論文執筆用の第二の脳をつくる

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー(Inger Mewburn)教授のお役立ち情報コラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回のテーマは、情報整理術。教授の「第二の脳」を大解剖します。


本題の前に、ビッグニュースです!長く読んでくださっている皆さんは、私が ANU のチームPostAc という機械学習を利用した研究者のための求人検索エンジンの開発に何年も取り組んできたことをご存知かと思います。

オーストラリアでは7校にサービスを提供していますが、国際的な拡大を目指しています。まもなくイギリスの大学でもPostAcの注文の受付を開始予定です。とリリースの最新情報はこちらに登録してご確認ください。

さて、本題です!

私はアカデミックな仕事用のノートの取り方の問題に取り憑かれています。この問題については、このブログでもこちらの記事でお伝えしてきました。友人のジェイソンとは、Podcast On The Regで何度もこの問題について話しています。特に、この回この回、直近ではこの回です。

私は、SNSと本を買うクセのおかげで、情報を溜め込んでしまうという問題を抱えています。ハードディスクには見ることのない情報が満載で、美しいオフィスには本がたくさん並んでいますが、ほとんどはまだ読んでいません。

 

もっと情報が必要だと感じながら、すでに持っている情報に圧倒されています。21世紀特有の奇妙な(非常に特権的でもある)不安の形です…これをお読みの皆さんの中にも共感される方もいるでしょう。確かに、私が最近投稿したノート術に関する記事「研究者のための用途別メモ・ノートアプリ、データベース活用法」の後、多くの人が私にメールをくれました。記事では、私はすべての情報を整理することができないと認め、こう結論づけました。「私ができるアドバイスといえば、『完璧なシステム』を持たなければならないという強迫観念を捨て、自分にとって役立つソリューションを開発することです。」。

でも、ティアゴ・フォルテの「 ‘Building a second brain: a proven method to organise your digital life and unlock your creative potential’ (第二の脳をつくる:デジタルライフを整理し、創造力を引き出す実証済みの方法)」を読んで、この発言を撤回しなければならないかもと思い始めました。何冊も駄作を買ってしまった経験から、この本もあまり期待せずに買いましたが、「Building a Second Brain」(BASB)は非常に役立ちました。もう情報の滝に溺れることなく、情報の恩恵を受けとめられるようになってきたのです。

フォルテのBASBはシステムではなく、デジタル情報管理の理論であり、自分の好きなように適用することができます。BASBは批判するための理論ではなく、自信を持つための理論です。フォルテが提示するのは具体的な解決策ではなく、問題を解決するための考え方です。BASBを2回に分けて読み、その後1週間かけて自分のシステムを見直しました。それが3週間前のことですが、すべてが……良くなっています。まるで情報デトックスをしたような気分です。ウェルネスインフルエンサーみたいに、自分のポジティブな人生の変化に興奮していて、みんなと共有したい気分です。

BASBについては、友人のジェイソン・ダウンズ(Jason Downs)とOn The Regの最新エピソードで話しました。また、11月11日には、この原則に基づいた1日ワークショップを開催します。ANUの職員と学生は予約できます(すみません、こちらはANU生限定です)。

私の情報デトックスを紹介しようと思うのですが、時間がない人はこの記事の続きを読まなくてもいいから、私を信じてBASBを買って読んでみてください。簡単で、ちょっぴりオタクっぽい楽しい本です。

読み続けてくださる方たち(歓迎します!)にお伝えしておきますが、この記事の残りの部分では、私が以前の記事(研究者のための用途別メモ・ノートアプリ、データベース活用法)で解説したノートテイキングシステムへの変更点について詳しく見ていきます。

同書には情報が盛りだくさんですが、私が最も参考になったのは下記の2つの原則です。

1)CODE情報処理システム

CODEとはCapture(把捉:残すべきものを決める)、Organise(整理:再び見つけられるように体系的に保管する)、Distill(蒸留:情報から意味や洞察を導き出す)、Express(表現:情報を使って何かを作る)の頭文字をとった呼称です。このフローを実施のためには、どんなツールを使ってもかまいません。

2)PARA

CODEの“Organise”を促進するために、P4つの分類からなるファイリング戦略が提案されています。Project(成果物を生み出すもの)、Areas(授業の準備や税申告など明確な終点がなく進行管理が必要なもの)、Resources(仕事に役立つもの)、Archive(さしあたって必要ないもの)。

フォルテによれば、好きなところから始めていいということで、まず自分のウェブページのコレクションを見ることから始めました。普段TwitterやReederのアプリで面白いものをたくさん閲覧しています。私は一般向けのライター・放送作家なので、私が興味を持ちそうなことを知っている方たちがよくメールやDMでリンクを送ってくれます(お心遣い感謝します!)。

何年もの間、私はこういったあらゆるデジタルの「もの」を保存するために、ブックマークサービスのPocketを利用してきました。

Pocketは、ウェブブラウザや携帯電話にウィジェットが組み込まれているので、CODEの“C”(把捉)には最適です。しかし、BASBの、“O:整理、D:蒸留、E:表現”の部分には向いていないことに気づきました。今までの私の情報検索は、何かを見たことを漠然と覚えていて、それをもう一度見つけられるかどうか、Pocketの中で検索するというものでした。しばらくはうまくいっていたのですが、何千何万というブックマークがある今、Pocketでの検索は格段に精度が落ちています。また、私は読まずにPocketに詰め込む悪い癖があるので、検索の精度は日々悪化しています。

私は、Pocketの役割を“C:把捉”にとどめ、別のシステムでO:整理とD:蒸留を行うことにしました。幸いなことに、私はこれらの作業に適したシステムをすでに2つ持っていました。

1) Evernoteのデータベース(悲しいかな、放置されたままでした)

2)Bullet Journal:手書きでメモをするためのシステム

Evernoteは10年使っていますが、BASBのおかげで、自分のEvernoteデータベースが、ぐちゃぐちゃで、検索に役立たない100個の変なタグ付けがされていることに気づかされました。勇気を持ってすべてを削除し、PARAシステムに対応する4つのノートだけを作って再出発しました。そして、Pocketや他のソースから情報を転送し始めました。

現状の情報の流れはこのようになっています。

ご覧のように、情報はPocket、Zotero、そしてBullet Journalから入ってきます。Evernoteにすべての情報を集約して、執筆で出ていく情報との間のインターフェースとして活用するようになりました。

私はEvernoteを使って情報をDistill(蒸留)、つまり「凝縮」しています。Distillとは、大量の情報を小さく有用な一口サイズに切り分けることです。フォルテはこのプロセスを、昔ながらの「備忘録」に例えています。備忘録とは、他の人が書いた文章の断片を集めたスクラップブックのようなもので、そこに自分なりの要約やアイデアを追加していきます。私もEvernoteに記事全体を取り込む代わりに、ウェブページやレファレンス・マネージャの雑誌記事から小さな部分を切り抜いています。一度に取り込むのは、多くても250ワードまでと決めています。そのため、同じ記事や論文をEvernoteのデータベースには7、8種類の異なるメモとして残すことになりますが、すべてのメモが出典にリンクされているので、全体像を見失うことはありません。

このように、Evernoteは「第二の脳」になってくれるのです。情報や疑問への答えが必要なとき、Googleではなく、まずここで検索するのです。この方法が自由奔放なアカデミックライターである私に上手く機能したように、博士課程の学生にも同じように機能するはずです。

書くという作業は、アイデアとアイデアのつながりを作ることから始まります。RoamObsidianには強力な「ソーシャルグラフ」機能があり、Evernoteには「検索」と「タグ」があります。フォルテはタグの使用は控えめにすることをすすめており、検索を行った後に、特定の目的のために関連する情報のグループを「束ねる」目的でタグを適用することを提案しています。人間は視覚的な生き物であるため、テキストの色や大きさ、形などに変化があれば、混沌とした中にもパターンを見出せる、というのがフォルテの指摘で、「プログレッシブハイライト」というテクニックを提唱しています。これは、メモの中の最も重要な情報のみを選び出してマーカーを引くというものです。

そこで私も、メモの中で最も興味深い部分だけに蛍光ペンを使うようにしました。そうすれば、後で見たときに、なぜそのメモを残したのかがすぐに分かります。

私がどのようにプログレッシブハイライトシステムを文献ノートに活用しているかは、ここで公開しています。

とは言え、私のシステムは完全にデジタルというわけではありません。読んだことを手書きでBullet Journal(#bujo)にメモするのも好きです。書いたページを写真に撮るだけで、Evernoteの文字認識(OCR)を使えば、乱雑な手書き文字も検索で見つけることができるんです。でも、この作業は二度手間になるので、#bujoの素晴らしい機能であるインデックスに頼っています。

Bullet Journalはそれ自体がひとつのシステムですが、普通のノートとの決定的な違いは、書き始める前に各ページに番号をふることです(私のようにズボラな人は、あらかじめページがふられたノートを購入することもできます)。このページ番号によって、ノートに書き込んでいくにつれ、ノートの一番初めのインデックスが更新されていくのです。以前はノートを埋めても、それっきり見直すことはありませんでしたが、インデックスのおかげで激変しました。そしてオタクな私は、個々の#bujosのインデックスをすべて包括する「マスターインデックス」ブックまで作り始めたのです。

 

今ではインデックスを写真に撮ってポンと入れるだけです。探しているトピックが#bujoの索引にあれば、Evernoteの検索に表示されます。そのノートが役に立ちそうなら、そこから#bujoを取り出せばいいのです。OCRは、書籍の中身を写した写真の文字も認識するので、古い印刷物を扱う場合はスマホをブックスキャナーとして使うこともできます。

 

といった具合に、膨大なPocketの中身を少しずつ整理すると同時に、毎日新しいものを追加しています。「Distill(情報から意味や洞察を抽出すること)」は大変ですが、実りのある必要な作業です。有益な情報の断片を切り取ることは私にとって癒しであり、刺激にもなります。創造的なアイデアが湧き上がって「第一の脳」に達し、自分の集めたデジタルデータを冷静に支配している感覚を味わうことができるのです。

締め切り間近の原稿に追われることもありますが、すでに第二の脳が助けてくれています。時間が経てば経つほど便利になると確信しています。この記事がみなさんのお役に立てれば幸いです。みなさんのデジタル資料の管理方法にも興味があります。Twitter@thesiswhispererが手っ取り早いですが、Eメールでも情報をお寄せください。

インガーより

原文を読む:The Thesis Whisperer

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