学者のためのニッチマーケティング

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は論文被引用数を上げることにもつながる研究者自身のニッチな読者層とのコミュニケーション方法についてのお話です。


ガーディアン紙の“私は真面目な学者で、プロのインスタグラマーではない”という記事が私のいるオンラインコミュニティで波紋を呼びました。

記事では、ソーシャルメディアに携わる人間は自己顕示をしているに過ぎないという主張がなされています。これに対し、Tseen Khooは謙虚を装ったあざとい自慢についての記事を「Research Whisperer」というブログに投稿し、Sophie Lewisは「学者でありながら楽しくブログする」という記事を自らのブログに書いており、これ以上あれこれ言う余地はないように思えます。

しかし、ガーディアン紙の記事とそれに対する反応は、自己宣伝という概念について多くの学者が抱いている不快感に関して(再度)考えさせられるきっかけとなりました。

出版はそれがゴールではなく、読んでもらうための活動も重要

ソーシャルメディアに関しては多くの否定的な意見がありますが、しかしそれ自体は新しいコミュニケーション技術のひとつに過ぎません。コミュニケーションの中身は変わっていないのです。学術界は常に騒々しいアイデアのマーケットです。自分や自分の研究に人々の注目を集めることは、次の仕事を見つけたり、共同研究を行ったり、あるいは次の助成金を獲得したりする上で不可欠です。そのためにソーシャルメディアが役立つのであれば、使うべきだと私は考えます。

アイデアのマーケットが機能している最も具体的な例として、出版と‘インパクト’という漠然とした概念を取り上げてみたいと思います。

世界中の政府は、研究者たちに研究資金に見合った価値を生み出させるよう、私たちが研究を広める仕事を行っているかを様々な方法で計っています。そうした施策は、政府から大学を通じて、論文を出版することへのプレッシャーとして研究者たちに降りてくるのです。出版すればそれでいいという訳ではありません。出版することにより、評価や測定が可能なある種の「インパクト」を起こす必要があるのです。学術的なインパクトを計る最も簡単な方法は引用です。つまり、その論文が誰の論文によって言及されているかです。

研究の成果と生産性を計ることに関する問題については多くの議論がなされています。しかし、数字が存在すれば昇進期間や採用判断に適用されますので、被引用件数を完全に無視することは出来ません。

私自身は、数字をそれほど気にしないようにしています。私がねらっているのは役立つ存在になることだからです。そして、最も緊急度の高い問題や困難な問題を研究対象とするようにしています。(現在は博士課程修了者の雇用適性です。)本当に重要な問題の研究をしていれば、その成果を読みたいと考える潜在的な読者は存在します。文献レビューを執筆する人は大勢いますし、そんな人たちにとっては、研究成果が簡単に分かったり、研究成果にアクセスできたりするのはありがたいことです。

問題は、自己宣伝というより、自分のニッチな読者層に対し、共有すべき新たな情報を伝えるコミュニケーションの方法です。

多くの学者はこのような「ニッチマーケティング」が苦手だと思われます。データによると、出版された論文の多くは広く読まれておらず、驚く程多くの論文が全く引用されないまま終わってしまいます。(これに関しては、研究領域が深くかかわる複雑な問題であることは否めませんが他の研究者がどうかはわかりませんが、私は苦労して仕上げた査読論文を誰にも読んでもらえないというのはまっぴらです。 私は“学術論文を7日間で書き上げる”というワークショップの終わりに、査読プロセスを通過すること自体は出版のゴールではなく、ライティングが終了し、プロモーションを始める、中間地点であると説明しています。

ワークショップでは、いくつかのニッチマーケティングのコミュニケーション戦略を伝えていますが、そのうちのいくつかをご紹介します。

参考文献一覧にある研究者にメールを発信する

論文の中で引用した研究者は、自分の研究がどの様に活用されているかに興味を持つはずです。参考文献一覧にはその分野の著名な研究者も含まれるでしょう。勇気を出して、彼らに自分の論文の写しを送ってみましょう。もちろん、相手が存命であるかは確認して下さい。(残念ながらフーコーが私に返事をくれることはありません。)相手への尊敬をあらわすメッセージを添えた気の利いたカバーレターを作成し、それと合わせて送信して下さい。私自身、何度か経験がありますが、返信が来るのに24時間以上掛かることはありませんでした。高名な研究者であっても、大抵の場合は自分の論文を読んでもらったことに関して非常に謙虚な姿勢になり、こちらが伝えたい内容に興味を持ってくれます。引用した著者が、今度は自身の論文でこちらの論文を引用してくれることもあるかもしれません。あるいは、自分の町への訪問を促してくれるか、その分野の大きな会議に誘ってくれるかもしれません。返事をして、会いに行く約束をしてもよいでしょう。

これも立派なネットワーキングです。

ツイッターでシェアして下さい

すでにフォロワーのネットワーク確立のための努力をしてきたというのであれば、ソーシャルメディアは唯一無二の効率的なプロモーション・チャンネルとなるはずです。まだソーシャルメディアでの取り組みをしていないという場合は、自分の研究分野でヒットする人物やハッシュタグを探し、自分のツイートのターゲットとなるようにしてみて下さい。たとえば、#Phdchatを使えばそうした情報も見つけられます。丁寧なツイートを作り、#phdchatのタグ付けをした他の人たちに問いかけて下さい。おびただしい情報が届いて驚くことになるかもしれません。ソーシャルメディア戦略に関しての話は尽きませんので、ここではくどくど話しません。ANUの学生の皆さんは、ソーシャルメディアの短期コースにもぜひ参加してください。

質問の多いリサーチゲートやacademia.eduはどうかというと、これは複雑ですので、別の記事で扱いたいと思います。

研究者の電子メールのリストに入る

私の分野では、入るのが非常に難しい研究者リストがありますが、うまく入れるとその効果は計り知れません。重要な研究者が網羅されたリストで、私は推薦を承認してもらうのに3年掛かりました。現在では、研究教育(規模は小さいですが、活発な研究分野です)のリサーチを行っている世界中のほぼすべての研究者とつながりを持っています。名簿という昔ながらのツールが、いまだに最も効果的な場合もあるのです。

リストに入っている研究者は、論文を出版するとその論文のリンクをメール配信します。私自身、自分の分野の最新の文献情報のほとんどをここから得ています。皆さんも周りの人々に、どのようなリストに入っているか、そしてそのリストにどうやって入れたかを確認してみて下さい。大きなネットワークは意外に身近な所にあるかもしれません。リストに入れたとしても、注意は必要です。リストにはそれぞれ、振る舞いに関する不文律があり、頻繁過ぎる投稿や、「間違った」内容の投稿は、グループにダメージを与えてしまいます。まずはおとなしく見守ること。少なくとも数ヶ月は人々の行動を観察し、融け込んでいきましょう。

私の戦略を全て説明し終える頃には教室の学生の多くが動揺してしまっている、ということが少なからずあります。彼らの多くは、論文を書くことにのみにとらわれていて、書いた後に何をすべきかを落ち着いて考えたことがないのです。様々な反応をされますが、中には“本当にこんなことしなければならないのか?こんなことのために参加したのではない”という反応もあります。

私が学術的ニッチマーケティングを熱心に推奨することを快く思わない人もいます。そのような人には、学術界でのキャリアを本当に望んでいるのかを問いたいところです。成功する研究者は自分と自分の成果をしっかりとプロモーションしています。皆さんに、何か売りとなるものがあれば、上に挙げたいずれの戦略についても問題なく行えるでしょう。「研究成果=商品」が優れたもので、下世話なもの求める人々に応えるというのでもなければ、自己宣伝は、出来上がったものを世に出すための、ちょっとした追加作業なのです。

いかがでしょうか。自分の成果を人々に伝えるのは、そんなに恐ろしいことでしょうか。

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2016/09/07/niche-marketing-for-academics/

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