第5回 ここにも!カラーユニバーサルデザインの実用化例 

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズです。


21世紀に入ってから十数年の間に、日本の社会や身の回りにCUDに配慮した「もの」や「方法」が着実に増えてきました。そのような例を見てみましょう。「あっ!あれは」というものがあるのではないでしょうか。

    1. 地下鉄の表示が変わりました

例えば東京の地下鉄は13路線あり、その路線図や案内板は一般色覚型のC型の人にとっても見づらいものです。その地下鉄構内の路線や駅名の案内表示は、以前は文字と色記号だけで表示されていましたが、2005年頃から色記号のなかにローマ字や数字が追加されました(図5-1)。これにより、P型、D型などの人にも素早く情報が伝わるようになりました。日常生活に大きな影響を与える交通関係では、その他に信号機や各種公共案内、地図、カーナビゲーションなどにおいてCUDに配慮した、多くの人に見やすいものが増えています。

図5-1 地下鉄の案内表示[左:以前の状態を再現し、色弱者の見え方をシミュレーションしたもの、右:ローマ字が追加された現在の表示](CUDOおよびハート出版より許可を得て転載)

 

  • 文房具、洋服、リモコン・・

 

何気なく手にした文房具のラベルや洋服のタグに、「くろ」や「あか」などの色名が書いてあるのを見たことがあるのではないでしょうか。これもCUDへの配慮の一環です。P型、D型などの色覚をもつ子供は、クレヨンや絵の具の色がわからず、困ることがあります。大人になっても、洋服の色選びに困ったり、リモコンのボタンの色がわからないことなどがあります。それらの不便は、製品に色名を表示したり(図5-2)、ボタンの横に色名を表示することで格段に軽減されます。普段何気なく使っている複合機(コピー機)にも、現在ではほとんどCUDに配慮したボタンや機能が搭載されています。

図5-2 サインペンの色名表示[左:色名表示例、右:P型色覚のシミュレーション(Vischeck使用)。色名表示により見分けがつく]

 

  • 情報発信ツールにも変革のうねりが

 

広く知られている画像処理ソフトウェアにアドビシステムズ社のPhotoshopとIllustratorがあります。これら2つのソフトウェアには、2008年から、色弱の人が見分けにくい色をシミュレーションする機能が各国語版すべてに標準搭載されています。PhotoshopとIllustratorのユーザーであっても、この機能を知らない人は多いのではないでしょうか。CUDOをはじめ日本の研究者の関与により、世界的に高いシェアをもつソフトウェアにカラーユニバーサルデザイン機能が標準搭載されたことは画期的です。ユーザーの方は、ぜひ一度その機能を試してみましょう。このような、情報発信ツールの改革を背景に、日本の多くの企業や自治体などが、情報発信媒体である印刷物やウェブサイトにおける色使いに幅広くCUDを導入し始めています。

 

  • 津波警報が誰にも見やすくなりました

 

従来の津波警報は、色分けがわかりづらいことと、テレビ各局で色使いが異なるという問題がありましたが、2011年中旬から多くの色覚型の人に見分けやすい配色を用いた速報システムに移行しています(http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/color/tsunami/)。危機管理に関連して、その他に病院内の案内表示や、自治体の防災マップなどにもCUDが導入されています。現在ではCUDに関するガイドラインを策定している自治体も多くあります。ここで強調しておきたいのは、CUDに配慮すると色弱者のみならず、一般色覚型の人にとっても「もの」や「こと」がわかりやすくなるということです。


参考資料:
カラーユニバーサルデザイン機構(2009)『カラーユニバーサルデザイン』ハート出版
東京大学 分子細胞生物学研究所 脳神経回路研究分野研究室ウェブサイト内 ヒトの色覚

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