脳に心地よく説得力ある英文を書くには

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、インガー准教授が、説得力のある文章を書くヒントを伝授。脳科学的な見地から分かりやすく明確な英語の文章を書く方法を説明します。さて、読みやすい文章、脳に心地よい文章とはどのような文章なのでしょう。


多くの研究者のように、私も毎朝オフィスに着くとたまった読み物との戦いが始まります。 正直に言うと、途中で戦いを投げ出すことがほとんどです。Publish or Perish(出版か死か)のプレッシャーの下、研究教育のようなマイナーな分野の研究者たちでさえ、毎年大量に物書きをしますが、「最新情報を得るため」だけに同じ分野の新しい論文すべてに目を通す時間はありません。論文を読むのは、どうしても読まなければならない場合(ほとんどは文献レビューを書くとき)だけです。私は今でもプライベートでは熱心な読書家なのですが、読むもののほとんどは、読者を引き込むタイプの人気のノンフィクション(と、ストーリーのある恋愛小説)です。 同じ分野の研究者の書く文献の多くを読んでいないということを認めるのは少し恥ずかしいのですが、弁明させていただくと学術論文というものはたいがい・・・つまらないんです。 退屈な文章を大量生産する同業者たちを責めるつもりはありません。私自身もその一人なのですから。ただ、私にとって幸運だったのは、ライティングについてのワークショップを教えるために、否が応でも自身のライティングスキルを磨く努力をし続けなければならなかったことでした。教えることが最良の学びだからこそ、キャサリン・ファースとショーン・リーマンとの共著で、ライティングについての本を2冊も上梓できたのです。好評だった1冊目の『How to fix your academic writing trouble』に続き、2冊目『Level up your essays』も出版されています。 (後者は学部生が対象のため、この記事をお読みの皆様が興味を持たれるかは分かりませんが、教え子や後輩の学生にぜひご紹介ください。)

聡明な2人の共著者との仕事は素晴らしい学びとなりましたが、ライティングのスキルに到達点はありません。読み手に訴えかける文章を作成する方法のひとつは、読み手が文章を脳内でどう解読していくかを理解することです。

人間の脳には、読解をスピードアップさせるための様々な技が備わっています。もし仮に、ページに書かれた単語それぞれの意味を心の中で吟味しながら読んでいけば、数ページ読むのにひと月もかかってしまうでしょう。例えば、文を読むとき脳は読解可能な文字の塊を探します。それまでに積み重ねられたリーディングの経験から、特定の言葉の並びを予期するようになるのです。専門用語では、そうした思考の型のようなものをスキーマと呼びます。

スキーマは鋳型のようなもので、テキストの中の単語のパターンなどです。例えば、英語の形容詞と名詞は、形容詞が、価値判断―サイズ―新しさ/古さ―形―色―来歴―素材―目的の順に書かれ、その後に名詞が記述されます。この順番を少しでも変えると読み手は混乱します。Mark Fosytheの『Elements of Eloquence』で挙げられた例でいうと、A lovely little old rectangular green French silver whittling knife(素敵な・小さな・古い・四角い・緑色の・フランス産の・銀製の・削り出し用の・ナイフ)の順だと意味が通じますが、語順を A lovely little old rectangular French silver green whittling knife に変えると意味が通じません。

なぜでしょう。

明確には分かりませんが脳はそう認識するのです。不思議ですね。 英語のスキーマで最も重要なものが、主語―動詞―目的語です。この文型のシンプルな例は;

Darwin studied finches.   ダーウィンはフィンチ類(鳥の種類)を研究した。 

念のための確認ですが、Darwinが主語=動作の主体で、studiedが動詞、finchesが目的語、つまり動作を受ける対象です。 主語-動詞-目的語の文型が機能するのは、出来事についての情報を脳に供給するからです。「ダーウィンはフィンチ類を研究した」という文では、ダーウィンが研究を行い、フィンチ類が研究されていることが分ります。ちょっと順番を変えて、Studied Darwin finches.と書けば、脳は何が起きたのかが分からずわからず、一語一語、処理速度を落とさなければならなくなります。文を読む私たちの脳にとって、これは高速道路を時速100 kmで走っていたのに、道路の穴を避けるため急停止するようなものです。

幸い、脳は柔軟です。たとえ、主語―動詞―目的語の順番を変えてしまっても、脳は文から意味をくみ取ります。実際、語順を倒置させた文には面白みや味わいさえあるのです。例えばヨーダが” Powerful you have become; the dark side I sense in you“と言っても、聞き手は意味を理解することができ、むしろ優しさも感じるでしょう。 夫の同僚Adam Ratcliffは、主語―動詞―目的語の語順を倒置することを“Yodanate(ヨーダ式に話す)”と呼んでいます。面白みのないダース・ベイダーは、絶対にヨーダ式には話しません。 主語―動詞―目的語に捉われる英語脳はその語順を探しそうとします。だからこそ、キャンベラの路面標示に苛立つことがあるのです。 文字列を読もうして速度を落としてしまうのは語順で混乱するからです。私は自分の文才には自信があるのですが、これまでに出版した論文には、主語―動詞―目的語の語順を変えてしまっている文だらけです。例えば、数年前に共著で出版した論文の中の次の文を見てみましょう。

The growing awareness of a range of possible career destinations for Ph.D. graduates has led to widespread questioning of the ‘traditional’ model of the Ph.D.

ここで、主語―動詞―目的語が見えやすいよう単語に色付けをしてみます。オレンジで動作の主体(多くの場合人物、人以外のこともあり)を、緑で動作を、そして青で対象(物や概念、時に人の事も)をハイライトしてみましょう。

The growing awareness of a range of possible career destinations for Ph.D graduates has led to widespread questioning of the traditional’  Ph.D curriculum.

なんだか混乱してきました。‘Ph.D Graduates’もオレンジ色かも。でも‘Ph.D Graduates’は動作の主体ではないし、この文の中の動作といえば、questioning(疑問視すること)でしょうか。しかし誰が疑問視しているのかは、当て推量するしかありません。 こうしたごちゃごちゃした文を直す方法は簡単です。誰が、何の行為・動作を、何に対して行ったかを明確にします。

Research suggests PhD graduates have a broad range of possible career destinations, which has led scholars to question the utility of the traditional’ PhD curriculum

ずっと良いですね。直した文では主語―動詞―目的語のセット2つつながり、脳はそれをアクション映画を観ているかののようにスムーズに理解するでしょう。 完全なスキーマを持つ文は、意味を引き出そうと頭を悩ませる必要がないため、より説得力があります。英語脳は、始まりに近いところに主語―動詞―目的語の塊があり、詳細が明かされる前にまず、どのような行為・動作が行われているかが分かる文を好みます。

上記の直した文では、主語―動詞―目的語の塊が文頭に書かれ、その後に説明が来ます。余分な部分をピンクで強調してみましょう。

Research suggests PhD graduates have a broad range of possible career destinations, which has led scholars to question the utility of the ‘traditional’ PhD curriculum. 

友人のポール・マギーによると、言語学ではこうした文の構造は右枝分かれ(right-branching sentence)というそうです。最近、ポールとランチをしながら、脳とライティングに関するPodcastのシリーズ(お楽しみに!)の打ち合わせをしていた際に、脳が右枝分かれ文を好むのは、それが会話でよく用いられる文構造だからだと教わりました。会話のような文構造 が脳にとって心地良いのには、特別な理由があります。それは、黙読する際にも脳内で音声の処理をつかさどる部分が働き、脳内音読が行われるからです。このことは「作者の声」というような言い方につながります。脳からしてみれば、文を読む際、私たちは見ているのではなく、聴いているのです。

右枝分かれ文の反対は左枝分かれ文(left branching sentence)で、主語―動詞―目的語の塊で動作・行為が示される前に細かい説明などが記述されます。ピーター・エルボウが著書『Venacular Eloquence』の中で指摘するとおり、左枝分かれ文は脳により大きな負担をかけます。(お恥ずかしいですが)私の論文の中の次の文を見てみましょう。主語・述語の塊の前に、かなりの説明がなされているもので、左枝分かれの説明の部分をピンクで強調してみます。

When consulting with employers about the range of skills a PhD graduate should have on completion in order to be employable, academic managers typically take a round table approach.

この左枝分かれ文は、主語のacademic managersの動作を示す前に、その状況についての多くの情報を脳に与えます。読み終わった後に本当に理解するためには、読み手がもう一度文頭に戻らなければならないような文です。読み手にブレーキを掛けさせるのではなく、元来た道を戻らせるようなものなのです。 このような左枝分かれ文は学生の文章には非常に多く、学術的文章全般でも見られます。

研究者は特に左の枝を伸ばしすぎる傾向があるように思います。文を書く時の研究者の脳は細かい情報でいっぱいだからです。また、学術的な文章は守りの文章になりがちです。私たちは述べることを述べる前に、その正しさを示し、自分たちがしかるべき手順を踏んでいることを読み手に示そうとしてしまうのです。

左枝分かれ文を避けるのは難しいですが左の枝をかなり短くすれば、読者の脳は、こちらが伝えたい情報をより容易に把握してくれるでしょう。

When consulting with employers, academic managers typically take a round table approach.

このちょっとした脳科学を踏まえたコツが、脳に心地よい文章を作る手助けになることを願っています。

Twitterで@thesiswhispererというタグ付けでメッセージをいただければチェックいたします。ブログ執筆の時間は減っていますが、その時間をPodcastという趣味の追求に充てています。2021年の最初のOn The Regが公開されていますので、ぜひ聴いてみてください。

インガー

PS: 2020年のブログのチャリティ・コンピレーションThe year of living Covidly をご購入いただいた皆様に感謝を申し上げます。1月2日に、最初の464.07ドルをUN Women Australia に寄付し、2月にも今月も254.20ドルを寄付しました。ありがとうございました。

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2021/02/03/how-to-write-a-more-compelling-sentence/

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