完璧主義から自分を解放する

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、博士課程在学中の大学院生から寄せられた「完璧主義」についての記事を紹介。完璧の呪縛から自分を解放し、楽になるにはどうすればよいのでしょう。


あなたは完璧主義者でしょうか?自分は違う、と私も思ってきましたが、昨年心理セラピストから「機能型」完璧主義(functional perfectionism)という考え方を教えてもらいました。その考察については過去の記事、「学者なりに燃え尽き症候群を引き起こす完璧主義を分析してみた」に書きました。私がいつも陥る完璧主義の落とし穴も、ネガティブなひとり言を言うことなので、ガブリエラが送ってくれた記事が、完璧主義仲間の皆さんにも響くと思います。

ガブリエラ・ウィルソン(Gabriella Wilson)は現在、グリフィス大学クイーンズランド・カレッジ・オブ・アートの博士課程に在籍し、アクティビスト・アート(activist art)の視覚言語と表現について研究しています。アーティストやギャラリー関係者としてビジュアルアートの世界で働いていた「黒歴史」があるそうですが、現在は過去の自分のやり方を改め、グラフィックデザインの世界に没頭しています。また、クイーンズランド・カレッジ・オブ・アートの講師、デザインスタジオInkahootsのアシスタント、Animal Liberation Queenslandのボランティアも行っています。美しい娘のエルキーに加え、イジーとタリーという2匹の毛むくじゃらの赤ちゃんのママでもあり、そして、世界一忍耐強い男性の妻でもあります。彼女が目指すのは、社会の不公正について伝え、物事に揺さぶりをかけることです。ガブリエラについて詳しくは、こちらをご覧ください。

<ここからガブリエラ・ウィルソン(Gabriella Wilson)による投稿>

先日、博士号取得について湧き上がった不安の渦中で気づいたことは、成功すると保障されていない限り、何に対しても完全にコミットできない自分がいること。ミスなんて、ありえない。完璧さ、万歳!期待に応える人、万歳!まっすぐな一本道の人生、万歳!

タル・ベン・シャハー(Tal ben-Shahar)の著書『The Pursuit of Perfect: How to Stop Chasing Perfection and Start Living a Richer, Happier Life 』(訳書:『最善主義が道を拓く)ポジティブ心理学が明かす、折れない生き方』)は「完璧の追求」などというちょっとベタな原題ですが、私の中では大当たりの本です。どうやら、私は完璧主義者の教科書的な例だったようです。私の場合、幼少期に自己嫌悪と完璧主義を作り出す材料がすべて揃っていました。

その中には、支配的で、批判的で、時には(父の母に対する)暴力のある両親の姿も混じっていました。突発的に精神的虐待も受けました。喪失感と拒絶感、そして長引く恐怖。私の幼少期は、そのような恐怖に満ちていました。父や兄弟に対する恐怖、間違いを犯すことへの潜在的な恐怖。間違い(失敗)は危険でした。人生は危険でした。感情も危険でした。ホントに、完璧主義者の育つ典型的な事例だったのです。

40年余りたった今。博士号取得にまつわる気の滅入るような恐怖は、大人になってから初めて経験した感情ではありません。自分が馬鹿だと信じながらも、同時に、野心的で知的好奇心旺盛に育った結果、博士号取得に取り組むのに興味深い脳内環境が出来上がりました。面倒な人生です。

自分が馬鹿だという証拠は、数え切れないほど突きつけられてきました。学校の成績も良くありませんでした。私がとても好奇心の強い子供であるということに、(80年代だったせいか)誰も気づいていないようでした。好奇心は知的探求に最適の資質です。このパラドックスを忘れないため、私は日刊紙『Courier Mail』に掲載された自分の写真の隣りに小学4年生の成績表を壁に並べて貼っています。写真は90年代半ばの大学助成金削減に対する抗議デモの群集の中にいた私で、自分で書いた「教養ある者こそが自由なのだ-エピクテトス」というプラカードを持っています。エピクテトスの言葉の意義深さを感じたのは17歳の時でした。馬鹿で無価値?そんなことは誰も言い切れないでしょう。

貼ってある成績表には、こう書いてあります。「ガブリエラはもっと良くできるはずです。夢見がちな性格が学習の正確さに影響しています。読む力が足りないことも、学力向上の妨げになっています。」

その通りです。もっと良い成績を収められたはず。でも、私に大丈夫かと声をかけてくれる人がいたか、先生は手を差し伸べてくれたか、と聞かれれば、答えはノー。授業中に夢を見ていたか?もちろん。学校や家で起きていたことよりも、ずっと面白いことをいろいろと空想していました。これは現在の私の最も重要な資質です。夢を見る力、つまり与えられた問題に対して横断的に考える能力は、私の最高の財産なのです。

4年生のときの先生、くそ食らえ。

読むのが苦手なことが「学力向上の妨げ」になっていた?ええ、一時期は。でも今は、(遅いながらも)貪欲な読書家です。あらかじめ決められた宿命などないのです。なぜもっと手を差し伸べてくれなかったのか、いまだに理解できません。出会ったすべての先生を、私がことごとく苛立たせてきたのでしょうか。

そして、今年もまた、失敗の恐怖に襲われながら、完全にコミットしていない自分に気づいたとき、もう二度とごめんだと思いました。本気で、また同じことの繰り返す気なの?そう、わかっていても繰り返してしまう。人生はさらに大変になります。

でもそんな混乱の中、私は、自分が大学院の学位を志した時に「新しい知識に貢献する」ことについて、本当の意味では興味を持っていなかったことに気づきました。私はただただ、カッコいいものを作って、世界をより良い場所にする方法を考え、それについてしぶしぶ書き記そうと思ったのです。自分は多くを学べると思っていたし、それを望んでいたわけですが、「知への独自の貢献」については、あまり深く考えていなかったのです。いやはや。

私は常に片足を扉の外に出してきました。完全にコミットすることがなかったのです。そう、だから教訓その1は、その足を中に入れること。そして最後までやり遂げるという誓いを立てたとき、自分にとっては恐ろしいことなのですが、失敗の可能性を受け入れなければならないことや、人生が不確実で困難で厄介なものであるということに気づきました。博士号を取得できない可能性を受け入れなければならない!?予期せぬ人生の出来事によって、あるいは自分自身の恐怖によって、最後までやり遂げられないかもしれない!?

この現実を拒絶すれば、不安と苦痛の世界がやってきます。もし自分にミスや失敗を許さなければ、「お前に選択肢はない、絶対にこれを達成しなければならない」という内なる声が響くでしょう。「絶対に成し遂げなければならない、そうしなければお前は無価値だ」。パニックは続きます。

以前の私は、この道を下っていきました。何度も。自分はダメ人間だという思いに何度も囚われ、飲んで忘れるということを繰り返していました。でも今は、強い意志でそれに立ち向かっています。

教訓その2は、タル・ベン・シャハル氏が著書の中で提案していることに取り組み、現実や失敗する可能性を受け入れることの実践です。私は博士号を取得できないかもしれませんが、だからといって、価値のない人間だということにはなりません。小4の時の成績表を見ればわかるように、宿命づけられたことなど何もないのです。

この混乱から生じた最後の気づき、地味だけれど最も重要な気づきは、個人としての私の価値を、紙ぺら1枚の博士号などといった外部のものに紐づけると、さらに混乱と不安を引き起こすに違いないということです。博士号は紙ぺら1枚以上のものであることも承知しています。勤勉さ、知的厳密さ、知への重要な貢献です。より良い世界への情熱と憧れの証です。

とは言え、その紙片の獲得が、私がより良い世界に重要な貢献をする存在かを定義するものではない。そして博士号が自分に対する愛や存在価値を決めるものになってしまわないよう、気をつけます。私は、ガブリエラ博士であろうと、単なるガブリエラであろうと、価値ある存在で、愛すべき存在なのです。教訓その3をロックバンドのIdles(アイドルズ)の歌詞から拝借すると、‘If someone talked to you, the way you do to you, I’d put their teeth through. Love yourself.’(仮訳:もし誰かが君に、君が君自身に話す独り言みたいなことを、言ってきたら、その歯を折り散らしてやる。自分を愛せ)。ということです。

私と同じように博士課程の旅路や、人生と呼ばれるものと格闘している人々に、私からも愛を送ります。

(ガブリエラの投稿はここまで)

ガブリエラ、ありがとう。どうでしたか?この記事は、あなたの中の完璧主義者に響きましたか?完璧主義者という獣を箱に戻そうともがいている人々に、あなたからのアドバイスはありますか?

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2019/11/13/13776/

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