研究者のための用途別メモアプリ、データベース活用法

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。論文執筆、文献レビュー、プレゼンなど用途に応じて、研究者は多くの情報を整理・活用しなければなりません。今回は、数々のメモアプリ、データベース、専用ソフトを試してきたインガー准教授が、用途別にメモの方法やメモツールの活用法を語ります。


この20年、私は、完璧な学術的メモの取り方を探ってきました。

紙のノートこそが自分のアイデアが死んでいく場だと気づいた2005年、私は紙を捨てました。当時はノートに取ったメモが役立つと思っていましたが、後からそれを見つけるのは困難だったのです。何百ページもの殴り書きをあてどなくめくるのはもどかしく、もし該当のメモを見つけたしても出典資料がなければ意味をなしません。プリントアウトした資料にメモを書きこむことで、この問題は解決しましたが、別の問題が生じました。ファイリングです。メモの内容は、著者、タイトルのどちらかで覚えている場合もあり、トピックやアイデアだけで覚えている場合もあります。だからと言って、一度に4つのカテゴリの下に1枚の用紙をファイリングすることはできないのです。

正直、この15年間、紙に固執する人たちのことが不思議でした。デジタルのノートにはさまざまな利点があります。検索機能はファイリングに代わるもので、紙から画面にメモを書き写す 「取引コスト」 を実質的になくします。素晴らしいことだらけに聞こえますが、世の中にはデータベースソフトが山のようにありながら、その中に絶対的なスタンダードはありません。その理由は、どれもメモを取るということについての問題を根本的に解決していないからです。

ずっとデジタルでメモを取ってきましたが、告白しなければなりません。デジタルのノートの方が良いとと周囲に言っている間じゅうずっと、私は、どこかこれではダメなんじゃないかと思っていました。執筆しながら、呆然としている自分に気づくこともしばしばでした。必要な情報を集めていたはずなのに、集めた注釈や書き抜きはあまり役に立っていなかったのです。

これは、ツール自体の問題ではありません。使えそうなデジタルツールをほぼ試し尽くした後だから言えることです。

プリントアウトした資料に書き込むのと同じ使い勝手を求めて、EndnoteやZotero、Mendeley、Papers2といった文献管理ソフトでメモを取ってみましたが、紙のノートに書くよりも、そうしたソフトでメモを取った方がまとめづらいように感じられました。バラバラのメモを集めることで、自分の思考もバラバラになってしまうのです。

その後、デジタルデータベースも試してみました。関係性や結びつきを見出しやすいのがデータベースです。検索を実行すれば関連項目が一覧表示され、アイデアがひらめきます。これまで私は、Evernote、DevonThink、OneNote、Readwise、Pocket、Notionなど数多くのデータベースを使ってきました。そのいくつかを周囲に薦めていたこともあるのですが、努力して使うだけの価値があるとは思えなくなってきたのが実際のところです。

Devon Thinkの機械学習を活用した検索など、優れた機能を持つデータベースもありますが、メモのデータベースを適切に管理するには大変な労力が必要です。またデジタルデータベースでは、その一番の強みが、最大の問題ともなります。それは、フリクションがなさすぎる、ということです。データの保存や移動が難なくできるため、膨大なデータを無秩序に蓄積できてしまうのです。

その結果起きるのは、情報の消化不良です。

ファイル名の付け方や、タグ付け、プルーニングに相当気を遣わない限り、データベースは混沌としてしまいます。管理に多くの時間を費やすノート・データベースは、読むことのない紙のノートに負けるという結論に達しました。

メモを取るということは、基本的には情報から洞察を絞り出す方法で、多くの場合、出来上がったものよりプロセス自体が重要です。メモの内容が無意味だという意味ではありませんが、メモは目的ではなく手段だということは覚えておきましょう。私たちの首の上についている 「人体のコンピュータ」 は、関連付けやアイデアの創出に長けていますが、メモはその助けとなるのです。

私ができるアドバイスといえば、「完璧なシステム」 を持たなければならないという強迫観念を捨て、自分にとって役立つソリューションを開発することです。以下は、私がどのようにメモを取るかについてのメモです。整ってはいないですが、機能はするでしょう。

体系化されていないため、私のやり方をそのまま使うことはできないでしょう。いろいろなワザと対応策の寄せ集めですが、中にはあなたに役立つものがあるかもしれません。あるいは、私の散らかった実情を見て、ご自分の場当たり的なやり方の方が良いと安心できるかもしれません。

ライティングのためのメモ

私がオーストラリア国立大学(ANU)で開講している「論文ブートキャンプ(Thesis Bootcamps)」では、メモに頼らず書く方法を教えています。メモを見ながら、最初から完璧な文章にしていこうとすると、創造のプロセスがあらぬ方向に進みます。まずは、何も使わずに書き、後からメモで情報を確認するという流れで、4倍から5倍速く書くことができます。

論文執筆に必要なメモは、既読の資料だけではありません。アイデア、事実、発見、データについての考察などが必要です。メモを取るベストな方法は、特定の目的のための名前付きファイルに直接書き込むことで、ファイルはメモの基本ツールとして機能します。メモはコメント欄に、または別のフォントで書きます。このメモが、最終的な論文の下書きの「塊」になります。主語、目的語、動詞のある文章の形で記入したものを、作成・編集する論文に組み込んでいきます。

このような方法を試してみようという方は、Scrivenerのような目的に合わせたツールを使用するのが良いでしょう。Scrivenerには、メインテキストの横にメモの記入欄が組み込まれています。また、テキストデータを含むPDFファイルでの保存機能もあり、執筆の際、関連するソース資料のリストも利用可能です。つまり、Scrivenerでは 「プリントアウトした資料への書き込み」に近いメモをデジタルで行えるのです。

Scrivenerは非常に役立ちますが、それでもメモの分散の問題は生じます。すべてのライティングは、新聞の切り抜きで膨らんだ書類フォルダーを使った執筆のデジタル版になります。そうした切り抜きは、他のプロジェクトでも使える可能性がありますが、そのファイル内で保存され、複数のScrivenerファイルのメモを横断的に検索することはできません。とはいえ、十分に使えます。

文献レビューのためのメモ

文献レビューでは、特別なメモの取り方が必要になります。最近では、私のようなマイナーな専門分野であっても、文献の量は不安になるほど多く、膨大な情報を読んで統合しなければなりません。読んだすべてを、少なくとも直接使うわけではないため、レビューに何を含め、何を背景情報として残すかを決めるのも作業の一部となります。場合によっては、読んだものの引用はしていない文献を含む広範な参考文献リストも作成されますが、そのため本文では言及しない文献についても記録を残することが重要になります。

文献レビューには、特殊なツールが必要です。

コーネル式ノート術を使って執筆をする人もいますが、私が好んで使うのは、mystudiouslifeというブログで知った、文献レビュー用の表を使う手法です。表では、列と行にそれぞれ、論文名と設問を記入していきます (具体的な例がこちらです)。この表の利点は、付け足しが可能であることで、文献が増えれば列を追加します。行を読んでいけば、同じことについて異なる著者が何を述べているかを比較し、総合的な判断をすることが可能になります。たくさん記述される行とそうでない行がでてくるため、この方法は文献の少ない領域を見つけるのに最適です。

その後このアイデアといくつかのバリエーションについて私は、Katherine Firth、Shaun Lehmannと共にHow to Fix Your Academic Writing Trouble』と『 Level up your essays』の2冊の本に詳しく書きました。また、表の使い方については無料公開もしています。ExcelやMS Wordでは、フォーマット調整が面倒なため、Googleのスプレッドシートを使って作成しています。最近では、長期的なプロジェクトにはGoogleフォームを実験的に使用しています。フォームを使用すると、アイデアを順次取り込んでいけます。

次に、アイデアが交差する箇所を確認できるように、表を自動生成します。

これは、思考の構造化に役立つコーネル式ノート術と、物事の関係性を強調する表を使った方式をうまく組み合わせたものです。

ソーシャルグラフの形式で関連性の高い研究が表示されるConnected Papersなど、優れたツールも出てきていて、無限の情報の時代における文献レビューの未来がここにあると思います。私自身、ぜひ、使っていきたいです。

授業・発表のためのメモ

プレゼン用のメモは非常に貴重です。この種のライティングとメモ取りの中間的な作業は、聴き手に焦点を絞って行われます。教える、ということで、話の順序や相手の理解について考えるようになります。発表でも、アイデアをストーリーにする方法を考えさせられます。文章にこだわるのであれば、パワーポイントを使ったプレゼンテーションで、ノートウィンドウにメモを書くのも良い方法です。

ここでの私のやり方は最も楽な方法を取ることです。スライドにすべてを書き込んでから、そのほとんどをノートウィンドウに移動し、プレゼンが文字だらけにならないようにします。ノートに書かれたメモの文章は論文や記事で再利用しています。難しい講演の場合や、自分が望むように資料を読み込めていない場合は平易な言葉で書かれた台本を作りますが、そうした平易な文章こそ使い勝手がよくなります。私がConfirmation of PhD(博士号取得にむけた研究内容の審査)のために作った台本は、そのまま論文のイントロダクションに転用しました。

特定のタスクやプロジェクト用ではないメモ

研究者は誰でもそうだと思いますが、私は興味のある分野の記事を目的もなく読むのが好きです。読んだ内容を記録に留めておきたいのですが、メモを取るプロセスに必要以上に労力をかけたくありません。明確な目的のないメモは最も管理が困難です。そのため、様々なツールの中で今でもデータベースが必要になってくるのです。実際、学術的な作業を管理するには、複数のデータベースツールが必要になるでしょう。

私はPocketを使ってウェブ上の情報をクリップしていますが、タグ付けもファイリングもしていません。興味のあるものはとりあえず保存して、その中に解明したいことがあれば検索します。メールやプロジェクトの整理には今でもOmniFocusを使っていて、会議のメモもそのノート欄に記入しています。

仕事上の連絡先リストを管理にはNotionを使っています。これは個人的なwikipediaといったもので、これまでに試した構造化データベースの中では一番だと思います。個人的なメモについては手書きに戻りましたので(下記参照)Notionは使いませんが、私の息子のようにとにかく手書きが嫌だという人は試してみる価値はあるでしょう。息子が大学に入学した際に勧めると、講義ノートは全てNotionで取るようになっています。彼はそのメモから文章を起こしていますが、上手くいっているようです。

思いつきやアイデアを書き留めるためには、長い間Evernoteを使っていました。最近では紙を使えば同等かそれ以上の効果があるので、使わなくなりました。友人で 「On the Reg」という Podcastを一緒にやっているJason Downsは、バレット・ジャーナル方式(#bujo)を取り入れました。何でも彼の真似をする私もノートを買って鉛筆を削りさっそく試してみました。

#bujoは、メモを書いたり、図を描いたり、リストを毎日管理したりするのに非常に便利です。そのノートに書き留めたメモを、プレゼンや論文に落とし込みます。この記事の目的は、#bujoを実践する方法の正確な説明ではありませんので、気になる方はYoutubeのBullet Journalに関するチャンネルで動画をチェックしてみてください。

#bujoについて私ができるアドバイスは、とにかく試して、ということだけです。

#bujoと普通のノートの一番の違いは、#bujoにはページ番号があり、先頭に索引が付いていることです。このページ番号付けだけを実装しても、ノートは1000倍便利になり、アイデアの死ぬ場所ではなくなります。#bujoを活用する方法についてもっと知りたい方は、4月上旬に公開したOn The Regポッドキャストをお聴きください。

メモを取るという作業についてのこの考察が皆さんのお役に立つことを願っています。研究効率化のテクニックが私の関心事項の1つですので、今回はこの件について考えてみました。ご自分の方法あなたがについてシェアしたり、私とチャットしたりしたいという方はぜひ、Twitterでどうぞ。

PS:作業効率に関する記事がお好きなら、ぜひ私とJason Downsのポッドキャスト 「On the Reg」 をお聴きください。このポッドキャストでは、オーストラリアはこれまで17時間近く、学術の生産性に関する放送をしてきました。University bullshit and working out when to shut upと題したエピソードは、特に人気です。私たちがどうやって#bujoを実践したかを語っている回もあります。購読オプションはBuzzsproutのページをご覧ください。

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2021/04/07/perfectnotes/

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