博士論文作成に役立つ大学のライティングセンターを利用しよう

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回の題材は多くの大学内に設置されているライティングセンターについて。ネバダ大学ラスベガス校(UNLV)のライティングセンターでコンサルタントとして勤務するデイブ・ビーズリー博士の見解をインガー准教授が紹介してくれています。大学のライティングセンターは博士論文を仕上げるのにどう役立つのでしょうか。


研究活動を支援することは、開業医(General Practitioner, GP)の仕事に似ています。医師が早期に問題を見つけ出せれば対処は簡単ですが、患者に処置を施すまでの時間が長くなるほど助けにくくなってしまうのと同様、問題が長いこと放置されていれば私たちにできるサポートが少なくなってしまうのです。

ライティングの問題点について早期に対処することの大切さについて述べる今回の記事は、デイブ・ビーズリー(Dr. G. David “Dave” Beasley)によるものです。デイブは2017年にネバダ大学ラスベガス校 (UNLV) で、18世紀の英国文学に関する研究で博士号を取得しました。ゴシック小説、啓蒙主義、および非宗教的コミュニティにおける共通点に注目した研究を行い、ゴシック小説が探偵小説の誕生に及ぼした影響にも関心を持っています。現在は同校のライティングセンターでプロフェッショナル・ライティングコンサルタント(Professional Writing Consultant)として勤務しています。詳しくはhttps://writingcenter.unlv.edu/our-staff/administrationをご参照ください。

*** ここからはビーズリー博士による記事 ***

学位論文を作成する者にとって、特につらいのは作業の孤独さです。学位を取得しようとしていたとき、私は周りから、完璧で素晴らしいものを生み出すまでは部屋の隅に座ってひたすら書き続けるように言われているような気分になっていました。自分の論文が決して完璧ではないということを理解するのには長い時間を要しましたし、完璧である必要もないと理解するのにはさらに時間がかかりました。ついには、論文を書く間、論文のせいで完全に孤立してしまったような感覚になり、どうすればいいのか途方に暮れてしまいました。今の私は、学内のリソース、特にライティングセンターを十分に活用していれば、少なくとも自分が抱えていた問題のうちのいくつかの点で状況を改善できていただろうということが分かっています。

私は現在、ライティングセンターでフルタイムのコンサルタントをしているため、ライティングセンターに対してひいき目になっているかもしれません。しかし、ライティングセンターが論文作成中の学生にとって素晴らしいリソースであるにも関わらず、見過ごされがちなことは事実です。これはライティングセンター側にも責任があるでしょう。大学院生たちに対してすべきアプローチを十全に行えていないことがあるからです。ライティングセンターの時代遅れなイメージが根強いようで、多くの院生やその他の学生はライティングセンターを活用しません。「粗悪な」 あるいは 「破綻した」文章を 「修正する」 場所だと捉えられているのです。あるいはセミコロンの不思議さについて講釈されたり、等位接続詞とカンマの使い方について怒られたりすると思っているのかもしれません。ライティングセンターには論文について内容面で有益な知識を持っている人はいないという確信が上乗せされて、センターに対する否定的な考えがさらに膨らんでいることでしょう。

幸いなことに、これらのほとんどは真実ではありません。もちろんライティングセンターでは必要とされれば文法や句読点についての指導も行いますが、その主な目的は書き手のアイデアを引き出すことです。論文の内容について、書き手以上の専門性を持つスタッフはいないというのは事実です。しかし、それは全く問題とはなりません。良いライティングセンターというものは、書き手がその分野の第一人者となることを願い、全体の構造や構成、フォーマットに関する支援を行い、アイデアを徹底的に考え抜くことをサポートするのです。多くのライティングセンターには大学院生や上級学位と管理能力を備えたスタッフがいます。ライティングセンターの管理者でコンサルタントでもある私は、サポートする学生たちの論文のほとんどについて内容面での知識は持ち合わせていません。私の博士号は18世紀イギリスのゴシック小説についてのものですが、学内他大学の他のコンサルタントや管理者と同様に、議論の構造や、優れたコンサルティング手法、学術ライティング、資料の文書化について十分な知識を持っています。

学術ライティングの技術的な側面は大切ですが、ライティングセンターが提供するサービスで最も重要な点は、ライティングについて評価をしないことでしょう。ライティングセンターでは、誰もあなたの研究や論文を評価しません。ライティングセンターでは作業途中のものだということを了解した上で、学生の論文に向き合うからです。ですから論文の章やセクションに関する最初のアドバイスを受けるには最適な場所なのです。また、ほとんどのライティングセンターでは、原稿が出来ていない段階から相談することができます。私の受け持つコンサルティングの中には、執筆者が、下書きを始める前にアウトラインを作成したりアイデアを議論したりするための相談もあります。優れたコンサルタントは、執筆者の主張の長所と短所を見極め、アイデアや研究を輝かせるための戦略を立てるサポートしてくれるものなのです。

ライティングセンターでは、所属部署の上長に提出する原稿の最終チェックも行っています。私にとって、自分の書いたものを提出するのはかなり気の重い作業でした。学位論文ではある程度仕方がないことだと思いますが、ライティングセンターで定期的に相談をしていれば、自分の文章や論文、メンタルヘルスの状況はもう少し良くなっていたと思います。多くのライティングセンターでは、学生は、コンサルタントを指名することもできます。相談する学生は、コンサルタントとの関係を築きながら論文全体を通じて指導を得られるのです。私の場合も、プロジェクト全体を通して論文に共に取り組む大学院生や教員がたくさんいます。こうした関係もあって、ライティングセンターでの仕事は私にとって価値のあるものになっています。私自身、コンサルタントの1人と定期的にミーティングを行い、アイデアのブレインストーミングをしたり、自分の文章についてセカンド・オピニオンを貰ったりしています。

ライティングセンターは役立つわりに見過ごされがちな大学のリソースですが、すべての大学院生、特に論文執筆を行う学生は定期的に利用すべきです。最後に付け加えておきますが、あなたの授業料の中から、大学のライティングセンターに直接または間接的に費用が支払われている可能性があります。あなたがライティングセンターを利用してもしなくても、スタッフには給与が支払われます。だったら仕事の機会を与えてあげましょう。センターを利用することはきっと役に立つはずです。

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ありがとうデイブ。皆さんはデイブや私のような専門家にアドバイスを求めたことはありますか?そのアドバイスは役に立ちましたか?

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2019/08/21/13747/

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