or

接続詞「or」は、日本人によって過度に使用される語です。私が校閲してきた論文の中でも「or」は多く用いられてきましたが、その約半分は「and」の方がより適切と思われるケースでした(対照的に、「and」が「or」の代わりに誤って用いられる例はまれです)。
「or」の基本的な役割は、文脈において複数の個別に実現できる「ケース」を識別することです。つまり、「or」によって結ばれる語句はそれぞれ個別の「可能性」を示しています。「or」と「and」のどちらを使うかを決める際には、まずその文脈を見る必要があります。その文脈において、「or」か「and」によって結ばれる語句が個別に実現できる「可能性」を表す場合は「or」を、そうでなければ「and」を用いるのが適切です。
以下に「or」の正しい用法の典型例を示します。

[正] However, the nature of this process depends greatly on whether the
cell in question is eukaryotic or prokaryotic.

ここでの「or」の用法を理解するために、まず「eukaryotic」と「prokaryotic」が持ち出される文脈を考察しましょう。これらの形容詞を含む節(つまり、「whether…prokaryotic」)の主語が「the cell in question」だということに注目してください。この主語はある1つの任意の細胞を意味するため、この節の背景とみなされるのはその1つの細胞です。ある1つの細胞は必ず「eukaryotic」か「prokaryotic」かのどちらかですので、その細胞の種類に関しては2つの個別の実現可能なケースが存在します。したがってここでは「or」の用法は正しいと言えます。次に、(1)を以下の文と比較してみましょう。

[正] According to the most fundamental categorization, there are two types of cells, eukaryotic and prokaryotic.

この例文は(1)と異なり、「eukaryotic」と「prokaryotic」が個別に存在可能であるという「可能性」を表しません。例文(2)の背景は、ある1つの細胞ではなくむしろ存在する細胞すべてなのです。その背景の中に「eukaryotic」と「prokaryotic」という2種類の細胞が同時に存在するということになりますので、この文においては「or」ではなく「and」が正しくなるのです。ここで「and」を「or」に置き換えると、存在するすべての細胞に関して2つの実現可能なケースがあるという意味になります。つまり、そのすべてが「eukaryotic」か、あるいはそのすべてが「prokaryotic」かという2つの可能性があると捉えられてしまいます。
※上記の誤用例において、「or」は日本語の「や」あるいは「または」にあたると思われますが、こうした「or」の日本語の解釈は誤っています。ここで留意していただきたいのは、「や」と「または」、「あるいは」などの日本語は英語では「or」ではなく、「and」に対応するケースが多いということです。
以下に「or」の典型的な誤用例を挙げます 。

[誤] Much attention has been focused on elucidating the mechanical or chemical properties of protein molecules.

[誤] Several alternative treatments, such as immunotherapy or hormone therapy have been proposed.

[誤] Here, we consider purely quantum effects, for example, the exchange interaction or quantum tunneling.

先述の理由により、上記すべての例文において「or」ではなく「and」が用いられるべきです。
詳しい解説についてはグレン・パケット:『科学論文の英語用法百科〈第1編〉よく誤用される単語と表現』(京都大学学術出版会,2004)の第94章をご参照下さい。


Dr. Paquette

グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。

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