文献検索の達人になるコツ:キーワード

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、文献検索の達人になるためのコツのお話です。


博士号取得に文献検索のスキルは必須であるにも関わらず、「どうやって」を明確に習うことはあまりありません。そのため多くの学生が「正しい」方法で文献検索を行っているのか不安になりつつ、今さら指導教官に聞くのも……と思っているようです。今回は文献検索のやり方を説明するので、不安を払拭するのに役立ててください。

文献検索スキルは、博士課程(PhD)における「hidden curriculum」だと言われています。日本語では「隠されたカリキュラム」または「潜在的カリキュラム」と訳されていますが、教育者側の意図に関わらず、学習者が自ら学び取っていく事柄を指しています。つまり、学生は自らが置かれた環境や、学術界での常識や価値観の中で過ごす間に文献検索スキルを「当然習得しているべき」となっているのです。だからこそ、実は徹底的かつ効率的に検索する方法を理解できていないのではないかとの不安が生まれるのはないでしょうか。

幸いにして、インターネット上には文献検索をどのように始めたらよいかの情報が多数掲載されていますし、多くの大学や図書館は文献検索の指針や学習コースを提供しています。オーストラリア国立大学(ANU)でもSNS上にたくさんの有用サイトの情報を提供しています。ただ、情報提供だけでは埋められない部分が残っているのも事実です。

例えば、多くの場合、検索の最初のステップとして「キーワード」を使いますが、そのキーワードをどうやって考え出す?推定する?おそらく、今までは推定したキーワードを使って検索していたことでしょう。しかし、キーワードは、体系的かつ創造的に選ぶ必要があり、ここが難しいところです。実際、文献検索とは長年の学習によって培った知識に裏付けられた思考プロセスが要求される作業なのです。

ここでは、私が実践している文献検索方法をひとつ紹介します。

まず、研究の懸案事項とリサーチクエスチョン(研究課題)から入りますが、ここでの具体例として以下の課題を挙げます。

安全に対する懸念は、ジャカルタのような大都市で女性が交通手段を選択する際、どの程度の影響を及ぼすか この課題につき、スパイダー・ダイアグラム(情報を整理し線画などで幾何学的に図示する手法、以下の図参照)を作成して、派生する質問を作成し、検索の範囲を広げていきます。派生する質問への回答が、根本的な質問の回答につながるように質問を考えます。

私は派生する質問を3つ作成しました。質問数を限ることによって、論点を分類しつつ焦点を絞り、タスクが手に負えなくなることを防ぎます。次に、派生する質問を順番に見ていきます。右上の円には「他の大都市では女性が通勤にどのような交通手段を使用しているか」と書かれているので、この質問について最初の推測をします。この質問に関連する記事を図書館で見つけたら、その棚のラベルを見ます。例えば、下図のようなラベルが付いているとしましょう。

ここでは「大都市での通勤」、「女性と交通」、「小都市での通勤」といった3つが提示されています。それぞれのラベルに付いている説明を見てみます。

ここで「大都市での通勤」を背景題目(background topic)と位置付けます。これを検索に使うと文献が見つかる可能性が高まり、同じ分野の研究者からの信頼も得やすいと考えるものです。2つ目の「女性と交通」は明瞭題目(obvious topic)と位置付けます。この語句をキーワードにすれば類似の題目を対象にしている研究者を見つけることができるでしょう。3つ目の「小都市での通勤」は、私がひっかけ題目(going fishing topic)と呼んでいるもので、意図的に反語を検索に入れ込むことで、今まで見落としていた何か面白いものが引っかかるかもしれないという期待を込めています。釣り竿を垂らしたら魚が引っかかった!と喜ぶようなものです。これは、体系的な創造性を意図的に行動につなげることの一例です。 以下が実際に学術論文検索用エンジンGoogle Scholarで‘women and transportation’を検索してみた結果です。

すべての表示は予想どおり関連した題材ですが、最後に表示された“En-Gendering Effective Planning: Spatial Mismatch, Low Income Women And Transportation Policy(仮訳:新たに作成される効果的な計画:空間的不一致、女性の低所得、交通政策)”には興味を惹かれます。画面コピーでは見づらいですが、重要なのはハイライトを付けた引用数です。引用数が多いことは、この記事が役に立つと思われていることを示しています。一般的には、引用数が多いほど影響力も多いと考えられるため、引用検索は、該当文献の影響力を評価するのに最適な基準のひとつです。とはいえ、多くの人が異議を唱えるような場合や、不正に引用されているような場合などでも該当論文の引用数が多くなることは留意しておく必要があります。

この論文をさらに探ってみると、私の研究プロジェクトに役立ちそうな記事が表示されました。 最後に‘commuting in small cities’で「ひっかけ」検索もやってみます。その結果、以下の私の研究とは反対のことが表示されました。

この中にも有望な記事が見受けられます。‘wasteful commuting(仮訳:無駄な通勤)’の考え方は補足的に役立つかもしれません。ひっかけ検索では、思わぬ掘り出しものが見つかる可能性があるので、辛抱強く情報を見ていくことがコツです。例えば、リストの末尾に見つけた‘the economics of urban sprawl(仮訳:都市のスクロール現象における経済性)’はかなり引用されていることが分かります。どんな人がこの記事を読んでいるのでしょうか。

さらに進めると、ここで示した画面の上から3つ目に文献レビューが出ています。文献レビューに注意深くキュレーティング(収集・集約・整理)された文献のリストや批判的解説などが掲載されていればラッキーです。このように、反対の意味を示す語句などで検索することで欲しい情報を見つけ出すことができることもあるのです。 面白いものを探し出す作業に失敗はありませんので、いろいろ試してみてください。

原文を読む: https://thesiswhisperer.com/2015/05/13/how-to-become-a-literature-searching-ninja/

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