生物医学 公表された論文の4%に画像の複製あり

スタンフォード大学の微生物学者エリザベス・ビクらは、1995年から2014年までの間に生物医学分野のジャーナル40誌で公表された論文、合計2万621本を2年間かけて調べました。彼女らの目的は、同じ論文のなかで、別の実験結果を示しているはずなのに同じ画像が使われていないかどうかを探すことでした。
ビクは画像の複製(使い回し)を見つけると、2人の同僚にクロスチェックさせました。2人とも微生物学者です。
その結果、全体のうち3.8%に、そのような画像の複製が含まれることがわかりました。しかし画像の複製があっても、研究不正とは限りません。単なるミスである可能性もあります。ビクらは画像を精査した結果、「少なくとも半分は、意図的な操作を思わせる特徴を示している」と主張しています。
しかしその比率はジャーナルによって異なるようです。たとえば『国際腫瘍学ジャーナル(International Journal of Oncology)』に掲載された論文では12%でしたが、『細胞生物学ジャーナル(Journal of Cell Biology)』では0.3%でした。『細胞生物学ジャーナル』では2002年以来、採択した論文の画像を、出版する前に体系的に検査するようになったといいます。
また問題のある画像を含む論文の比率は、この10年で著しく増えていることもわかりました。さらにインパクトファクターが高いジャーナルは、一般的にいって、画像の複製がある比率が低い傾向があることもわかりました。
ビクらは、

問題のある画像複製の頻度がジャーナルによって著しく違うということは、たとえば公表前に画像を検査するといった、ジャーナルにおける実践行為が科学文献の質に影響していることを示唆する。

とまとめています。彼女らの調査結果は生物医学分野のプレプリントサーバー『bioRxiv』に投稿された段階で『ネイチャー・ニュース』で報じられた後、2016年6月7日、オープンアクセスジャーナル『mBio』に掲載されました。
一方で、この調査には限界もあります。この調査は、同じ画像が同じ論文のなかで使い回されているどうかを調べたのですが、同じ画像が別の論文に使い回されているかどうかを調べてはいないからです。
この調査結果を伝えた『ネイチャー・ニュース』によれば、ビクは、画像の複製が見つかった論文すべてについて、そのことをそれぞれのジャーナルに報告したところ、これまでに62件の訂正と6件の撤回があったといいます。
「フォトショップ」のような画像加工ソフトが普及して以来、既存の画像に手を入れて使い回すことによって実験結果をでっち上げるような研究不正は、誰にでもできるようになってしまいました。『細胞生物学ジャーナル』のように、査読の結果、たとえ採択を決めた論文であっても画像をチェックするという体制を、すべてのジャーナルが整える必要があるかもしれません。


ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

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