効率的な文献レビュー

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン教授のコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、文献レビューをシステマティックで効率的に行う方法について解説します。

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最初に、私がケンブリッジ大学で開催する一般公開のイベントをいくつか紹介しましょう。

6月6日(火)午後5時30分からケンブリッジのウルフソン・カレッジで、サイモン・クリューズとの共著『Be visible or Vanish』のテーマについてのレクチャー。ケンブリッジまで来られる方は直接会場にお越しいただくこともできますし、そうでない方はオンラインでもご予約いただけます。

7月10日(月)午後5時30分~7時30分には、ケンブリッジのキングスカレッジで、不確実な時代における博士号についての講義を行い、英国の研究スキル市場に関する最新のデータについてお話しします。

さて、ここからが今月の投稿、文献レビューの執筆をいかにスピードアップするかというシリーズの第1弾です。

私は文献レビューをするのが苦手です。

研究者は素晴らしいアイデアや知見を持っているのに、それを難解な専門用語や厄介なペイウォールで隠してしまいがちです。広大なデジタル空間から論文を掘り出したとしても、そこからが本当の苦痛です。一度にたくさんの論文を読むと、本当に気が変になりそうなのです。

私はサバティカル(研究休暇)中なのですが、愚かにも、その間にニューロダイバーシティ(神経多様性)と博士号に関する大規模な文献レビューを行うとボスに言ってしまいました。大変なことになってしまいました。私がサバティカルを過ごしているのはケンブリッジ大学ですが、みんな本当に面倒見が良い人ばかりです。ランチやディナーのお誘いに「No」とはいえません。特に、中世建築の(あるいはモダニズム建築の)大学の食堂で、大昔のアカデミックな装飾品に囲まれ、聡明で面白い人々と一緒に食事できるのであれば、なおさらです。

ケンブリッジで提供される料理の素晴らしさをご覧ください。これはグラスゴーでは「フィッシュ・ティー」と呼ばれるメニューで、豆のマッシュが添えられています(ThinkLabの客員研究員として私が「所属」するウルフソン・カレッジにて)。

そしてこれが、私が勇気を出してスマホをこっそり取り出して撮った、キングス・カレッジでいただいた素敵なタラ料理の残りです(野菜を食べる手を止め、メールをチェックするという体裁で撮影)。

社交の時間を最大化するため、私はこの文献レビューというナンセンスなことを超効率的にやろうとしています。

今回のレビュー執筆は、2006年に博士号を取得して以来の最大のものになります。当時はジャーナル掲載論文でさえも、すべて紙で読んでいました(動物的な生き方でした)。結局、付箋だらけの大量のコピー用紙と本に囲まれて終わりました。この物理的な散らかりが、私の文献レビュー不安症候群とその後の回避行動の一因になったことは間違いありません。

今回は、私の知る限りのあらゆる技術的なトリックを駆使して、文献の苦痛に対処しています。プロセスは以下の通りです。

文献レビューをセグメント化する

まずはGoogle Scholarにキーワードを放り込んで、何がヒットするか見てみたいという誘惑があるでしょう。止めはしません。私自身、この方法でたくさん良い発見をしてきましたが、これは散漫なやり方で、すぐに溺れていく自分に気づくことになるでしょう。

圧倒されるのを避けるために、私はタスクを「セグメント化・細分化」し、より大きな文献の世界のほんの一部をマッピングすることを目指します。今回の場合は、教育におけるニューロダイバーシティに関する文献だけに絞ります。原因や診断ツール、障害とみなすべきかどうかの議論などは含めません。いずれそれらすべてを掘り下げる必要があるかもしれませんが、一度に手を付けるのはひとつだけです。

もしあなたが書籍や博士論文のような大きな規模の執筆に取り組んでいるのであれば、おそらく複数の文献マップが必要になるでしょう。厳密に整理された複数のマップがあれば、膨大な文献をしっかり着実に横断することができます。

検索内容をできるだけシンプルに表現する

文献ギャップが本当にあると仮定し、次のような質問に落とし込みます。
「神経多様性のある博士課程の学生や社会人研究者の経験について、私の研究に役立つような既存の研究はあるか?」

質問を付箋に書き出し、画面の端に貼っておくと、集中力が持続します。次に、検索フレーズが1つか2つ必要です。検索語句に演算子を組み合わせる、ブーリアン検索を試してみましょう。

Neurodiversity and higher education(「神経多様性」 と 「高等教育」の両方を含む)
Neurodiversity and employment(「神経多様性」と「雇用」の両方を含む)

(2つ目の検索語句は、博士課程の学生は雇用されていることが多いためです)。

検索した結果、あまりに無関係なものが出てくるようであれば、修飾語を加えてください。例えば、認知機能に問題のある人をどのように一般的な雇用に導くかについての論文はたくさんあります。私が興味を持っているのは知識労働をする人なので、「not(を含まない)」という修飾語をつけた:
Neurodiversity and employment not disability(「神経多様性」と「雇用」の両方を含み、「障害」を含まない)」

検索を始めるのにふさわしいデータベースを見つける

Google Scholarは素晴らしく、検索に最適なインターフェースを持っていますが、研究分野に適したデータベースから始めるべきです。私の場合は、ERICを(ProQuest経由で)使っています。
なぜこのようなアドバイスになるのか、自分でもよくわかりません。

「Googleはすべてを網羅しているわけではない」と言われますが、私の経験上では、少なくとも私の分野では網羅しています。オーソドックスな手法にこだわることに害はありません。少なくとも、査読の過程では擁護できる行為です。どちらにしろ、最初のデータベースは出発点に過ぎないのです。

(自分の専門分野のデータベースに精通していないのであれば、親切な司書に相談してみましょう)

文献はまだ通読しないで!

要旨のみ読むようにします。雰囲気をつかむためです。この段階で個々の論文をダウンロードして読むのは初歩的なミスです。信じください。私はこの間違いを数え切れないほど犯してきたから知っているのですが、その先にあるのは狂気です。ウサギの穴に落ち、いつの間にか18世紀の住宅における雑巾がけの政治性についての論文を読んでいることになるでしょう(ちょっとだけ誇張しました)。

また、論文をすぐにレファレンス・マネージャーにインポートすることもお勧めしません。(レファレンス・マネージャーを使っていないなら、ぜひインストールしてください。) 最初からすべての書類をレファレンス・マネージャーに入れると、愛着が湧いてしまい、結局「物」が増えすぎてしまうのです。溜め込み癖を直した人間から言わせてもらえば、「文献ネタ」が多すぎるのは思考に良くありません。
論文をキュレーションするプロセスは、巨大なチャリティーショップで服を買うのと似ています。無数の服から選ぶのは簡単ではなく、多くは価値がないに等しいものだからです。自分に合うものを見つけるには、何着も試着する必要があります。

デジタルの「ロッカールーム」:シンプルなスプレッドシート
使えそうな論文があれば、書誌情報だけを「デジタルのロッカールーム」に保存しておきます。ExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ツールを起動し書式を整えた書誌情報を各行にカット&ペーストしていきます。書式はバラバラになるでしょうが、後々の解決すべき問題だと完璧主義の自分に言い聞かせます。最初の著者名さえ正しければ大丈夫です。
私がスプレッドシートを勧める理由は、「その場で」キュレーションできるからです。検索するうちに、対象や除外の基準ができ、さらに範囲が狭くなっていくのが分かります。なぜそうしたか、理由を忘れないように、基準を書き留めましょう。全体像が見えてくれば、最初に集めたものの関連性が薄いと思うようになるかもしれません。レファレンス・マネージャーに入っている書類を手放すのは、なぜか心理的に難しいものですが、エクセルのスプレッドシートから1行を削除するのは、クリック数回で苦もなくできます。
エクセルのようなプログラムを使えば、便利なルックアップテーブルを作ることもできます。レファレンス・マネージャーよりも手間がかからず、並べ替えも簡単で、持ち運びにも便利です。新しい論文を追加する前に著者名を検索することもできるし、最後に重複を削除することもできます。論文が書かれた年の列を別に追加すれば、文献を時系列に並べ替えることも可能です。論文が書かれた順に読むことで、どのように話題が進んでいったかを知ることができます。
厳重に管理された文献リストは、上司やチームメイトにも共有できる貴重な研究成果です。後日、このシートをデータコモンズで公開し、他の研究者が使えるようにするのもよいでしょう。

文献の近隣を探索する(ロボット使用)
最初のリストはかなり大きいかもしれません。私はProQuestだけで、上に挙げた2つの検索語から90の論文を見つけました。
私の場合そうでしたが、うまくいけば、過去に別の研究者があなたが現在行っている文献レビューと同じ分野のレビュー論文をいくつか見つけることができます。これで、参考文献を使って検索範囲を広げる準備が整ったことになります(業界でいうところの「citation search引用文献検索」です。見つけたレビュー論文から参考文献をかき出すことから始め、次にロボットの助けを借りましょう。
現在、市場には興味深い文献レビューサポート/ロボットがいくつかありますが、いずれも何らかのアルゴリズム検索を使っています。PetalSciteをチェックするのもいいですが、私はこの作業にconnectedpapers.comを使いました。残念ながら無料では使えなくなってしまい、年額の30ドルを払いましたが、最後まで読まない1冊の本にこの金額を使うことはよくあるので、払うだけの価値はあると思います。

インガー

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