エピソードもいくつか公開されています。また、ポール・マギー(Paul Magee)博士と一緒に作った新しいポッドキャスト「Your Brain on Writing」にもご注目ください。

要約

  • 一般的なイメージとは裏腹に、学術界はとても社交的な業界で、社交は避けて通れません(お気の毒様)。
  • とにかく黙る。信頼できる人脈を築くには、話すよりも聞く方が効果的です。
  • 社交の場では、たとえ尋ねられたとしても、研究内容について説教じみた話は禁物です。自分の研究を魅力的に説明するシンプルな一文や決まり文句を用意しましょう。使いながら、徐々に改良していきます。
  • 研究者同士の会話にありがちな、会話の駆け引きやネガティブな話題、「トラブルトーク」を把握しておきましょう。
  • ソーシャルメディアを使い、自分なりのティールームを作ってみましょう。

なぜ研究について、ティールームで話すのか

内向的な人だらけという一般的なイメージがある学術界ですが、実際には非常に社交的な世界です。セミフォーマルな同業者たちとの集まりで話すのが上手くなれば、キャリア構築の上で非常に有利になります。この種の集まりは、食べ物や飲み物が提供されることが多いため「ティールーム」と呼ばれることがあります。これは「仕事」関係が結ばれるプロフェッショナルな場には違いないのですが、そこでは社交的な雑談も交わされます。金曜の午後4時に研究室で行われる飲食を伴う会や、キャンパス内でのワインとチーズの夕べなどを思い浮かべてみてください。

ティールームのようなセミフォーマルな場は意外と多いものです。例えば、会議室に分かれて連続で行われる発表などです。ご存知のように、コロナ以前の学会では、トピックごとにグループに分かれて連続で発表を行うのが一般的でした。1つのセッションで3ないしは4のプレゼンテーションが行われます。こうしたセッションに参加すると特定の研究分野の発表を横断的に聞くことができるため、大規模な学会で有意義過ごせます。同じような関心を持つ人々と出会えますが、こういった場の「ルール」上、セッション中に話す機会はあまりありません。会話は、フォーマルなプレゼンテーションスペースの外で、人々が集って始まります。共同研究や共著書執筆への誘いや、さらには相手のスキルや経験を非公式に探る「就職面接の事前面接」まで、様々なことがここで始まります。

このような場で立ち回るには外向的である必要はありませんが、外向的であることは役に立ちます。ティールームでの会話は社交の機会であり、これにより人やリソースなどの情報を交換する上で必要な信頼関係を築くことができるのです。優秀な学者を紹介すれば、十中八九、さまざまな分野で社会的信頼のある人物を紹介してもらえるでしょう。

社会的な成功にメリットがあるのは明らかです。しかし、アカデミックな生活でティールームが重要であるということは、介護をしている人や、初対面の人々と交流するのが苦手な人にとっては不利に働きます。こうした格差が存在することが、このセクション執筆の動機となりました。

残念ながら、私たちには社交的になるやり方を教えることはできません。それは、ほとんどの人が生涯をかけて学ぶスキルなのです。ですが、学問の世界での社交が苦手だという人も、あまり心配しないでください。ほとんどの人は、不器用な研究者たちとの交流を得意としていません。

学部生であれば研究者と対面するのは、教室にいる時か、あるいは、カフェテリアのコーヒーの列で前後にぎこちなく並ぶ時ぐらいのものでしょう。大学院生になると入室が許可される教職員用のティールームは、ポスドクや教員になれば、さらに身近な場所になります。学術的なティールームはそれまでに経験したことのないほど、きまりの悪い場所になるかもしれません。ここでは、こうした場の重要性について手短に解説し、この新たな人付き合いを乗り切るためのいくつかのアドバイスをお伝えします。

聞き上手になるための準備

この章を「聞く」ことについての説明から始めることもできたでしょう。話にしっかりと耳を傾けるほど相手には好感を持たれるものですが、上手く話を聞くには積極性も必要です。私たちの多くは、自分が実際よりも聞き上手だと思い込んでいますので、ここでは相手の話を上手く聞くためのコツを紹介します(完全ではありません)。

  • 話を遮りたいという衝動が生まれてもそれから3倍以上の時間を掛けて相手の話しに耳を傾けます。十分な時間話してもらうことで、その人にとって自分は安心して話せる話し相手となれます。
  • 相手が話しかける時、少し前かがみになりましょう。これは、アイコンタクトと同様に、注意深く聞いていることを示す非言語的方法です。
  • 直接目を合わせ続けると、威圧感を与えることがあります。短く、頻繁に視線を送るようにしましょう。アイコンタクトを続けるのが難しい場合、相手の耳や眼鏡のフレームを見るようにします。
  • 「はいはい」といった相槌は相手の話を促すものですが、多すぎると話を止めろという合図と解釈されかねません。頷きながら相槌を打つとより効果的です。
  • 聞くだけでなく、ちゃんと聞いたということを示します。一番簡単なやり方は、相手が話した内容を自分の話に盛り込むことです。とは言え、実際に行うのはそれほど簡単ではありません。今度社交の場に出た際に注意してみてください。人の話を聞くプロセスにおけるこの分かりやすいステップを、多くの人が苦手としていることに気づくことでしょう。もっと言えば、自分が話を聞いていないように見えてしまう、ということに無自覚な人さえいます。どのような人でしょうか?あえて言うと、あくまで文化的にですが、男性は女性より会話のこうした側面を見落としがちです。相手の話に純粋な興味を示すというのは女性だけのことではありませんが、この傾向が、職場において女性のコミュニケーション能力が優れているとされる主な理由なのです。
  • 質問を挟むことが、相手の話を聞いているということを示す分かりやすい方法ですが、似た話をしたり、相手の話から何か推測したりしても同様の効果があります。アドバイスをしたい、相手の問題を「解決」したい、という衝動に駆られないようにしましょう。共感を示し、その上で、相手がその問題にどう対処するつもりなのか聞いてみます。1週間、自分に対して「すべき」という言葉の使用を禁じてみて、どの程度の頻度で自分を抑えなければならないかを記録しておくのもよいでしょう。
  • 何についての会話がなされているかメモしておくと、人々の間で何が重要とされているかが分かります。将来的な交流に備えて、それを覚えておきましょう。

多くの人に会うのであれば、連絡先管理のデータベースを活用してもよいでしょう(もちろん、怪しくないものを)。インガーは、自分の職業上のネットワークについて、特に研究上の興味や専門分野に関するメモをファイルに保存しており、問題があった場合、その問題について誰に聞けばよいかがわかるようにしています。私たちの経験では、きつい要求でない限り、ほとんどの場合、人は自分の専門知識について相談されることに喜びを感じます。

会話上手になるために

“What is your research about?(何を研究されていますか?)” はティールームで初対面の人と話す際の、最も一般的な会話の切り出し方です。これは世間話の切り出しであって、講釈をしてくださいというお願いではありません。ですから、こんな質問に備えて、一文にまとめた答えを用意しておきましょう。相手がもっと話したくなるようなものが理想です。このような一文は、映画の世界では「ログライン」と呼ばれています。以下は映画「ジョーズ」のログラインです。

人喰いザメによって混乱のさなかにある海辺の町で、地元保安官と海洋生物学者、そして年老いた船長が、新たな犠牲が出る前にサメを仕留めようとする

映画のログラインには、登場人物と筋書きがあります。この2つの要素を、研究に関する用語に置き換えることが可能です。例えば私の博士課程のログラインはこうです。「私は建築家たちが手を使ってどのようにコミュニケーションするかを研究しており、教室でのジェスチャーがどのような働きをするかを解明しようとしています」。登場人物は建築家たちで、筋書きは「ジェスチャーがどのような働きをするか」です。

みなさんのログラインは、おそらくその時々で変わるでしょう。この5年間、私は博士号取得後の就職について研究してきました。しかし、これはログラインではなく、トピックです。「PostAcの研究では、機械学習と自然言語処理(ML-NLP)を駆使したアルゴリズムを構築しています」というのも分かりづらい説明です。私は、コンピュータサイエンティストたちが、「アルゴリズム」のことを「機械」と呼ぶことから、より分かりやすい表現を自分のログラインに取り入れました。そして、研究内容について聞かれると、「求人広告の読み方を機械に教えて、研究職の求人が大学以外でどれくらいあるのかを調べようとしています」と答えるようになりました。

ログラインの目的は、自分のやっていることを正確に説明することではなく、簡単に質問できる入り口を相手に与えることです。ログラインとは、自分が興味深い研究をしている興味深い人であることを相手に示すためのツールに過ぎません。興味深いということは、研究者にとっては重要な資質であるにも関わらず、あまり認識されていないのです。

よく知らない人たちばかりの部屋は緊張するものですが、とけ混むコツもあります。一般的に、人は4人までのグループであれば、会話は自然に続いていくといわれます。5人以上の集まりの場合、たいていはその中の1人が何らかのストーリーを語るなどして「場を取り持つ」ことになります。

このような会話は、少なくとも話題や構成という点で、ある程度は予測可能です。会話の駆け引きや、臨機応変に答えるための「レパートリー」をあらかじめ培っておくことができるのです。ですから、こうした状況を研究し、可能な限り「ティールームの駆け引き」の練習をしておくことをお勧めします。

ここでは私たちの見つけた会話のレパートリーと、そのそれぞれ対処するためのアイデアを紹介します。

  • 何を研究されているのですか?
  • 私の研究についてお話しします。
  • 昔はこんなやり方で研究していたものです(バリエーション:なぜ、そのやり方がいいのか教えてあげましょう)
  • なぜ私の方法ではやらないのですか?
  • 〇〇について、困っています。あなたならどうしますか?
  • YについてのXによるプレプリントを見ましたか?(@quantum_graemeさん、ありがとうごさいます)
  • 私の練習用プレゼンを見ていただけますか(@Zelda_Doyle ありがとうございます)
  • ミーティングに参加されましたか?本当の感想をお話ししたいです。
  • ネガティブな会話のバリエーション
  • ゴシップ
  • 男性の女性への高圧的な物言い
  • 自慢話
  • 忙しさの比べ

アカデミックなティールームでは、常に、相手に愚痴を言い合う人たちがいます。内容は事務処理に関するものから 他の同僚の人格を中傷するものまで様々です。初めての人にとっては、そんな愚痴や泣き言はショックキングで、どう対応したらいいのか分からないかもしれません。

こうしたネガティブな会話、トラブルトーク(Troubles Talk)は、モラルの低下や病んだ研究文化の表れと捉えたくもなりますが、会話分析の研究はから、それが人と人との関係構築に関わるという興味深い話が明らかになっています。トラブルを共有することは信頼を示すことであり、人はそのことで体験の共有というぬくもりに包まれるのです。負のスパイラル、ゴシップのスパイラルに陥るのではなく、こうした利点のためにネガティブな話題を活用することもできるのです。ゲイル・ジェファーソン(Gail Jefferson)によるTroubles Talkに関する代表的な論文では、トラブルトークに対する3つの標準的な反応を分類しています。1)悩みを診断する、2)アドバイスをする、3)同じような悩みを共有する。これらの戦略の中で最も安全なのは、3番目の「同じような悩みを共有する」だと私たちは考えています。話を聞いてもらいたいだけという人にとって、相手の悩みを「解決」せずにはいられない、という人は迷惑な存在です。

または、単に話題を変える、というのも対処の仕方としては良いでしょう。

離れていてもソーシャルメディアを使って雑談をするための追記

ティールームでのセミフォーマルな集いに代わるバーチャルな場として最も優れたものがソーャルメディアです。もちろん、ソーシャルメディアは、アルゴリズムに毒された夥しいコンテンツが表示されたり、いわゆる「荒らし」があったりと、有害な面もありますが、自分らしいティールームを作り出す場所にもなりえます。

ソーシャルメディアにおける有効な会話の「ルール」は、上に紹介した対面での会話のそれと驚くほど似ています。話すことよりも聞くことを大切にし、相手の話の内容を自分の返答に盛り込むようにしましょう。実際の会話とソーシャルメディアでの会話の大きな違いは、その始め方です。ソーシャルメディア上での会話という大きなテーマについて説明するスペースはここにはありませんので、いくつかのヒントを紹介します。

  • ソーシャルメディアのハンドルネームをどのように「装う」かを慎重に検討します。使用する写真や言葉によって、自分がどのような人物か印象付けられます。
  • 自分の写真を使う必要はありません。10年近く、私は積み上げられた紙の山の写真を使っています。自分では、これが他の女性研究者に比べて性差別を受けたことが少ない理由だと信じていますが、荒らしを避けるために姿を隠す必要はありません。ブロックすればいいのです。
  • 自分のフィードを注意深くキュレーションしましょう。検索ワードやハッシュタグを使い、同じような興味を持つ人を探してフォローします。
  • 他の人の会話を注意深く観察しましょう。そのコミュニティで、どのような話題や対応が受け入れられているでしょうか?
  • 興味深い会話をしている人に慎重に反応してみましょう。気の利いたことを言うのが難しければ、役立つ内容、興味を引く内容を言えるように心がけましょう。

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2022/01/05/37846/

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