【日本医科大学】荒木 尚 講師インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十回目は、日本医科大学の荒木尚講師にお話を伺いました。前編では、ご自身の「英語は英語で学び、頭の中に独立した英語脳をつくる」英語学習法についてお話くださいます。

■先生の専門分野、研究テーマを教えていただけますか。
僕は、基本的には臨床に従事していますから、基礎研究はやっていません。ほとんど臨床研究になります。患者さんを診る際の事柄をずっと自分で登録していき、それをデータとして解析して、という手法になりますから、多施設というよりも、今のところ単一施設だけで自分が面白いと思ったデータを集めて研究しています。
私はもともと脳外科の出身ですから、中枢神経の、特に外傷に興味を持っていました。その中でも子ども、つまり生まれてすぐから16、7歳ぐらいの思春期あたりまでの頭部の外傷がテーマです。

■その中の、特に救急救命センターの方ですか?
そうですね。救急疾患とか、あるいは集中治療とか、あと助けられない場合には脳死や臓器の提供、そういう段階に進みます。生命倫理にも興味を持っています。

■先生ご自身、英語の論文の執筆や学会発表、共同研究などの場で英語でご苦労された経験はありますか?
もうすべて苦労ですね。苦労以外ない。それを日本語で苦労と言ってしまうとかえってやりたくなくなります。漢字の字面も悪いでしょう。苦労って、いかにも苦しんでいる感じがしますよね。だけど、やっぱり英語圏以外の、母国語でない人間たちにとってこれは共通の感覚であって、もうしかたがないと思います。
ネイティブに伍すといっても、北米や、いわゆる英語圏で生まれた人たちのように、英語を使いこなすわけではないのです。ただ誤解を生じてしまわないように、また不当な差別を受けないようなレベルまではブラッシュアップしたいですね。
ただ苦労には結局自分が生きてきた文化が表現されてしまいます。これがたたって英語で書いた文章であっても、あとから読み直すと結局日本人の考え方の文章になっているわけです。
つまり英語を書くうえで一番難しい点とは、英語を話す人たちの物の考え方や論理を、ネイティブの人たちが書いた論文の中から何回も繰り返し学んで、それを自分のものにして、日本語の思考からは少し離れてしまうようにはなりますが、パターンとして文章として表していくことでしょう。その作業が一番大変なのではないでしょうか。

■単純に英語の文法や専門用語だけではなく、思考のところから変えていかないと、ネイティブの方に誤解を受けないような表現に書くのは難しいと言うことですか?
昔からよく言われていることは助動詞の選択とかですね。例えば、推測するという一言にしても様々な言い回しがあるわけで、腰の引けた言い回しをすると査読者からは低い点数を受けるという。
じゃあ、強すぎるとどうなのかというと本当は自分ではそこまで強調したくないのにというギャップが出てくるわけです。そういうところでとても労力を使います。
ですから、基本的には僕は自分が書いた英語の最初の原稿は、初めからこれはとんちんかんなものだ、と思って校正に出しています。それだからこそ、返ってきた時の表現を見て、このように表現するのだなと学べるわけです、日本人はまずは自分の英語はだめだと思い、間違いだらけだということを認識したうえで校正にかけるのが大切だと思います。

■まず、前提として自覚しないといくら文法力があり、知識として持っていても、なかなかうまくいかないということでしょうか?
そうですね。 英語 を軽く見る意味ではなくて、言葉、グラマーとか、ストラクチャーとかフレームとかそういう意味での英語というのは、自分がどう思い、何を感じているかを表すための道具であって、この道具を使いこなさないといけないのです。
しかし、人間の考え方が極めて日本人的だったり、例えば論理が整理されていなかったりするものではとても英語になりようがない。だから、翻訳される方も翻訳しようがない。読む方でも、いったいこの日本語は何を言い表そうとしているのか、あるいは、日本人が書いた英文のこの論文はいったいどこをポイントにしようとしているのかと非常に悩まれると思います。

■そういう難しさを踏まえ、先生ご自身、独自の勉強法やあるいは恩師から指導を受けた経験などがありましたら教えていただけますか。
僕は独学です。独学と言うと聞こえはいいですが、我流です。高校生頃、周囲の人はよく単語帳を作って暗記して、長文読解は動詞の上に日本語で意味を書き込んで、試験問題を解いたものですが、僕はそういう受験の英語がとても苦手でした。いい点数も全く取れませんでした。高校の授業では恩師から「辞書は英英辞書を使え」と言われていたので医学部に入ってからも英英辞書でずっとやってきました。意味を取るのには確かに時間はかかります。それに、独善的な解釈になる可能性もあって、当然間違いもあるし遠回りのやり方だと思います。でも英語で言葉の意味を理解してみよう、日本語を差し挟まないようにしよう、とする努力はしてきたつもりです。
あとは、リスニングです。リスニングは最後の最後まで苦労しました。今も非常に弱いですが、確か、リスニングの能力についてですが、英語学生は、自分自身が話す英語の速さの1.5倍程度まで聞き取ることが出来ると聞いたことがあります。僕はカナダに3年8カ月留学していたうちの最初の1年間は、病院でのデータ整理が終わると丸々、語学学校での修行でした。グラマー、スピーキング、ライテイング等全ての学習コースを取りました。大体10歳ぐらい年が下の大学留学生たちと勉強してました。中には、母国で科学者だった人、医師や教師などもおられました。それなりのお金も使いましたけど、日本の英語学校では学べないいろいろなことを教えてもらって、非英語圏の人達が英語を学ぶ時、どのようにして英語を獲得していくかということまで教わりました。
そこでは、そのためにはとにかく日本語を差し挟まずに英語の社会に行って英語の生活にまず連続450時間浸かることだ、と言われました。450時間というと大体1カ月ですよね。その間、まったく日本語を使ってはいけないわけです。インターネット上でヤフーJAPANを見たり、Eメールで自分の家族と日本語を使ったり、国際電話で話したりしてもだめです。日本語の音楽やテレビもダメです。全て、朝から晩まで日本語は一言も見ても触れてもいけないという生活を1カ月しなさいと言われました。それはつらかったですが今は非常に役に立っています。(週末にはよく映画を観に行きました。キャプションの無い中での2-3時間は結構きますが、好きな映画は何度も観ました。丁度その頃は、Last Samuraiとか、Lost in Translation, Kill Bill等が流行りました。テレビではER, Grey’s Anatomy, Friendsなどを見たり、SitcomのDVDを何回も見たりしました。多分DVDは滞在中500本は見たと思います。最初は趣味と言うより学習の意味が強かったように思いますが、完全に趣味になりました。)
そういう過程を経て初めてやっとイングリッシュのランゲージセンターが脳の中に獲得されるからと言われたものですから。それからですが、少しは進歩を実感しました。でないとなんなのと言う感じですよね。
テレビで英語のプレゼンテーションなどを聞く時は、今もよく副音声にしますが、その時にはきっと、自分のイングリッシュブレーンの方にスイッチをして一生懸命聞いている、つまり自分が毎日使っている脳とは別の部分で理解しているんでしょうね。たまにテレビの翻訳が適当だったりするのに気がつく事もあります。
そして、日本語の英語学習教材は買わない。TOEFLとかの勉強をする時もTOEFLの英語版の教材でした。しかし、日本で勉強していた際に、一カ所だけ素晴らしいTOEFL予備校に出会い、毎週通いました。AREという代々木にある学校です。独学ではTOEFLの点数がまず上がらないだろう、と悩んでいるときに門を叩きましたが、忘れられない多くの先生方と、志の高いクラスの仲間に出会い、TOEFLの点数も上がり、今でも本当に感謝しています。同窓生も各方面で活躍されているようで、年に数回ではありますがやり取りしています。AREで教わったことは今でも非常に身になっています。また、カナダのトロント大学の語学学校のグラマーも非常に良かったです。


後編では、英語でコミュニケーションを取る上での「人間性」の大切さについて言及いだたきます。

【プロフィール】

荒木 尚(あらき たかし)
日本医科大学救急医学教室 講師

1977年-2005年佐賀医科大学卒業
1999年-2005年日本医科大学救急医学教室
2001-2005年 トロント小児病院脳神経外科へ留学
2009年-2005年国立成育医療研究センター脳神経外科
2011年-2005年日本医科大学救急医学教室(~現在)

 

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