盗用 を防止するための編集者の役割

第2言語としての英語で執筆する論文著者は、英文校正者を雇う場合がよくあります。そうした論文を担当する編集者(エディター)や英文校正者がよく体験する問題として、こうした論文著者は他人が発表した論文から文章を抜き出して、それをそのまま自分の論文に取り込んでしまうケースがあります。こうした第2言語としての英語で論文を書く著者たちが、なぜ盗用をしてしまうのか? それについては、MacDonnell が優れた概論をまとめています(参考資料1)。西側諸国とそれ以外の諸国では文化的な違いがあることは明らかで、英語を第2言語として書いている著者の多くは、言葉を少し拝借しても、大した問題とは考えていないのではないか、という指摘もあります(参考資料2)。
それがまさしく証明されてしまったのが、2014年に発覚したSTAP細胞の研究不正事件でした。『ネイチャー』で発表されたその論文の一部には、海外の研究者が書いた論文とそっくりの文章がありました。また、その研究者が大学院時代に書いた博士論文には、NIH(米国立衛生研究所)のウェブサイトをそのままコピー&ペースト−−いわゆるコピペ−−した部分がきわめて多くあることが発覚しました。後者は大学の調査委員会によって研究不正(盗用)とみなされました。
出版倫理委員会(Committee on Publication Ethics)は、この問題について突っ込んで論じた文書を発表しています(参考資料3)。
盗用を招く要因については、ここでは詳しく論じません。むしろ、編集者が盗用を発見するにはどうすればよいのか、また盗用を発見したら、どうすればよいのか? ここではそれを以下で論じます。
(1)盗用を発見するには?
英語を第1言語としない著者が書いた英語であれば、どうしても英語の文法面での誤りは多数あります。したがって編集者は、そうした論文の中のある箇所だけが英語としてはよくできており、その他の箇所の英語に誤りが多ければ、そのよく書けている箇所が盗用ではないかと疑うことができます。さらに編集者は、論文の中からランダムにセンテンスを選んでGoogleで検索し、どこかからのコピー&ペーストではないかと探ることもできます。さらに論文の著者があげている引用文献を調べることによっても、テキストの複製がないか確認することができます。
また、盗用をチェックするための各種ソフトウェアやウェブサービスもあります(参考資料4)。よく知られたものとしては、iThenticate や eTBLAST といったものがあります。前述のSTAP細胞の問題で、当該の研究者が書いた博士論文の盗用は、「difff(デュフ)」というテキスト比較ツールで明らかにされました。
(2)著者とていねいにやり取りを行うこと
こうして盗用を発見した場合、次は、そのことをその論文の著者に伝えることが大切です。このさいには決して非難しないでください。たいていの論文著者はそれなりの業績を積んできた学者であり、たとえ盗用が行われていても、それが悪いことだと自覚していなければ、非難の口調で伝えられると、バカにされたように感じてしまいます。さらに、盗用がどこまで行われているかという範囲の問題によっても、編集者の取るべき行動は変わります。他人の著作から段落を丸ごとコピーしたような場合には、編集者はその盗用をした著者に敬意を払いながらも、その編集の仕事を断るべきです。このさいには、その盗用された段落がある原著の箇所を示し、該当する箇所の書き直しをまず求めてください。また、文をいくつかコピーしただけであれば、編集者が当該箇所をパラフレーズ(いい換え)して「修正」 するとともに、著者には引用元を明記するように求めます。論文の著者は、論文の英語を修正するよう求めてくるわけですが、編集者は編集業務の一環として、適切なパラフレーズ処理も行うわけです。
(3)サービスの一環としてのパラフレーズ処理(いい換え)
他人の著作からの引用以外にも、自分の以前の論文からテキストをいくつかコピーして使う著者もいます。場合によっては、多数の段落、あるいは全体をコピーしている場合さえあります。しかも、そうした自作からの引用をしていると見られないよう、テキストを書き直してくれと編集者に要求するケースもあります。こうした場合には、その著者がコピー元の論文も自分で書いたものであることを確認したうえで、パラフレーズをサービスとして行うと良いでしょう。
(4)その他の方策
大量のテキストを盗用していることが発覚した場合、その著者に該当箇所をまず(英語以外の)自分の言語で書き直し、それから英語に翻訳させるのが賢明でしょう。その翻訳された英語を、編集者が編集します。ほとんどの著者の場合、この方法はよく機能します。さらに、盗用がいかに重大な犯罪であるかを著者にわかってもらうことも大切です。 前述の通り、文化によっては、単語をいくつかコピーする程度のことは、たいした問題とは見なされていないためです。ですから編集者としては、著者に対して他人の言葉を無断借用することがいかに重大な問題かを、説明する責任があるのです。
参考資料
1. McDonnell, K. E. (2004). Academic plagiarism rules and ESL learning: Mutually exclusive concepts? American University TESOL Working Papers, No. 2.
2. Hayes, N., & Introna, LD (2005), ETHICS & BEHAVIOR, 15(3), 213–231: Cultural Values, Plagiarism, and Fairness: When Plagiarism Gets in the Way of Learning
3. How should editors respond to plagiarism? COPE discussion paper
4. 10 Tools to Check For Plagiarism

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