分野横断的な研究に取り組むときに留意すること

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。ミューバーン准教授が、分野横断的な研究に従事するPhD学生からの投稿を紹介しています。複数の分野をまたいだ研究を行う際の苦労とはどんなものでしょうか。


複数の分野にまたがる研究をしていますか?私はやったことがありますが、分野の垣根を超えた研究をするのは大変なことです。多くの大学のシステムは専門分野に合わせた構成となっています。分野ごとの研究に従事するには大変よいシステムなのですが、ひとつの分野に収まりきらない研究をしようとすると、すぐに疎外感を感じるかもしれません。既成の分野に捕らわれず、分野横断的な研究を行うにはどうすればいいのでしょうか?

今回は、テキサスA&M大学の機械工学部の修士課程に在籍する学生、ヴァルネスワラ・レディ・パニャム(Varuneswara Reddy Panyam)から寄せられた投稿を紹介するものです。彼の趣味は、テニスをしたり、文章を書いたり、自転車に乗ること。2016年にシブ・ナダー大学(Shiv Nadar University)で機械工学の学士号を取得し、1年間、ニューデリーで冷凍システムの研究に関わった後、米国のテキサス州に移り、大学院に入りました。彼が修士課程で取り組んだのは、電力網(グリッド)のバイオインスバイアード(生体模倣)デザイン(BID)に重点をおいた研究です。ヴァルネスワラの詳細は彼の個人のウェブサイトで見ることができます。

学術研究では、2つ以上の分野の技術を活用して問題の解決策を図ることがあり、専門分野をまたいだ研究プロジェクトを牽引できる研究指導者(教授)を募集している大学が世界中で増えています。分野をまたいだ研究、分野横断的研究を行うことには多くの利点がある反面、いくつかの欠点もあります。私の修士研究は、電力グリッドネットワークの耐久性と復元力を向上させるために生態学および機械工学の視点からネットワークの解析原理に取り組むという非常に分野横断的な研究でした。このような分野をまたいだ研究を行うために、避けては通れない障害や問題をいくつも乗り越えなければなりませんでした。ここでは、重大な問題とそれらを回避、あるいは克服し、研究の機会を最大限活用するための解決策を紹介します。

適切な共同研究者を見つける

適切な共同研究者を見つけることはとても大切です。既に分野横断的な研究チームに参加しているのであれば、ラッキーです。大方の初期的な問題はやり過ごせていることでしょう。しかし、PhDの研究プロジェクトとしてこれから新しい分野横断的な研究を始めたいのであれば、始めの段階で時間を取られたり、いきなり困難に直面したりするかもしれません。私がPhDの研究を始めたときは、共同研究者を見つけるのに学期のほとんどを費やしました。まず7-8人の教授に会い、そのうちの2人と頻繁にeメールで連絡を取り合い、会合を重ね、最終的に1人を選び、その教授と彼女の研究グループと研究を始めることにしました。自分の専門分野以外の教授を説得するのは非常に難しいので、この段階には忍耐力が不可欠です。自分がすべきことをやり、教授が行っている研究プロジェクトについて学び、自分の提案の目新しさと実現可能性を教授に納得してもらうための方法を探してください。教授が皆同じようにあなたの提案に興味を示してくれるとは限らないので、好感の持てる教授一人に的を絞り込んでしまうことは避けます。自分が希望した教授につけなかったとしても、そこで落ち込まず、次に進みましょう。より大きなことに取り組んでいく間には、教授に受け入れてもらえないということも度々起こります。たくさんの教授と交流し、ブレインストーミングを行う経験のすべては、疲れはしますが、後に就職するときに採用者に高く評価される能力、つまり研究チームを作り、チームを牽引する能力をつける貴重な機会となるでしょう。

頻繁にコミュニケーションを取る

分野横断的な研究プロジェクトを成功に導くためには、研究チームのメンバー全員と頻繁にコミュニケーションをとることが大切です。このような研究プロジェクトを率いる教授は、他にも重要なプロジェクトを抱えていることが多いので、あなたから進捗状況や期待していること、大切な会議、論文の締め切り日などを適宜伝えなければ、進行の遅れを引き起こしてしまうこともあります。会合を持つべきときには機会を逃さないようにしましょう。将来の職場でリーダーシップを発揮するための良い訓練となるはずです。

さまざまな人に自分の研究を発表する機会があれば、逃す手はありません。研究の成果を異なる分野の研究者にもわかりやすく伝えることによって、より良いものにすることができるのです。異なる分野に関連しているあなたの研究に、誰が興味を持つか、役に立つと思ってくれるか分かりません。また、異なる経歴や知識レベルをもつ研究者と話をすることは、自身のスピーキング力およびプレゼン力を向上させるのに役立ちます。

仕事の責任を確かめておく

多くの研究者が分野横断的な研究に従事するようになると、あなたの貢献が埋もれてしまう可能性があります。ですので、開始段階から研究における責任を確かめておくことがとても大切です。指導者や共同研究者と話し合い、自分のアイデアとプロジェクトに対してどのような貢献をしたいかについて相談しておきましょう。学術会議や学術雑誌(ジャーナル)論文における著者の順番を明確にしておきつつ、方向性が変わったときには変更できるように柔軟性を残しておくようにします。著者の順番について話を持ち出すことに最初は躊躇するかもしれませんが、あなたの作業が相応に認識されるためには重要なことです。

新たな熱意と視点を持ち続ける

複数分野にまたがる研究を行うことは、やりがいがあると同時に、精神的には厳しいものです。PhDの学生には完璧主義者が多く、見込みのない成果を追い求める傾向があり、特に分野横断的な研究を行う場合、研究を進めている学術分野の専門家ではないこともあるので、余計に悪い状況に陥ってしまう可能性もあります。常に慎重でいなければと思っていると、燃え尽き症候群や停滞を引き起こすことも。異なる経歴を持つ人たちと接点があれば、彼らに支援やアドバイスを求めましょう。人と話をすることは、気分が落ち込んでいるときに新しい方向性を見出す助けとなることもあります。そして、楽しいことは続けましょう。かつて私が学部生だった時には、映画を観たり、自分の動画のアイデアを書き出したりして楽しんでいました。PhDになってから、行き詰ったときには映画を観て新しい見解を探して気分転換しています。

研究アイデアと助成金を求めて

PhD課程の究極の目的は、自立した研究者の育成です。そして、独立した研究者として最も重要な要素のひとつは、助成金申請で成功する、つまり助成金を獲得することです。分野横断的なテーマの研究に取り組む学生は、関連する分野で十分に深い知識が得られず、結果として学術的知識や助成金申請書の作成経験も不十分となる可能性があります。したがって、分野横断的研究チームの学生は、自分の関わる学術分野の文献を積極的に読み、他の研究者の研究助成金申請を書くチャンスに関わるようにすべきです。ここで経験することは、PhD学生がフルタイムの研究者になるにあたって、優れた助成金申請を書くために歩んでいく長い道のりにつながるでしょう。

辛いことも厳しいこともありますが、分野横断的な研究は、非常に多様なスキルを習得するまたとないチャンスです。確かに短期間に多くのことを学ぶことを余儀なくされます。それでも、分野横断的な研究プロジェクトの影響はとても高い傾向にあり、この研究課程で得られる経験は、学術界の内外に関わらず将来のキャリアにとっても良い訓練となります。大学は、分野横断的な研究プロジェクトを行う過程で直面するさまざまな障害を抱える学生や教員を支援するために、別々の組織を立ち上げることで大学としての役割を担うことができるのではないかと私は考えています。

ありがとう、ヴァルネスワラ。私も、大学は分野横断的な研究の実施を容易にするためにもっと多くのことができると思います。あなたはどう思いますか?分野をまたいだ研究または分野と分野の狭間にある研究を行うのに支障を感じたことはありますか?同様の困難に直面している同僚はどんなアドバイスを必要としていますか?

原文を読む: https://thesiswhisperer.com/2019/09/18/13760/

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