学会を乗り切る処世術

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー(Inger Mewburn)教授のお役立ち情報コラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回のテーマは、「学会」です。目まぐるしい学会のスケジュールを乗り切るコツを紹介します。


この投稿は、タスマニア大学のプロジェクトオフィサーであるイモジェン・ウェグマン博士によるものです。彼女の研究は他分野にまたがり、1ヶ月の間にデジタル人文学会議、歴史セミナー、GISシンポジウムなど複数の学会に出席することもあるそうです。また、ホバート市での月例公開歴史イベント「A Pint of History」の共同創設者としてイベントを主催しています。アンビヴァート(Ambivert=両向型)であると公言する彼女は、人を好きになったり嫌いになったりを繰り返しながら、自分の限界を知ることになったそうです。

学会に出席するまでに発表者は、論文の募集を見つけ、アブストラクトを提出し、受理され、学部の助成、あるいはいつもより多くバイトを入れるなどして資金調達し、参加登録を済ませ、チケットを手配し、可愛い(狭い?)宿を予約し、発表の場で映える靴まで選ぶなど、様々なことを行います。

私が初めて学外で参加した学会は、大都市の大きな大学で行われた大規模なものでした。博士課程に入学して1年半経った頃で、同僚以外に研究を発表することは未知の領域でした。学会の1週間、何人もの教授たちとの世間話や過密なスケジュールを手探りでこなし、なんとか無事生還して、今ここでその経験をお伝えできています。それ以来、私は世界中の学会に出席し、その世にも恐ろしげな環境で生き残り、さらには成長する術を学び続けています。指導教員は皆さんにアブストラクトや論文を書く指導をしてくれますが、私は、皆さんが学会での社交に備える手助けをできればと思います。

  1. Twitterのハッシュタグを見つける

私が初めて学会に参加した時は、Twitterでライブ放送はまだ始まったばかりでしたが、ハッシュタグを見つけたときの興奮と、#twitterstoriansの集まりに招待されたときの感動を覚えています。ほとんど知り合いがいない状態での参加でしたが、初日のモーニングティーで、すでに何人か話し相手がいることは心強かったです。

すべての学会でTwitter上の活動があるとは限りませんし、そもそもTwitterを利用していないかもしれませんが、素晴らしいアイスブレーキングになりえます。講演がライブ配信されたり、非公式のソーシャルイベントが企画されたりして、同じ学会がTwitter上でも並行して盛り上がります。「お会いするのは初めてですが、Twitterで相互フォローしています」と自己紹介することは、学術の世界ではよくあることなのです。Twitterの使用頻度は分野によって異なりますが、国を跨いだアドバイス、励まし、コラボレーションのネットワークを開くきっかけになります。学会のハッシュタグは、学術研究業界に入るための有効な手段ですので活用してみてください。

  1. モーニングティーで一人の人を見つける

多くの人が、知り合いがいない状態で学会に参加します。すぐに知り合いができるので、誰かに話しかけると、その人が別の人を紹介してくれて、会話の輪が広がっていきます。これがネットワーキングです。一人の人と知り合うと、別の二人を紹介され、そのうちの一人がその日の晩に飲みに誘ってくれるなどです。驚くような共同研究の計画には至らないかもしれませんが知り合いはできます。中には友人になる人もいるでしょう。名刺を持っていけば、手軽に情報交換することができます。人間関係ができ始めれば、付き合いに時間を費やすようになりますが、いずれ始めなければなりません。

何から始めたらいいかわからない場合は、ドリンクを片手に一人で立っている人を探して、(ここが大事なところですが)自分から話しかけに行きましょう。まずは自己紹介から始めて、どこを拠点としているのか、どんな研究をしているのかなど質問してみましょう。

もしあなたがすでに多くの友人や同僚のいる古株なら、一人で参加した人に親切に、気を配ってあげましょう。かつて自分が隅っこでおずおずと立ち、平静を装ってサンドイッチをかじりながら、勇気を出して話しかけられる相手を探していたことを思い出してみてください。もちろん、強引なのはいけませんが、友好的な声がけの機会はあるはずです。

  1. 気まずい沈黙を埋める雑談用の質問を用意する

昼食の列に並んでいる隣の人と世間話をしなければならないと感じる場面があったりしますが、話してみると、その人が非常に重要な学者だと判明することもあります。かつての私のように駆け出しのキャリアで自信のない人は、そんな場面で固まってしまい、賢明な質問が思い浮かばず、相手の好きなアニメキャラについて聞いてしまうかもしれません。そんなことがないように、この分野の研究を始めたきっかけやについて聞いてみましょう。だいたいの研究者は、そのキャリアが50年であろうと5年であろうと、紆余曲折の物語があるものです。

  1. 休憩を取る

学会は慌ただしいものです。講演のプログラムがぎっしり詰まっていて、さらにフォーマルディナー、小旅行、一日の終わりにある飲み会など非公式のネットワーキングの機会などを含め、大忙しです。外向的な人にとっては楽しいかもしれませんが、多くの人にとっては疲れるものです。いくつもの素晴らしい講演が脳のキャパを超えている中で、プロの研究者然として、出会った相手の名前をすべて覚えようとするのは大変です。

脳がシャットダウンする兆候を察知するのは、人生で役立つスキルです。私の場合は、集中力が80%低下し、目を覚ましているのが辛くなり、椅子の座り心地が死ぬほど悪いと感じるのが危険信号です。

学会の最初にプログラムを確認し、見逃せない講演の時間を押さえ、面白い人に出会ったら、その人の論文発表に参加することを約束するようにします。そんな中で集中力が低下してきたら、飛ばせるセッションを見つけるのです。リフレッシュするために1時間抜けても全く問題ありません。散歩をしたり、昼寝をしたり、会場の展示スペースに行ったり。次のセッションに戻ったときに、集中力が回復していることに気づくはずです。同様に、飲み会や夕食を欠席しても、罪悪感を感じる必要はありません。こうした社交の場が人脈づくりや出会いの機会でありことは確かですが、ボロボロの状態で出席しても、せっかくの機会も生かされないでしょう。

  1. 水分補給

最後に、水分をたくさん摂りましょう。学会中は日常では考えられない量の小さなサンドイッチとひどい紅茶やコーヒー、おそらくアルコールやソフトドリンクも多く摂取することでしょう。母親の説教めいていて恐縮ですが、水分補給を怠らないようにしましょう。脱水症状になると、気分が悪くなり、集中力も低下します。会場に持参できるように水筒かペットボトルを用意し、1日2、3本を空にするように心がけてください。

以上をヒントにすれば、新しい学会仲間を作る準備ができるでしょう。みなさんがどのように学会を乗り切っているか、とても興味があるので、ぜひコツを教えてください。

原文を読む:The Thesis Whisperer

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