革新的な研究に特許調査は欠くべからず

研究者は誰でも、自分の研究を重要で、革新的で、独自性が高いものにしたいと望んでいます。既に他の研究者が取り組んでいる内容と重複する研究を行うことは、貴重な時間や研究費の無駄使いです。研究成果の特許出願を念頭においている場合は特に、既存の研究や特許申請状況の事前調査を欠かすべきではありません。

特許調査を行わなかった失敗例

特許調査を行なわなかったために失敗した実例証言を見てみます。

私は、一流の研究者で構成されたチームで、最先端技術の研究を進めていました。このチームで独創的な発明をしたと思ったのです。ところが検索したところ、別の人がすでに特許を取得していた内容であることが判明しました。研究につぎ込んだ何年もの時間と研究資金が無駄になったのです。

私たちは独自性の高い発明を見つけたいと思ったのですが、その発明を決定付ける部分はすでに特許化されていました。技術に対する特許使用料を支払うか、研究をゼロから再スタートさせるかの選択を迫られました。

博士論文の研究で、特定の化合物を作り上げようと何ヶ月も費やしていました。しかし、ある大企業がすでにこの化合物の生成に成功していたことを知りました。その大企業は、無償で少量の化合物を提供してくれました!もっと早く知っていれば、大変な時間と研究資金を無駄にしなくて済んだのに。

特許調査も文献調査の一環として実施すべし

特許は発明を保護するための権利です。発明者が特許権を取得すると、自身の特許発明の実施を一定期間独占できる権利であり、他人(第三者)は無断でその特許発明を実施することはできなくなります。貴重な時間と研究費に影響するのにもかかわらず、学術研究者が特許権の調査を怠るのは、なぜでしょうか?

理由に挙げられるのは、多くの研究者が学術文献の調査のみを行っていることです。特許出願される発明が、論文として学術雑誌(ジャーナル)に投稿されるとは限りません。研究成果として発表されないケースも多いのです。学術研究者の多く、とくに特定の分野の研究に長く従事している研究者は、その分野の情報に精通していると思ってしまい、学術文献だけを調査しがちです。これと対照的に、実際の事業に関わる研究者は、時間と費用の制約から学術ジャーナルに投稿することは稀ですが、自らの発明を保護するために特許出願に注力し、そのための準備として事前調査も怠りません。この差が、特許調査への取り組みに表れていると言えます。

学術研究者は、文献調査の一貫として特許調査を行うことを心がけるべきなのです。

特許調査における問題

最近までは、特許検索はほとんどの人にとってハードルが高いものでした。欧州特許庁(EPO)米国特許庁(USPTO)、日本の特許庁などは、無償で利用できる特許データベースを公開しています。日本では特許庁所轄の独立行政法人が運営する「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」で特許公報を無料で検索・照会することが可能です。しかし、データベースによっては検索条件が限られていたり、使いこなすことが難しかったりすること、特許の多くが複雑で難解な法律用語で書かれていること、さらに一部の特許は画像や遺伝子シーケンスのようなテキスト以外の記述法で記されていることなどが研究者の利用拡大を阻む要因ともされています。とはいえ、近年は産学官が連携する研究や、その結果として学術界(大学)で得られた知的財産(研究成果)を産業界(企業)に提供して活用させる技術移転が盛んになっています。一例ですが「近大マグロ」で有名になったマグロ養殖技術。近畿大学が世界で初めてクロマグロの完全養殖化に成功し、日本の養殖業界にも貢献しているもので、もちろん特許および商標登録されています。このような研究から活用までを見通して考えれば、研究に先立って特許調査をしておくことは大切です。そのためには、特許の記述法や構成を理解しておく必要があります。学術研究者も、文献調査だけでなく、特許調査にも意識を広げていくことが求められています。

特許調査の新しい方法

特許庁の提供するサービス以外にも、簡単に特許調査ができる新しいサービスが出てきています。例えばGoogle Patentは、一部の国の特許情報には制限があるものの、世界知的所有権機関(WIPO)をはじめとする欧州、米国、日本、中国、カナダ、韓国などでの出願も収録されている特許文献の検索サービスです。複雑な検索条件も使えて、検索データをフィルタリングすることもできます。他にも、クラリベイト・アナリティクスが提供するDerwent Patents Citation Indexは、特許及び文献の引用情報を含有しており、関連している特許を見つけ出したり、技術分野で影響力のある特許を特定したりする上で非常に有用なツールです。また、CrossRefが運営するPatentCiteは、学術文献に付けるデジタルオブジェクト識別子(DOI)を入力すると、該当文献を引用している特許文献を検索できるツールです。このようなデータベースを検索することで、関係する特許を見つけられる可能性は高まっています。学術論文の調査に加えて、いろいろなデータベースやツールを活用して特許調査を試みてください。

学術的研究における特許調査の重要性

繰り返しになりますが、研究に着手する前に特許調査をすることが重要です。以下に特許調査に関する幾つかのポイントを示します。

  • 資金の無駄を削減:
    研究開発予算の30%前後が、既存の発明を見出すのに費やされている!事前に特許調査を行うことで資金の無駄を削減できる。
  • データのチェックは入念に:
    ジャーナルには投稿されていない、特許申請にだけ記載されているデータを見逃さないようにする。
  • 有益な情報を収集する:
    企業は価値があると判断した発明については迅速に特許権を取得します。そのような情報にアンテナを張ることで、学術研究者にとっても価値のある情報を収集できる可能性があります。
  • 発明を無償で活用する:
    特許権の有効期限は出願から20年です。その後は自由にその発明を使うことができます。さらに、有効期限内であっても、研究目的であれば該当する発明を使うことができるとのただし書きが付いていることもありますので、確認してみましょう。
  • 特許調査を自分の研究成果の特許出願に役立てる:
    特許調査を行うと、自分の専門分野で他の人たちが研究している内容がわかります。自分の研究の独自性が確認できれば、特許出願につながるかもしれません。

多くの学術研究分野で特許情報は研究上不可欠なものとなってきています。大学も積極的に特許取得を勧めるようになっていますし、ひとつの発明を複数の国に出願することも増えてくることでしょう。本来、学術論文を発表する目的は知識の伝達ではありますが、新規性のある発明をした場合には、特許出願も検討してみてください。本記事が、特許調査を始めるきっかけになれば幸いです。

 

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