PhD(博士課程)の乗り切り方は十人十色

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、博士号取得の道のりがいかに多種多様かというテーマでお届けします。研究方法や進捗を周りと比べることが難しい中、やっていることに自信が持てない学生必見です。


以前、博士課程の学生に対する悪いアドバイスがいかに多いかについて書きました。アドバイスが的外れだったり不適切だったりする理由の1つは、PhD学生と一括りに言っても、年齢、分野、研究内容など多くの違いがあるからです。進捗を他人と比較することは特に不毛な行為です。エリー・ウッド(Ellie Wood)の投稿が博士課程の学生の多様性について素晴らしく言い当てているので、このメッセージは繰り返し発信すべきと思い、ここでご紹介します。

エリー・ウッドは、エディンバラ大学の博士課程に在籍しています。彼女の研究は、社会科学と自然科学の両方の手法を用いて、タンザニアの農村地域の森林破壊の原因や生態系サービスへの影響について研究しています。エリーは自身の学際的な研究を効果的で公平な保全に役立てたいと考えています。研究の傍ら、科学コミュニケーションにも興味を持ち、スコットランド内と他地域のアウトリーチプロジェクトにも可能な限り参加しています。こちらがエリーのLinkedInとTwitter(@EllieWood24)です。Helena.wood@ed.ac.uk あてにメールで連絡することもできます。博士課程に進むことは悪夢だと思っていますし、口に出しても言っています。頻繁に。多くの学生にとって、博士課程での研究の苦労は、ぼやきネタの定番です(もし、あなたがぼやいてなくても、私がみんなの分までぼやいてます)。

たしかに、博士号はいつもいつも辛いというわけではありません。しかし、間違いなく辛いです。時には悪夢です。悪夢が襲ってくるタイミングや種類は人それぞれなので、周りの人の経験とは全く違う恐怖体験をすることもあるかもしれません。人と違う経験をしていることが孤立感を生み…悪夢の恐ろしさを増幅させるのです。こういう孤独を感じている人や、周りの人と違う博士号の経験をしている人に、声を大にして、大丈夫、正常ですよ、と伝えたいです。こういうウヨウヨとうごめく不気味な考えをお互いの脳から追い出し、楽しいことで頭をいっぱいにする方法があります(昆虫学者さんはどちらにしてもウヨウヨうごめく物で頭がいっぱいかも⁉)。

私たちの背景がそれぞれ異なることを思えば、博士課程の体験が非常に多様であることは驚きではありません。学生の年齢は、大体15歳から95歳までです。異なる文化的背景を持ち、異なる人生経験、訓練、教育、仕事を経ています。私の博士号は分野横断的なものなので、プロジェクト内でも分野ごとに私自身の知識や造詣のレベルは様々です。私は生物学の学士号を取得し、現在は生態学と社会科学を半々で研究しています。つまり、プロジェクトの半分は、ある程度の知識とスキルを持ち、残りの半分は知識やスキルがゼロの状態からスタートしたことになります。これは、楽しいことでもあり、恐ろしいことでもあります。

私のことはこれぐらいにして、話を戻しましょう。学際的な博士課程でなくても、自分が何をしているのか分からないと感じることはありますし、分からないと感じることが、実はとても素晴らしく生産的なこと*であり、実際、斬新な研究の核心となると指摘する人もいます。そもそも私たちは、これまでにない課題を研究することになっていますよね?

私のシェアハウスの同居人2人と私は全員博士学生で、比較的近い分野の研究をしていますが、やり方も研究方法も作業スケジュールも全く異なります。私は博士課程の1年目のほとんどを読書だけに費やしました。これは素晴らしい特権でありますが、2週目から研究室でデータを収集しているクラスメイトを見たときには、震えました。それでも、私の博士号はこのように進める必要がありましたし、あなたの博士号もそうかもしれません。

また、学生によって担っている責任も異なります(研究、講師、課外活動、私生活など)。人それぞれでいいんです。博士課程は非常にストレスの多いものであると同時に、多くの場合は柔軟性があり、子供を保育園に預けたり、勉強と同時に仕事をしたりと、他にもすべきことがある場合にはとても便利です。たとえ、9時から5時で働く同期に対して後ろめたい気持ちがあったとしても、柔軟性をフル活用すればいいのです。全く同じ境遇の学生なんて絶対にいないし、比べるだけ無駄なので、気にしないでください。

博士課程の学生は多様で面白い集団です。でも、自分があまりに人と違って異質な存在であることに悩むときには、何らかのサポートが必要です。また、自分が軌道から外れていないかどうかを見極めることも大事です。経験や知識を共有し合い、自分が経験していること、やっていることがこれでいいのか、大丈夫なのかを語り合う必要があります。

ありがたいことに、私たちに様々な違いがあったとしても、博士号取得者たちの共通体験の蓄積というものがあって、私たち自身も発信し共有できます。最近読んだ「The Unwritten Rules of PhD Research(仮訳:PhD研究の不文律)」は本当に役に立ちました。コンピュータ科学者と「知識モデリング」というものを専門とする人が、どんな博士学生にも役立つアドバイス本を書くなんて、ちょっとびっくりです。ブログなどの記事はどうでしょう。著者たちが、自分の人生経験を、知りもしない私の経験と関連づけようとしているなんて…。お察しの通り、私はこういう類のブログや記事は素晴らしいと思っています。他の人の体験談を読むのが好きなのです。書いている人たちは、おそらく私とはまったく異なる研究をしているのでしょうが。そうした大きな知恵の蓄積を共有することで、知識を得たり、孤独を感じないようにしたりできます。他人の体験が自分の体験と完全に一致する必要はありません。例えば、私は『Unwritten Rules』のすべての言葉が役に立つ、自分に関わる内容だとは思いませんでした。それでも私にとって非常に有益な本でした。これは、他の人々の経験に関する知識ベースの構築において、博士課程で大いに役立ちました。

というわけで、博士号を取得するまでの道のりは多種多様であり、それに応じて学生の経験も多種多様です。在籍している学生たちは皆、すでに博士号を取得している誰かに見込まれて、博士課程に招かれたということを忘れないでください。あなたは、誰かに信じられているからこそ、博士学生なのです。多様性は人生においても、研究グループにおいても素晴らしいものです。ですから、違いを喜び合い、自分が他の人とは違うやり方で物事を進めていると感じても心配しないでください。しかし、自信がなく、孤独を感じるときは、誰かに相談してみてください。話してみれば、自分が経験したことは決して珍しくないと気づくでしょう。すべてを解決できるわけではないですが、自分の経験が正常であると安心できるかもしれません。

* 私の指導教員は、博士課程の最初の週に、この記事を紹介してくれました。素晴らしい指導者で、学生たちが「自分はバカだなぁ」と思うことがいかに多いか、そしてそういう気持ちになることが普通のことで、実は役に立つんだということを知ることの重要性を理解している教授です。

エリー、体験談をありがとう!これ以上ないくらい素晴らしく的を射ています。いかがでしたか?

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2019/11/27/13780/

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