読者を想定しながら論文を書いてみよう

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、アカデミック・ライティング月間に参加したことにからめて、論文を書くときには読者を想定して書こうというお話です。


#acwrimo(Academic Writing Month)も終盤です!

(訳者注:原文は2021年12月に公開されたブログです。)

今年のアカデミック・ライティング月間(Academic Writing Month)に参加しましたか?もちろん、私は参加しました。今年はロックダウン期間中だったので、オーストラリア国立大学(ANU)構内で盛り上がりました。ここで詳細を語ることはしませんが、結構頑張ってワークショップを開催したので、別ページに掲載のワークショップ情報も見てもらえると嬉しいです。

この記事では、私が開催したワークショップの中から「どうやって説得力のある文章を書くか(How to write a powerful paragraph)」を取り上げてみます。実は、このワークショップの当日の朝は、たっぷりコーヒーを飲めなかったので、いくつかのコンセプトの説明が分かりにくくなってしまいました。学生は少し混乱したかもしれません・・・

 

 

 

 

 

画像はGIPHYより

なので、ここで改めて(混乱を正せるように!)文章の構成について話をします。

アカデミック・ライティングは、見出しと文章から構成されます。短い文章であれば見出しの作成は簡単です。以下に、キャサリン・ファース(Katherine Firth)とショーン・リーマン(Shaun Lehmann)と私の著書『How to fix your academic writing trouble』の中で解説した2種類の基本的な学術論文の構成について記します。

科学論文の基本的な構成

  • 要旨:広い視点から研究対象を定め、特定の問題に焦点を当て、文献の情報に基づき、自分が行った研究およびその重要性について論じます。
  • 序論:他の研究者が行ったことを踏まえ、なぜ自分の研究が必要なのかを読者に説明します。このセクションは、自分の研究の売り込みと文献レビューを組み合わせたものになりますが、レビューに重点を置いて書くようにします。
  • 方法:自分が研究で行ったことを他の誰かも簡単に再現できるように記します。
  • 結果:図表に文章を添え、読者が記載内容を把握しやすいように、さまざまな部分に分けて記します。
  • 考察:結果が何を意味するのか、通常、他の研究でどのようなことが行われているのかを記します。
  • 結論:研究の重要性を振り返り、さらに研究を深めることのできる他の分野での研究を提案します。

人文科学の論文の構成には類似点もありますが、強調する箇所に違いがあります。

  • 要旨:広い視点から研究対象を定め、特定の問題に焦点を当て、文献の情報に基づき、自分が行った研究およびその重要性について論じます。
  • 序論:他の研究者が行ったこと(選択が重要です)を踏まえ、なぜ自分の研究が必要なのかを読者に説明します。このセクションは、自分の研究の売り込みと文献レビューを組み合わせたものになりますが、研究内容の説明に重点を置いて書きます。自分が論じたいことを読者に伝えます。
  • 方法:収集したデータ、データの収集方法と理由、または自分が批評している特定の論文や作品/考え方のいずれかについて書きます。そのアプローチをとった論拠も記しておきます。
  • テーマ:読者向けに、論文を分りやすい「考えの塊」に分割する見出しを付けます。こうして分割するセクションは、事例ごとに明確に組み立てるか、論理的な方法で相互に関連させておく必要があります。
  • 要約の分析:論文の中で論じた全てのテーマをまとめ、序論で述べた全体的な議論について論証します。

科学論文には、基本的な構成にも3つまたは4つ(もしくはそれ以上)のタイプがありますが、冒頭に序論を、末尾に結論を配して章を付ける構成とします。

人文科学の論文が、科学論文と同じ基本構成で書かれることもよくありますが、あらゆるセクションの文章量がはるかに多くなり、中央部分にはより多くのテーマが盛り込まれます。創造的な研究を実践した場合は、その研究論文はいずれの書式からも大きく異なることがあり、ギャップをつなぐ研究の文章(橋渡し論文)を伴う解釈から構成されるのが一般的ですが、そうした文章は人文科学の形式に似た形で書かれることがよくあります。

もうすこし踏み込んでみます。見出しの下には1つ、または複数の段落(文章)が置かれます。それぞれの見出しの下にいくつの段落を配置するかは著者次第です。私は、段落の数についてとやかく言いたくありませんが(時には口を出してしまいますが)、論文の中のひとつの見出しに書かれる文章量は3ページ以内に収まっているのが望ましいと思います。でも、あなたが私の学生でない限り、私の言うことは気にしないでください。

段落は類似した内容と考えごとにまとめる

それぞれの段落は全体的な論点を段階的に表わすものであり、論理的な順序で書かれた研究議題を読者に説明するものです。

こう言うのは簡単ですが、実際には、アイデア、データ、分析結果、他の人の文章からの引用、そして自分自身の批判的な意見など、新旧の雑多諸々、多々ある情報を段落にまとめようとしていることでしょう。これらの混在する情報をきちんと段落にまとめようとすることは、外箱に書かれた完成図を見ずにジグソーパズルを作ろうとするようなものです。経験豊富な研究者は、論文執筆にまつわる問題に対処するための独自の戦略を持っています。とはいえ、それを「戦略」と呼ぶのは語弊があるかもしれません。

どちらかと言えば「ハック(Hack)―難題への対処法」でしょうか・・・

アカデミック・ライティングにおける私のお気に入りの対処法は、考えつく限りの段落を最初に書き出し、それを大まかなリストにし、その話が理にかなっているかどうかを確認するやり方です。次に、大量の文章を箇条書きにして、それぞれの文章が収まりそうなところに並び替えていきます。そして、それぞれ最初の文章の下に、自分で作成した箇条書きの内容を含め、自由な形式で書き始めるのです。

段落の冒頭の文は、多種多様なものとなるでしょう。

序論は、大抵、文献または既知のことを要約する文章から始めます。一方、結論は、論文の他の部分で示した議論の要約から始めるのが一般的です。結果と考察/テーマは、やや扱いが面倒ですが、知識・情報を断言することから書き始める傾向があります。

知識の主張とは、特定の証拠により裏付けされる主張のこと

研究者は証拠に関してはかなり慎重なので、以下のような供述で書き始める段落を論文の中に入れ込むことは避けた方がよいでしょう。

例:空は青い(The sky is blue.)

これは主張でもありますが、正当化できる知識の主張とは言えません。今、私が窓の外を眺めると、空は灰色ですが、ところどころに青空が見えます。この状況を踏まえ、自分が主張する文を修正してみます。

例:雲のない部分の空は青い(The sky is blue, except when there are clouds.)

簡単に反論されてしまうので、これでは知識の主張とは言えません。空の色は、夜になれば黒く、日の出と日の入りの時にはオレンジ糸に変わります。空が青いということを知っているのか、それとも空は青いと認識しているだけなのか? この文章の動詞「is」は「存在」を表わしています。動詞「perceives」は、認識する/感じる/気づくといった意味で、私たちの感覚が入力された情報をどう感じるかを表わすものです。違う言い方をすれば、空は-時々-青く「見えている」だけです。知覚に関する主張を裏付けるために引用できる人間の感覚システムについは論文も書かれています。というところで、先の主張についてもう一度見直してみましょう。正当化しやすくなるはずです。

ほとんどの場合、人間には空が青く見える(For humans, most of the time, the sky appears blue.)

より分りやすくなっています。より暫定的な主張ではありますが、これで人が空を青いと見なす理由と説明する論拠を提供することができます。もし私がこうした主張を十分に積み上げることができれば、読者は私の主張を受け入れてくれるでしょう。まさにこれこそが、アカデミック・ライティングでやろうとしていることなのです。

厄介なのは、知識の主張を裏付ける段落をいかに配置するか

書くことに慣れていない人や学部生には、論文を書くにあたって段落を構成するのに役立つ幾つかの定型的な構成(フォーミュラ)が提供されています。構成の提供は比較的最近の教育学における革新的な動きなので、私自身は利用したことがありません。息子が高校生のとき、2つの定型的な構成を私に教えてくれました。

構成1)TEXAS:Topic sentence, Example, Explanation, Analysis, ‘So what’

トピック文、例、説明、分析、「だから~」

構成2)TEEL:Topic sentence, Explanation, Evidence, and Link

トピック文、説明、証拠、およびリンク

これらの構成は、定型的かつ反復的(何度も繰り返す)な書き方になる傾向があるので、あまり役に立つとは思えません。学部生レベルであればこうした構成に従うのでも問題ありませんが、博士課程(PhD)レベルともなれば、ステップアップが必要です。

私自身のライティングは、2006年、PhD課程の早い段階で、今も色あせていないウェイン・ブース(Wayne C. Booth)らによる著書『The Craft of Research』に記された模式図(下)を見た時に変わりました。

この図は、何かと議論になる段落執筆のための基本的な「パーツ(構成要素)」と、灰色部分には関連する供述への「チェーン(つながり)」が示されています。

  1. I claim that… 私が主張することは
  2. Because of these reasons… このような理由で
  3. Which I base on this evidence… この証拠に基づき

この3つのパーツのつながりを支えているのはBoothらによって示された「確認と応答」と呼ばれるライティングの形式です。基本的に段落には、読者の疑問、反論、論点に対する代替え案を想定していることを示す文章を入れ込んでおく必要があります。Boothらの言葉を借りると以下です。

「主張、理由、証拠だけで議論しようとすると、読者は議論に深みがないと思うだけでなく、もっと悪ければ、読者の目線について意識していないか、あるいは読者を無視していると感じるかもしれません。著者は、想定できる読者の疑問や反論に対して答える必要があります。」*

こう考えると、段落を書くということは、空想的で一方的な読者との会話を自問自答するようなものです。読者に自分の言い分が事実であると認めてもらうためには、読者に何を伝えるか-を考えるのです。

文章を細かく分析すれば、素晴らしい学術文書を書く著者が、主な論点のつながりを書き忘れたり、つなげる順をごちゃまぜにしたりすることも多々見受けられます。それでも、そうした著者は、文章を書くことが想像上の読者との会話であることを失念することはありません。

実例を見た方が分りやすいと思いますので、個人的に気に入っている論文から段落を拝借して説明しましょう。これは、Gerry Mullins とMargaret Kileyによる『It’s a PhD, not a Nobel Prize: how experienced examiners assess research theses(仮訳:ノーベル賞ではなくPhDを取得するために:経験豊富な審査員が研究論文を評価する方法)』からの抜粋です。(ReseachGate掲載へのリンクを付けておいたので、読んで見てください。)

376ページの「Experienced Examiners Expect the Thesis to Pass(仮訳:経験豊富な審査員は論文が審査に合格することを期待している)」との見出しの下に書かれている文章です。

大学院生にとって、審査員が論文を不合格にしたいと思っているわけではない(知識の主張)ということです。30名のベテラン審査員(過去10-15年間に300本以上の論文を審査した経験を有する審査員)が、不合格にした論文(証拠)の数は10件しかありませんでした。(読者から聞かれると予想される「なぜ不合格にした論文の数がそれほど少ないのか?」との質問への回答として)不本意ながら不合格にした理由を説明しましょう。主な理由としては、審査員が、論文とは才能のある学生の3-4年の努力を示すものであること、作成された論文は情報などのリソースや他の人たちの時間という面で多大な労力が費やされた結果であると認識していることが挙げられます(読者が声に出さない疑問への回答)。つまるところ「学生が優秀で、指導教員も優秀であれば、その学生が博士号取得で失敗することはないはずです。学生が不合格にならないように指導するために十分な『知性』があるはずです。」(科学系/男性/10)(回答を裏付ける証拠)と言ったところでしょう。

別の理由は、審査員が論文を不合格にしないように、あるいは大幅な書き直しを行うよう求めることのないように(読者から聞かれると予想される「不合格にする率が低い他の理由はあるか?」との質問への回答)可能な限りのことを行う理由は、不合格にすることや書き直し指示をすることが、審査員、学生、さらには時として指導教員にかなりの作業を要求することになると認識しているからです(声に出されない質問への回答)。「どれほどの作業と努力が必要なのかを知っているので、できの悪い論文を見ると眠れなくなります」(人文系/女性/6)(証拠)だそうです。

MullinsとKileyは、議論の標準的な構成要素の細かい部分をあまり気にしていませんが、それは方法のセクションで、知識の主張が妥当であると読者に確信させるのに十分な情報を示しているからです。彼らが研究結果を共有するとき、読者は、その主張がどの程度有効かではなく、実際にどのような意味を持つかにより関心を持っていると考えています。2つの段落の使い方について一言言わせてもらえれば、私ならその2つの段落はまとめたでしょう。とは言っても、それは単にスタイルに関わることです。

あなたが取り組んでいる文章に、この分析手法を使ってみてください。読者のことを、思考と感情を持つひとりの人と捉えれば、いかに多くのことができるかもしれないことに驚くかもしれません。すべての執筆作業は社会的行為です。PhDレベル以上における論文執筆の特質である専門家から専門家へのコミュニケーションでは、必要に応じて確固たる構成に捕らわれない書き方をするための創造力とある程度の自信が求められます。

少なくとも、私にとっては役立ちましたので、あなたが論文を執筆する際にもこの解説が役立つことを祈っています。次にセッションを行う機会があれば、説明を省いてこの投稿を送信するつもりです。

インガーより

*Wayne C. Booth et. al. The Craft of Research、 Third Edition(Chicago Guides to Writing、Editing、and Publishing)(Kindle Locations 1440-1441)。キンドル版。

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2021/12/01/imaginaryconversationsinwriting/

 

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