論文の構成要素 – イントロダクション

論文のイントロダクションは、本文の最初の部分であり、論文全体の内容を理解するために必要とされる予備知識を提供する部分です。個別のセクションに区切られる論文であれば、イントロダクションは「Introduction」という見出しの一つのセクションになることが一般的です。
イントロダクションが果たす主な役割には以下の項目があります。
(i) 論文の背景を示します。つまり、当研究が、どの分野に分類されるのか、そしてその分野においてどこに位置付けられるかを明確にします。
(ii) 研究の動機を述べます。要するに、なぜこの研究を行う意味があるかを説明するのです。
(iii) 研究の目標を示します。つまり、今回の研究でどのような進展を目指しているかを明らかにします。
(iv) 研究法を簡潔に記述します。具体的には、目標を達成するためにどのような方法によって解を与えようとするかを概説します。
(v) 結果を簡潔に述べます。
(vi) 結果の重要性を手短に論じます。特に、この結果が研究分野の進展にどのように貢献するかを明らかにします。
概して、これらの項目の記載順は上の通りになります。以下にそれぞれの役割について、もう少し細かく説明します。
(i) <論文の背景> 論文の主題に関連する先行研究を要約し、当該研究分野の現状を記述します。そして、論文で報告される研究が、その分野においてどのような意味があるかを説明し、分野における研究の位置付けを明らかにします。こうした背景をどこまで詳細に記述するかは、ターゲット・オーディエンス(読者)によって異なります。論文が、専門分野に特化したジャーナルに掲載されるのであれば、その分野の知識を有する専門家に向けた説明で十分ですが、幅広い読者をターゲットにしたジャーナルであれば、背景をより細かく述べる必要があります。
(ii) <研究の動機付け> 一般的に、研究の動機となることは該当する研究分野における未解決の問題を解決しようとすることです。その問題を指摘することによって、それぞれの研究の背景と研究の動機についてのディスカッションをつなぐことができます。問題を指摘してから、問題の解決が研究分野においていかに重要なのかを説明(アピール)します。
(iii) <研究の目標> 研究分野における未解決問題を解くことが動機ではありますが、場合によってはその問題を完全に解決することが現実的に不可能なこともあります。その場合には、取りあえずの目標として動機付けとなっている問題の解決に向けて何らかの進展を目指すこともあります。動機付けとなる問題の解決を「大きな」目標とすれば、論文で目指すのはその目標への一歩となる「小さな」目標であることを明らかにします。この場合、特にその小さな目標に着目する理由も述べておくべきです。
(iv) <研究法> 研究法についての本来の議論は「本論」で行うものですが、イントロダクションでもその要点を述べる必要があります。まず、研究が理論、実験、観測、数値計算、データ解析、調査、臨床試験などのいずれの手法で進められるのかを明らかにし、それから個々の手法において具体的にどのようなアプローチをとっているかを述べます。また、当研究におけるアプローチと従来のアプローチを比較し、従来法が不十分だったのに対し、当研究の手法が成功につながる方法である理由を説明します。アプローチの比較では、今回の研究法の特徴や独創性を強調すべきです。
(v) <結果> 目標に対する結果を描写し、目標を達成したかどうかを明らかにします。また、その他の重要な結果を得た場合はそれも描写します。
(vi) <結果の重要性> 結果の重要性についての議論は、主にコンクルージョンで行いますが、イントロダクションでもその核心を示しておくべきです。イントロダクションでは、目標とする結果を得ることが、知識を拡充・深化させるためにどのように役立つか、大きな目標の達成に向けどのように寄与するかを簡潔に説明すればよいでしょう。
上述のように、イントロダクションは論文の背景および目標を明確にするとともに、読者の関心を引き付ける役割も果たします。
*次回は「本論」の構成についてお伝えします。


Dr. Paquette

グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。

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