リサーチの補助ツールとしてのダイアグラム

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はダイアグラムで文献レビューを行い、そこから論文テーマのアイデアを探す方法についてのお話です。


文献レビューの執筆には正直苦労します。読み込みが充分かいつも不安で、重要な部分を見逃して “間違ったこと”を書いてしまうのではないかと思ってしまうのです。10年間以上、論文を書いているのに、そのような思いが消えません。膨大な量の文献を前にして思考停止に陥る博士課程の学生の気持ちが痛いほど分かるのです。ですから、そうした学生たち、そして自分自身が、どうすれば救われるか、いつも考えています。

以前の投稿で、スパイダー・ダイアグラム(情報を整理し線画などで幾何学的に図示する手法)を使って文献レビューを行う方法に触れました。このテクニックはトピックが明確に設定されている場合には有効ですが、嗅覚が必要になるようなケースではどうでしょうか?レビューの全体像を自分で決めてかからなければならないような場合です。

博士課程に入りたての学生が文献検索を行う際や、既存のプロジェクトに新たな分野の文献を取り入れる際には、私と同じような人であれば、行き当たりばったりになりがちです。

私の場合、有用な情報がヒットするのを期待して、Google Scholar等のデータベースに何十個かの検索文字列を入力します。引用文検索で、特定のトピックに関する議論が確認できます。1つの検索文字列での完全一致検索が終わったら、あいまい検索も使用して取りこぼしのないことを確認します。

これは根気のいる作業で、正直あまり体系立った方法ではありません。

最近は、Jonathan Downie博士に勧められたKristin Lukerの著書『SalsaDancing into the Social Sciences』 にある別のダイアグラムを使い始めました。Lukerが「Bedraggled daisydiagram(乱れたヒナギクのダイアグラム)」と名付けた、新たな検索用語についてのアイデアを生み出すシンプルな方法です。

「Bedraggled daisy」は、複数の集合の関係を図式化した「ベンダイアグラム」(もしくは「ベン図」)を発展させたものです。私が文献レビューを嫌う理由をベンダイアグラムで表すと以下の様になります。

この重なりが、私の「文献レビュー嫌い」で、「不安」と「読書時間不足」、「多すぎる文献」が重なります。「Bedraggled daisy」では、非常に多くの要素を重ねていくため、それぞれの要素は、円形というよりも花びらの様な形で表します。

このダイアグラムを利用して、「なぜ人々が文献レビューに行き詰るのか」ということを文献レビュー式に読み解いてみましょう。この問題の様々な側面に関する検索語が、以下の8つぐらいはすぐに思いつきますので、それらを用いて進めます。

  • writing skills(作文スキル)
  • procrastination(先送り)
  • information overload(情報過多)
  • Anxiety(不安)
  • limited time (時間の制約)
  • discipline conventions(専門分野の慣習)
  • digital literacy (or lack of it)(デジタルリテラシー(あるいはその欠如))
  • performance cultures(成果主義)

これらを個別に検索することもできます。(実際、個別の検索は行うべきです。)しかし、複合的に検索すると面白い結果が得られます。「Bedraggled daisy」は複数の楕円が重なり合ったもの以下のようになります。

ヒナギクの中心に来るのがプロジェクトで、全ての要素が重なりあった箇所です。このやり方で、誰にも手を付けられていないプロジェクト、いわゆるリサーチギャップを視覚的に見つけていくのです。

花びらが重なるところに、あらゆるデータベースで使える探索文字列が提示されます。図を使わなくても探索文字列は、考え出せますが、図を使うことで、記録にもなり、記憶の助けにもなります。花びらの重なりで明確な答えが出る部分もあるでしょう。例えば、“writing skills(作文スキル)”と“procrastination(先送り)”をGoogle Scholarで検索すると面白い結果が出ます。

左下の“digital literacy(デジタルリテラシー)”と“performance cultures(成果主義)”はでも検索をしてみましょう。

検索上位のいくつかは役立ちそうにありませんが、“Changes over time in digital literacy(長期的にみたデジタルリテラシーの変遷)”という論文には期待が持てます。‘cited by(引用元)’をクリックするとその論文を引いた箇所が表示されます。

この画像にある最後の論文 “You Can Teach Old Dogs New Tricks: The Factors That Affect Changes over Time in Digital Literacy” (Yoram Eshet-Alkalaiと Eran Chajuの共著論文)は、デジタル技術に関する年代別の能力を比較した優れた研究でした。ヒナギクのダイアグラムなしには、こんな論文は見つけられなかったでしょう。

ヒナギクのダイアグラムを使えば、様々なやり方で、検索文字列をクリエイティブに探せます。 図の中の3つ以上の花びらを同時に見てみましょう。例えば、“information overload(情報過多)”と“anxiety(不安)”、“limited time(時間の制約)”で検索すると、興味深い結果がリストアップされました。

結果の最上位に来たDavid Bawden・Lyn Robinson共著の“The dark side of information: overload, anxiety and other paradoxes and pathologies”によって、では‘micro-chunking(情報の切り取り)’や‘shallow novelty微小な新規性’など、興味深いコンセプトにも出会うことができました。これら全ての論文の引用文を深掘りすれば、豊かな知識の鉱脈を掘り当てられます。…しかしここで、ひとつの問題に突き当たります。読める分量よりもはるかに多くの文献を瞬時に検出できてしまうのです。

そこで皆さんは、ダイアグラムが、本当にリストよりも優れているのかと懐疑的になるかもしれません。

しかし私は、ダイアグラムを使い、アイデアを、非線形の予期しない形に並べることで、創造性を刺激することができると考えています。博士課程の課題の検討や共同作業におけるダイアグラムの有効性に、ほとんどの学生が気付いていません。私たちANU(オーストラリア国立大学)の論文ブートキャンプでは、学生にペアを組んでもらい、‘Bedraggled daisy’で研究プロジェクトの候補を探らせています。各人が自分の研究対象に関連したキーワードや用語のリストを作成し、その上で大きな用紙に図を描きます。

ペアのそれぞれが、自分のリストから順番に用語をひとつずつ花びらに記入していきます。事前に気の利いた組み合わせを考えたりしない方が上手くいきます。図でランダムに生み出される組み合わせこそが、最高のアイデアを与えてくれるのです。

そして、重なった箇所のそれぞれについて、ふたりで話し合いを行い、その中の1つ選択してもらい、それについてさらに深掘りをしてもらいます。例えば、人類学を専門とする学生と、言語学を専門とする学生が共同で作り上げたプロジェクトが以下の写真です。

専門分野が遠ければ遠いほど、ダイアグラムを使った実習は面白くなります。次の写真は、魔術の歴史を研究者とジェンダー政治学を研究者が共同で描いた図です。こうしたプロジェクトは、ぜひ実現して欲しいものです。

このダイアグラムについてのお話しが、皆さんのアイデアにつながれば幸いです。

もし、この他に文献レビューやライティングを行うにあたって線形的な発想を打ち崩してくれるような独自の方法をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひ、お聞かせ下さい!

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2017/02/22/using-diagrams-as-research-aides/

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