履歴書に博士課程修了と書くのは不利なのか(前編)

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は学術界の外で就職活動をする際の履歴書・職務経歴書に関するお話です。インガー准教授が行っていた、博士課程取得者に対する採用担当者の態度に関する研究で分かったこととは?そして、職務経歴書に博士課程修了を書くべきか、書かないべきか、についても考察しています。(訳者注:日本では学歴・経歴は正直に書くのが大前提です。)


数週間前、同僚のハンナ・スオミネン准教授ウィル・グラント博士と、私が取り組んできた採用担当者の博士号取得者に対する態度についての研究の話をしました。

以前投稿した「WHAT IS THIS ‘ANTI-PHD’ ATTITUDE ABOUT?」にも書きましたが、私たちの研究は、学術界以外の雇用における門番的な役割を担っている採用担当者に関するものです。履歴書・職務経歴書に最初に目を通すのは採用担当者であることが一般的ですが、彼らのほとんどは博士号を持っていません。博士課程についての経験や知識をほとんど持っていない人もいます。学術界以外の就職戦線に踏み込むのであれば、このような事実を頭に入れておく必要があります。

採用担当者は、応募者(あなた)が習得した学位よりも、獲得してきた経験にはるかに強い興味を持っており、博士号の有無で応募者を絞り込むことはありません。博士号取得者を知的でまじめな人である証拠として捉える担当者がいるかもしれませんが、以前採用した博士号取得者が期待外れだったという理由から、積極的に博士号取得者を候補から外す担当者がいることだって考えられます。私は別の記事で、博士号を取得したことで、その人は雇用市場における少数派と位置づけられ、有色人種、高齢者、障害者といった人々が日常的に経験している差別に直面する可能性があると論じました。

あなたがその記事を読んでいたら、自分の履歴書から博士課程の経歴を消してしまおうと思うかもしれません。実際に経歴を書かずに選考に残ったという人もいますし、違いはなかったという人もいます。博士課程についてあえて記載しなかった人々は、履歴書の空白期間(最大5年間)について説明しなければならないので、大抵は大学内で行われた「大規模な研究プロジェクト」に参加していたと記述しているようです。私がその記事に書いたように、どのような種類の活動が「仕事」として見なされ、さまざまな経験がどのように評価されているかを心に留めておくことは大切です。採用担当者にとって、大学は非常に特殊な職場であり、博士課程で仕事に役立つ経験をしているとはなかなか信じてもらえないということも覚えておきましょう。

博士号取得者であることをあまり主張したくないとしても、すべてを隠す必要はありません。学歴の項目を履歴書の下の方に移動させ、採用担当者が最初に目にする記載ではないようにすれば良いのです。研究教育者としては、自分の資格を自らあえて隠さなければならないと思う人がいることには心が痛みますし、正直言ってそれが正しい方法だとは思いません。博士号取得者は就職市場において、研究や論文執筆を行う際の高度なスキルを持っていない人よりも優位な点がたくさんあるのです。必要なのは、博士号取得者であることの強みを最大限に活用することです。まずは、自分の履歴書を読む人がどう思うかを理解することから始めましょう。採用担当者や雇用者が抱く不安にも根拠があることを認識し、それを受け入れた上で、カバーレターの中で彼らの不安を和らげる書き方をするようにしましょう。

ここで、私たちの研究で明らかになった採用担当者の考え方と、彼らの不安を和らげるために何を書くべきか書き出してみます。

できると主張している仕事ができないのではという不安

「転用可能なスキル」についての話はたくさんありますが、私はそんなものがあるとは思っていません。落ち着いて考えてみてください。長い時間をかけて培ってきた学術関連のスキルは、学術界特有のものであるため、そのままの形では学術界の外では低く評価されるかもしれません。スキルを別の用途に直接転用することはできませんが、別の用途でも通用する形に置き換えることはできます。応募者は、将来の雇用者に対して、スキルの置き換え、あるいは転換が既にできているということを実証する必要があります。

例えば、ライティングスキルが良い例です。たとえ10万語の学術論文を書くことができたとしても、研究以外の仕事で要求されるライティングができるわけではありません。採用担当者はそのことを知っているので、苦労して作成した学術論文リストに感銘を受けたりしません。この点については、採用担当者の気持ちが理解できます。最近私が博士号取得を条件としない仕事の求人を出したところ、物理学や生物学などの分野で出版した大量の論文リストが付けられた履歴書が送られてきました。膨大な数の論文には感銘を受けましたが、私が求めていたのは研究論文の執筆者ではありません。私も、そしてほとんどの採用担当者も、学術論文には非常に具体的なルールがあり、不慣れな人にとっては読みづらいものであることをよく知っています。このことからも、研究論文の膨大なリストは、あなたの文章力について悪い印象を与えてしまうかもしれないのです!

出版論文のリストの代わりに、あなたが書いた研究論文の数を簡潔に書き記し、そのことを確認できる場所へのリンクを伝えるのがよいでしょう。履歴書・職務経歴書を研究実績の展示場所のように扱うのをやめて、雇用者となるかもしれない人の立場に立って自分の文章力をアピールしましょう。あなたのスキルが、彼らにとってどのような付加価値があるのか、ちゃんと伝えられていますか?

応募する会社のホームページや、公開されている資料、入手できるなら社内文書などを見て、その会社の文章の傾向を探ってみましょう。あなたがそのような文章を書くスキルがあることを証明できるものはありますか?あれば、その情報を研究論文のリストよりも優先してください。学術分野以外で有用なライティングスキルを証明できない場合は、博士課程で行ってきた専門性の高いライティングを分かりやすく解説することで、志望する会社のニーズに自分のスキルがどうフィットするかを伝えるようにします。例えば、文献レビューとは言わずに(学術界以外では通用しません)、「さまざまな情報源から重要な情報を素早く抽出し、最新の研究動向をまとめる」能力があると説明します。説得力のある議論を書くことができると言わずに、「内外の主要な関係者に影響を与えるために」自分の文章力を活かすことができると説明します。データを解釈して理論を展開できると言わずに、「証拠に基づいて問題を説明し、人々に特定の行動を促す」ことができると伝えましょう。

注意しておきたいのは、自分の能力を再構築しようとする試みを、採用担当者が評価してくれると期待しないことです。できると主張するより、実際に実行してみせる方が、説得力があるのです。もし、本気で学術以外の仕事に就きたいと考えているのであれば、自分のスキルを別の用途で使う機会を見つけましょう。そして最も重要なことは、将来の雇用者に送るすべての文章が、あなたの専門知識を示すものであるということを覚えておいてください。短くて説得力のあるメールが書けなかったり、文書の書式設定ができなかったり、ひどいスペルミスをしたりすれば、最初から印象を損なうことになってしまいます。採用担当者は応募者からのメールを何百通も読むことになるわけですから、最初からあなたが彼らにとって意味のある人材であると示す必要があるのです。

履歴書に博士課程修了と書くのは不利なのか(後編)では、採用担当者が感じている「仕事のスピードへの不安」と「すぐに退職してしまうのではないかという不安」を払拭するための履歴書の書き方アドバイスです。

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2019/04/10/should-you-leave-your-phd-off-your-cv/ 

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