論文の考察はどうやって書く?

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、論文の要でもある「考察(ディスカッション)」には何をどう書けばいいのかという話です。


以前、友人であり効率化の師でもあるジェイソン・ダウンズ(Jason Downs)の勧めで、リチャード・コッチ(Richard Koch)の『The 80/20 Principle: The Secret to Achieving More with Less(邦題:人生を変える80対20の法則)』を読んでみました。この本は、最小限の努力で最大限の成果を得る方法について述べたロングセラーで、何度も改訂されているだけでなく、サマリー版やガイド本まで出版されています。

ジェイソンは効率化という観点から言えば、この本を「読む」必要はないと言いました。というのも、この本の言いたいことはタイトルを見れば分かるというのです――ごもっともです。著者のコッチは、成果の8割は、2割の努力・原因・時間によってもたらされているというのです。これは「パレートの法則」や「ばらつきの法則」とも呼ばれています。コッチは、効率的に仕事を進めるコツは「価値の高い」仕事を特定し、可能な限りそれを実行することだと指摘しています。私にとって価値の高い仕事とは書くことと人と話すこと。逆に、価値の低い仕事は電子メールの処理……。本は読みましたが、他の多くの自己啓発本と同じく、新たに得られるものはありませんでした。

昨年、私の友人であり、「Thesis Whisperer」同様の「The Research Whisperer」(私のブログよりお金に関した話も取り上げているブログ)を書いている二人の片割れでもあるジョナサン(Jonathan O’Donnell)が、彼らのブログの読者の検索用語を分析してまとめた表を送ってくれました。そこには、多くの人がガントチャート(プロジェクトなどの工程を管理するために作業計画を視覚的に表すもの)をどうやって作成するかを取り上げた記事を検索していることが示されていました。ここで私の頭には疑問が――私のブログの読者は、何を検索してどの記事を読んで、どの記事が有用だと見ているのでしょうか。何だと思います?

早々に私は他のすべての作業を中断して900万人以上におよぶブログ訪問者の10年分の検索データを見直してみました。結果、見えてきたのは以下の3点です。

  • 「Thesis Whisperer」は認知度が高く、約50%の人がブログ名や類する名前(入力名はさまざまでしたが)を入力してブログを訪問してくれている(私の名前、インガー・ミューバーン(Inger Mewburn)で検索している人はわずかしかいませんでしたが)
  • ブログタイトルの次に多かった検索は、論文執筆に関する問題解決を探るものでこれは予想通り
  • 三番目に多かったのが「賢く見せる方法」だったのは複雑な気分。読者は、私自身も気に入っている過去記事「5 ways to look more clever than you actually are(仮訳:実際より賢く見せる5つの方法)」に興味を持ってくれているようです

もう少し深堀して、書くことについては特にどんなことが人々を悩ませているのかを探ってみました。そうすることで、生産性やフィードバック、文献レビュー、文章スタイルや文法の態(ヴォイス)、文法などに関して読者が気にしていることを見つけられると思ったのです。が、そううまくはいきませんでした。執筆に関する大量の検索の75%は、考察(ディスカッション)に関する質問や不安だったのです。それなのに、私が10年間に「考察」について書いたのは2回だけ。2割が8割の成果に結びつくどころか、わすか0.003%の作業に対する検索が大半だったなんて。

私は15年以上、書くことについて教えており、他の大学でもたくさんの開発プログラムの見直しに関わってきました。ところが、考察(ディスカッション)は執筆作業とは毛色が異なるとされ、このセクションに焦点を当てたワークショップが開催されることは少ないのです。考察の執筆には指導教員などがサポートしていると思っていたのですが、私の検索データ調査を見るとそうとも言えないようです。こんなことで大丈夫なのか不安になってきました。論文における考察は、創造的な研究活動における要。最も独創的であるべき部分なのです。論文に考察と呼べる部分がなかったとしても(私はセクションを作りませんでした)、論文には収集したデータとその分析に関する新しい知見を明示的に示す必要があります。

書いておくべきことを確認するのに、過去の2つの記事を見直してみました。ひとつめの記事「How do I start my discussion section」には、考察に何を書くべき内容、考察を書く必要があるかを判断する方法、書き始めるための戦略について示しています。これに関しては、それぞれ別のブログも書いているはずです。そして、もうひとつの記事「The difficult discussion section」には、考察は論文執筆における「問題児」であることを前提に、学位修得の終盤までに、なにとか問題になる文章を書き、調査結果や分析をまとめることができるように、プロセスを段階的に説明しています。

とは言っても、実際、考察では何をどのように示すべきなのでしょうか?

同僚のジョスタ・ヘイリンガー(Josta Heylingers)が、自身がニュージーランドのオークランド工科大学で論文の考察の書き方を教えるのに参照しているという機能的言語学の文献を紹介してくれました。授業では、言語学者のジョン・スウェイルズ(John Swales)による研究や彼が提唱する「move step analysis」という分析手法も使っているそうです。私自身、PhD学生のときにこの手法を知っていましたし、私のPhD学生も研究でこの段階的分析を使用しているので、この手法に慣れざるを得ませんでした。

スウェイルズ博士は、「文章(テキスト)自体は社会的なもの」であり、すべての読み手は異なる種類の文章から何を読み取るべきか「分かっている(研さんを積んでいる)」とします。例えば、就職申請書と助成金申請書の書き方/書かれ方は違いますし、ジャーナルの記事のような記事も違ってしかるべきです。文章を読むとき、読み手は言語学的な「ムーブ(Move)」を推定することに慣れ親しんでいるというのです。(訳者注:ムーブとは、言語学的な性質を分析するためにテキストの構成要素を機能や目的で分類して分析する「ムーブ解析」という手法において、分析の対象となるテキストの構成要素や何等かの機能や目的を有するまとまりを指し、ステップとはムーブの下位構成要素)。

ムーブ分析とは、テキストを細分化することで、それぞれがどこに、どのようにつながってまとまりを作るのかを分かりやすくしようとする方法です。ひとつひとつがまとまって社会的な文章として認識される言語学的ムーブを、ダンスに例えてもらえるとわかりやすいかもしれません。文章(テキスト)がダンスだとすれば、振り付けがムーブで、さらに細分化された動きがステップ。1990年代に流行った「Macarena(マカレナ)」というダンスを例にとって説明してみます。マカレナダンスを知らない、覚えていないという方は下の動画を見てみてください。ダンスを構成するムーブとステップを理解するのに役立ちます。

この動画のダンサー、ジャン・ユー(Jean Eu)は、マカレナダンスの構成要素(ステップ)をひとつずつ説明しています。ダンスを組み立てるには、ひとつひとつの動きを正しく、かつ正しい順序で行う必要があります。手を前に出す動きから始めずに、腰に手を置くところから始めたらマカレナダンスではなくなってしまいます。違う動きをすれば、「間違えてる」「下手」と思われるのがオチです。

ダンスと論文の考察を書くということはまったく見当違いのように見えますが、正しい手順が必要という意味では同じです。正しいステップを正しい順序で積み上げてムーブを構築していくことで「正しい」テキストを書くことができるのです。正しいテキストが書ければ、あなたが読者に考えてもらいたいと考えている見解を、的確に読者に伝え、評価してもらうことができるでしょう。研究成果に関する考えをまとめ、的確な形式で段階的にわかりやすく示すことが必要です。

では実際に、考察セクションとダンスのどこが似ているのか見ていきます。まず全体像。Kasetsart Journal of Social Sciencesという学術ジャーナルに寄稿された論文「The textural organisation of the discussion sections of accounting research articles」の中で、著者(Wirada Amnuai)は、以下のように述べています。

考察とは、研究者が自分の分野または他分野の学術コミュニティにも役立つように、自分の研究から得られた成果についての見解を示し、まとめ、一般化して説明するものである。

分野によって違いはありますが、あなたの「ムーブ」がコミュニティにとって社会的に受け入れられるものに基づいていることが重要です。ここに示すのは、あらゆる考察に必要な基本的なムーブのリストですので、その点を踏まえながら見てください。

  • 結果を別の言葉で言い表す(単純に同じことを書かないように注意!)
  • 結果に対してコメントする
  • 結果を評価する
  • 結果に基づく提案を示す

また、英マンチェスター大学の学術表現集「Manchester Academic Phrase Bank ‘discussing the findings’ section」にも役立つ表現が満載です。この中の「結果を議論する(discussing the findings)」には、それぞれの「ムーブ」のための「ステップ」として使える文章が提示されています。これらの表現を使って文章を作成してみてください。

結果を別の言葉で言い表す:

“The current study found that …” この研究でわかったことは、
“The results of this study show/indicate that …” この研究の結果が示しているのは、
“The results of this study did not show that …/did not show any significant increase in …”
この研究の結果として示されなかったことは、/有意な増加が示されなかったのは、

結果に対してコメントする:

“These results further support the idea of … これらの結果が示唆しているのは、
“These results confirm the association between … これらの結果から、…の間の関連は明らかであり、
“These findings are consistent with  …” 本研究での結果は…と一致しており
“These match/don’t match those observed in earlier studies…” 本研究での結果は…と一致しており
“These results are in line with those of previous studies…” これらの結果は、過去の研究結果の…と一致し
“These findings are in agreement with those obtained by …” これらの結果は、…によって得られた結果とも一致し

結果を評価する:

“There are several possible explanations for this result…” この結果にはいくつかの説明が考えられる
“It seems possible that these results are due to …” これらの結果は…が原因である可能性がある
“The reason for this is not clear but it may have something to do with…” この理由は明らかではないが、関連する可能性がある
“These data must be interpreted with caution because …” これらのデータは慎重に解釈しなければならない
“The present results are significant in at least two major respects.” この結果は、少なくとも主要な2つ要素において重要である

結果に基づく提案を示す

“There are still many unanswered questions about …” 未回答の問題が多々残されている
“There is abundant room for further progress in determining.”  結論を下すにはさらに研究を進展させる余地がある
“Despite these promising results, questions remain.”  前途有望な結果が得られたものの疑問は残る

例を挙げてみましたが、これらの文章にこだわる必要はありません。これ以外にもたくさんの例文がManchester Academic Phrase Bankには掲載されているので、是非参考にしてみてください。

考察を書き始めるのに使える別の方法も紹介します。パット・トムソン(Pat Thomson)とバーバラ・カムラー(Barbara Kamler)の著書『Helping doctoral students write』の中から、あなたが良いと思う文章から余計な部分を「そぎ落として」借用してみる――庭木を剪定するような感じでしょうか。そうすることで適切な文章を書けるように「自己研鑽」するのです。ここでは、ジュディ・ワイクマン(Judy Wajcman)とエミリー・ローズ(Emily Rose)(2011年)による論文『Constant Connectivity: Rethinking Interruptions at Work』の最初の段落を例にとって説明してみます。この段落には「結果を要約する」ムーブがはっきりと示されています。

上述の分析から明らかになったのは、従業員が現代の知識労働の本質的な常時結合性について折り合いを付ける際に再形成される労働慣行(仕事のやり方)のひとつです。私たちは、介在されたコミュニケーションと、短く断片化された個々の作業の間の関係性を実証しました。注目すべきは、現在の勤務時間中の主なコミュニケーションが、対面ではなくテクノロジーによって行われているということです。ただし、それぞれのコミュニケーションの所要時間が、平均して5分以下と短くなる傾向が見られます。

カムラーとトムソンが示唆するように、文章から内容を抜き出してみましょう。私は「取り消し」機能を使って作業します。例えばこんな感じです。

上述の分析から明らかになったのは、従業員が現代の知識労働の本質的な常時結合性について折り合いを付ける際に再形成される労働慣行(仕事のやり方)のひとつです。私たちは、介在されたコミュニケーションと、短く断片化された個々の作業の間の関係性を実証しました。注目すべきは、現在の勤務時間中の主なコミュニケーションが、対面ではなくテクノロジーによって行われているということです。ただし、それぞれのコミュニケーションの所要時間が、平均して5分以下と短くなる傾向が見られます。

こうして余計な部分を取り払えば、テキストを抜いたところに自分の結果を挿入することができます。この方法は、元の文章の大まかな構造を借用して、ほぼ新しい文章を作ることに適した方法です。私が行っている最近の研究(まだ実際に何も証明できていないので、引用しないでくださいね!)を例に、いくつかの内容を入れ込んで段落を再構築してみます。

上述の分析から明らかになったのは、果たせなかったことのひとつ、つまり博士課程取得後の求職の本質に関わることです。私たちは、特定の職場環境における過去の経験と、求職に成功したケースの間の関係性を実証しました。注目すべきは、いかに大学院生が過去の実務経験をはっきりと伝える必要性について意識が低かったかに強い関連性があることです。大学院生は、社会学者バーバラ・ロヴィッツ(Barbara Lovitts)が言うところの「多元的無知」な人生を送っている傾向が見られます。(訳者注:ロヴィッツは、心理学的な原子主義と多元的無知が大学院生の脱落の主要な要素と述べた。大学院生は他の誰もが何をすべきか知っていると考え、価値がないように見えることを行うことに躊躇することにより大学院内で多元的無知が発生するとしている。)

これを読んで「これは盗用にあたるのでは?」と疑問に思うかもしれません。いいえ、この場合、あなたは元の文章に示された知識や考えではなく構造だけを借用しているので盗用ではありません。このやり方が気に入れば考察全体をこの方法で書くこともできますが、非常によく似た結果を示した研究を見つける必要があります。異なる文章から段落を抜き出し、それをパッチワークキルトのようにつなぎ合わせる必要が出てくることでしょう。

あらゆる種類の学術文章の執筆に「正しい」あるいは「間違った」文章のムーブがあるという考えを理解できれば、考察以外の論文のどの部分(セクション)にも応用できる驚くほど強力な執筆策を手に入れたと同然です。

考察セクションについて言いたいことは、まだまだありますので、書き続けていこうと思っています。質問をもらえれば、何に焦点を置いて書くかを決めるのに役立ちますので、是非気軽にコメントしてください。また、あなたの考察についての考えや、どのように考察に向き合ったかの経験談にも興味がありますので、他の人への提案などあれば、知らせてくださいね。

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参考リンク

 

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2020/03/04/no-really-how-do-you-write-a-discussion-section/

 

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