カンファレンス・学会スモールトーク(雑談)のコツ

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は学会やカンファレンスなどで講演者・登壇者や参加者とちょっとした話(スモールトーク)を始めたいときに使えそうなお話です。初対面の人や、よく知らない人にどう話しかけたらいいのか、何を話せばいいのか分らないという方は必読です。


もともと、この記事はネット上の言葉を研究している言語学者グレッチェン・マクロック(Gretchen McCulloch)が公開しているブログサイト「All things Linguistic」に掲載されたものです。カナダのマギル大学で言語学を専攻する大学院生の頃からブログを始めたグレッチェンは、軽妙な発言をする言語学者として言語学と専門外の人との架け橋役となっています。ウェブメディア、YouTubeなど多様な媒体に言語学に関する読みやすい記事を書いており、ペンギン・ランダムハウス社からインターネット言語に関する本『Because Internet』も出ています。また、同じくネット言語に関心のあるローレン・ガウネ(Lauren Gawne)のブログ「Superlinguo」と熱烈な言語学トークを展開するポッドキャスト「Lingthusiasm」を共同で発信しています。グレッチェンのスモールトーク(雑談)に関する投稿が素晴らしかったので、「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」読者にも是非読んでもらいたいと思い、再投稿していいかどうか訊ねてみました。

この記事では、カンファレンスの講演者とスモールトークをするという厄介なテーマを取り上げています。私もこの題目で書いてみようと思っていたものの、実現しなかったので、グレッチェンのより素晴らしい投稿を見つけて嬉しくなりました。カンファレンスにゲストスピーカーとして定期的に参加している私は、朝お茶を飲んでいるときに多くの人からの視線を感じますが、誰も話しかけて来てはくれないので、意外と孤独を感じているのです。講演者を孤独から救ってください。この記事を読んで、勇気を出して会話を始めてみてください。私のことを信じて話しかけてくれれば、きっと感謝されるはずです。

*「研究室の荒波にもまれて」に転載されて以降もグレッチェンのブログには記載が書き加えられています(Updateはこちら)。ご興味がある方は是非原文をご覧ください。

***以下、グレッチェン・マクロックのブログ記事より***

カンファレンスであれ、会議であれ、招待講演であれ、話し終えたばかりの人とスモールトーク(雑談)をするのは、誰にとっても、特に学生やキャリアの浅い研究者にしてみれば気が引けるものです。でも反対に、長い時間を業界で過ごしてきた一員として言わせてもらえれば、自分が講演者のときには心の底から近づいて来て欲しい、話しかけてもらいたいと思っているのです。そこで、このコラムでは尻込みするあなたにスモールトークを始めるためのとっかかりと、何を話せば良いかを伝授します。

覚えておきたいのは、たいていの場合、相手がこちらについて知っている以上に自分は相手のことをよく知っているという点です。なので、こちらから会話を始めて、話題を提供する必要があります。

講演の前でも、講演者の名前と抄録(講演要旨)は案内メールや抄録冊子に載っていますし、講演の後なら20分から1時間ほどかけて講演者が関心を持っていることについて話を聞いているわけです。コースや連続講座なら、開催期間中、その演者の話を聞く時間を持てるはずです。講演者について検索したことがあるとか、論文を読んだとか、自分の分野における有名人であるとか、たまたま話を聞いてみたら面白かったとか―話したい動機はいろいろあると思います。講演者について何かを知っているからこそ、興味が湧いているはずです。

一方で、講演者はその場に集まっている人たち(カンファレンスの聴衆)の名前をまったく知らないかもしれないし、招待講演だったとしても一人か二人のファシリテーターを知っている程度かもしれません。万一その場に話を聞きに来た参加者の半分と顔見知りだったとしても、講演者があなたのことを知らないのであれば、わざわざ話しかけてくれることはないでしょう。たとえ講演者が聴衆と交流を図りたいと思っていたにしても(おそらくそう思っていると思いますが)、見ず知らずの人とスモールトークをするために思いつくのは、昔から学術関係者にお馴染みの「それで、あなたの研究テーマは?」とか「あなたは学生?」「で、あなたの出身は?」(学者の世界ではこの質問は「どこの大学の所属または卒業?」という意味であって「どこで育ったの?」という意味ではないので注意してください)といった、ごくごく一般的な質問がせいぜいでしょう。

【一言アドバイス】もしあなたがカンファレンスに参加するのが初めてながら、どんな相手とのコミュニケーションも対応できる言語学者のように見られたいのであれば、「あなたは何の研究をしているのですか?」という質問に対する答えをあらかじめ準備しておくとよいでしょう。「○○語における××について研究しています」と短く答えても構いませんが、「○○語における△△のような構文を研究しています。人に何か問いかけたとき、その人は得てしてあなたが予想しているような答え方をしませんよね。」など30秒で、相手の興味を引くような話題を提供できるようにしておくと一層会話が始めやすくなります。こうしたとっかかりに興味を持ってもらえれば、何か質問してくれる余地も生まれます。逆に、相手から「○○語における××です」といった答えが返ってきたときは、「それはどういったものですか?」「どのようなことか例をあげて話してもらえますか?」「あなたの研究の結果、どのようなことが分ったのですか?」といった質問をして会話をつなぐのも良いでしょう。

「何を研究しているのですか?」という質問は、受付やコーヒーカウンター、ビュッフェの列などでアカデミックな話を始めるとっかかりとしては無難ですが、講演の後では使えません。その人が何の研究に取り組んでいるのか聞いた直後にそれを訊ねることはできませんよね。黙ったままそわそわしていれば、相手から話しかけてくれるかもしれませんが、その前に講演者との会話を心得ている人が相手に話しかけてしまうかもしれません。もちろん、その講演者に興味がなければ話しかけずにその場を離れてもいいのですが、興味があるのであれば、黙ってウロウロしているよりもっといい選択肢があるはずです。いくつか紹介しましょう。

質疑応答とは異なり、講演者のところへ行って話をするときには、講演内容について堅苦しい「質問」をする必要はありません。代わりに、自分と講演者が共有する関心事や関連がある会話をどのように始めるかということに思いを巡らせましょう。このとき、なぜ話をしに来たのか、それから何を得たのかについて考えておくことは有効な策です。以下に挙げてみます。

  • 講演者の特定の論文やその他の活動に関心がある。(前もって知っていれば、具体的なコメントや質問を準備する時間を持てます。)
  • 講演者の研究に関連することをやっている、あるいはやろうと思っている。
  • 具体的なアドバイスを求めている。(「どうしたらあなたのようになれるでしょうか?」を聞くのではなく、「目標達成のためにXとYをしたのですが、次に何をすればいいでしょうか?」と言うように具体的に聞きます。ネットなどで簡単に検索して分るようなことは聞かないようにします。)
  • 他のフレームワークを用いて、あるいは他の言語の研究を行っており、講演者の研究が自分の研究とどのように関連するかを話したいと思っている。
  • 講演者の研究に関係する研究やデータについて知見がある。 (そのことについて「なぜその論文を引用しなかったのか」と非難するのではなく、むしろ「あなたの研究に役立つかもしれない論文があります」と示唆するようにします。)
  • 講演内容で面白いと思ったこと、あるいは分らなかったことについてもう少し教えてもらいたい。(「もう講演内容を詳しく説明してください」とお願いするのではなく「スライド17で話された箇所について伺わせてください」と具体的に聞いてください。このときに、「ここでは詳しく説明しませんが、後ほど遠慮なく聞いてください。」と言われたら機会を逃さないようにしましょう。)
  • 講演者の以前の指導教官や大学院時代の知人らと一緒に仕事をしているなど、共通の知人がいる。(「○○博士と一緒に研究をしているのでご挨拶させていただきたいと思って・・・」というのはひとつのきっかけです。そこから会話を広げるためには、上述のトピックのどれかを活用してください。)

講演者のところに行って、自分も同じような分野での研究を行っていると言うのは、自己アピールのように感じられるかもしれませんが、いきなり詳細な質問に踏み込まなければ、素晴らしいアプローチです。まずは簡単な話から始めて、興味を惹くようなことを聞くようにします。一方、講演をすることは人脈作りへの近道でもあります。共通の興味を持っている人の講演を聞くために会場に集まった人たちと個別の会話を持つ機会とすることができますし、講演を行うことで、自分の研究に関心のある人に認識してもらい、後日その人から連絡をもらうこともできます。(話をすることは、本能的に難しいとしても、内向的で人付き合いが苦手な人には最適な策です! 自分の役割を明白に認識できるとともに、あなたが興味を持っていることについて話したいと思う多くの人と出会うことができるでしょう。)

例えば、私はインターネット言語や社会への広がりについて研究を行っている人たちの話を聞きたいと常々思っていますが、分裂能格(訳者注:言語における能格構文と対格構文の使い分け)やバントゥー語群(訳者注:アフリカの広い範囲で話されている一群の言語)やその他のことについて共通の関心を持っている講演者と話す場合にも同じことが言えます。とは言っても、どのような種類のカンファレンスに参加しているかに合わせて調整する必要はあります。大きな社会音声学のカンファレンスに参加している場合は、小さな一般招待講演とはちがって、講演者のもとへ行って「ここにいるみなさんと同じく私も社会音声学者です」と言ってもあまり興味を持ってもらえません。

Twitterなどから拾った情報も織り交ぜながら、ここではより一般的なコツを紹介します。

  • 対話の相手を踏まえたコミュニケーションのプロというより、熱烈な支持者のひとりだと思われるのでは―と心配している場合は、幾つかの質問やコメントをあらかじめ用意しておくのが良いでしょう。
  • 時に支持者(ファン)として見られることに甘んじている私としては、それも良いじゃないと思うこともありますが、常にどう対処したらよいか分っているわけではありません。「ありがとう、同感です。私って素晴らしい。」と自画自賛するより、実際の会話ができるようになれれば御の字です。大抵の場合、「興味深いお話でした」と話しかけてからもっと具体的な話に進めるのが無難でしょう。
  • あなたは自分の関心事はもとより、私の関心事もご存じでしょう。私は自分のことしか分っていませんが、お互いの興味が一致するか教えてください。そうすれば私たちはそのことについて話をすることができます。 (「Xについてのあなたの考察は本当に面白かったです。というのも私はYに取り組んでいまして、Zが私たち双方にとって有益な手法であると思うからです/私たちの研究にはWという共通点があります/この部分をどのように論じられるのか思い巡らせていました。」などのように話をつなげていくことができます。)
  • 有名な教授になっても、社交下手が直るわけではありません。そうした人たちはあなたを嫌っているわけではありません。むしろ、ほとんどの教授にとって、類似研究に取り組む新進気鋭の研究者を指導することは、この仕事の醍醐味でもあるのです。
  • 講演者もかつては学生で、気後れした経験があると思ってください。また、学生だったころから時が経てば経つほど、そこに至るまでの間にかかわった学生の数は多くなります。あなたがすでにすべてを把握しているとは思っていませんが、あなたが講演者と何を話したいのか知りたいと思っても、心が読めるわけではありません。あなたから最初の一歩を踏み出さなければ、話は進みません。
  • あなたが講演者の名前を知っていても、講演者はあなたを知らないというのが一般的です。話しかけようか悩むのであれば(特に参加者が名札をつけていない会議や招待講演の場では)自由に自己紹介したり、会話に参加している知り合いを紹介したりしてください。

さらに、会話を始めた後についてもアドバイスを書き出しておきます。

  • 周囲の人や相手の関心度合いにも注意を払いましょう。講演者と会話を持てるのは素晴らしいことですが、他の人も同じように話をしたいと思っています。
  • 講演者と話したいと思っている人が大勢いる場合は、延々と自分の話したいことを述べるのではなく、手短にコメントするか、数人で話すようにします。
  • 講演が終わった直後で、登壇者が水や軽食、コーヒーなどを摂る時間がなかった場合には、飲食物のある場所に一緒に向かうように声がけするなど、状況に応じた配慮をするようにしてください。
  • 自分の研究について話すときは、自虐的にならないようにしましょう(「私はXに取り組んでいますが、あなたのように素晴らしい研究ではありません」など)。その時点で研究がうまく進んでいなかったとしても、開始当初には「これは面白いからやってみよう」と思った理由があるはずです。そのときの気持ちを見直してみてください。
  • ディナーテーブルで講演者の隣りの席になれたら、立食形式のレセプションや講演者が別会場だったりする場合より長く話せる機会ができたことに感謝しましょう。
  • どのような会話でも、相手が退屈していないか、他のことに気を取られていないかに気を配りましょう。相手に会話を終わらせて立ち去りたいと思われるより、もっと長く話したいと思われるようにしましょう。
  • 相手のアドバイスは受け入れましょう。その人から以前アドバイスを受けたことがあるなら、再会したとき言うべきは「アドバイスを受けましたが何もしませんでした」ではなく、「勧めていただいた論文を読んだところ論点がはっきりしました。とても助かりました。」「関連したと言い切れない部分もありましたが、別の素晴らしい論文に行き着くことができました。」などと話せるようにしておきます。

自分が講演者でも聴衆でも、ぜひスモールトークから会話を広げてみてください。

原文を読む: https://thesiswhisperer.com/2017/08/30/8424/

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