論文執筆の傾向は4タイプに分類できる?

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、論文執筆の傾向を分析するという試みです。インガー教授の傾向分析が執筆スランプを回避するヒントになりますように!


恥ずかしいカミングアウトですが、私は自己啓発本が大好きです。特に空港の書店で見つけると、ついつい手にとってしまいます。いつも自己啓発本コーナーで自然に足が止まり、持ち帰っても家に置く場所がないペーパーバックを2冊握りしめて飛行機に搭乗します。最近ひそかに購入した本は、グレッチェン・ルービン(Gretchen Rubin)の『苦手な人を思い通りに動かす』です。店頭でドヤ顔で手に取り、「ああ、なんて非科学的。」なんて心の中で嘲笑しながら読み始めました。何ページかめくって、「うわー、この馬鹿っぽいクイズ!」とつぶやきながら。

でも、買ってしまうんです(批判しないでね)。

南オーストラリア大学への往復の機内で読了して、驚きました。ルービンの(ほとんど非科学的な)理論を簡単に説明すると、人間のモチベーションは4つのカテゴリーに分類されるという話です。

  1. オブライジャー(指示待ちタイプ):周囲の期待に応え、自分の期待に逆らう。
  2. レブル(わがままタイプ):周囲の期待に抵抗し、自分の期待にも逆らう。
  3. クエスチョナー(変人タイプ):周囲の期待に抵抗し、自分の期待に応える。
  4. アップホルダー(堅物タイプ):内なる期待、外なる期待両方に応える。

ルービンの“理論”と呼ぶものによれば、これらの傾向は重複していることもあり、レブル的な傾向を持つオブライジャーや、クエスチョナー的な傾向を持つアップホルダーにもなり得るといいいます。その重なりを下図で表現しています。

グレッチェン・ルービンの4つの傾向の図

ルービンの“研究”によると、ほとんどの人は「オブライジャー(指示待ちタイプ)」であり、自分のためだけに物事を行うのは難しいそうです。もしあなたが、運動仲間がいないとジムに行くのが続かないタイプなら、オブライジャーだそうです。それに対して、「アップホルダー(堅物タイプ)」は、運動仲間に誘われることを喜びつつも、健康に良いとわかっているので、自分ひとりでジムに行くこともできる人です。一方、クエスチョナー(変人タイプ)は、自分の中の期待にしか応えられないので、運動仲間には向いていません。クエスチョナーは、誰かを喜ばせるためだけに、寒い朝からジムには行きません。一方、かわいそうなレブル(わがままタイプ)は、ジムに行きたかったとしても、すべての期待に、自分の期待にさえ逆らいます。レブルは誰かとジムに行く約束をした途端に気が変わり、周囲を(そして自分自身を)困らせ、姿を現さないでしょう。

最初に4つの傾向の説明を読んだとき、私はすぐに自分をアップホルダーに分類しました。いかにもしっかり者のように聞こえたからです。しかし、オンラインテスト(英語)をやってみると、驚いたことに、私はクエスチョナーであると判明しました。ルービンは、クエスチョナーについて、「もしあなたの“4つの傾向”に対する最初に反応が、『いや、こんな分類テキトーでしょ』だったなら、あなたはおそらくクエスチョナーでしょう」と述べています。

確かに、ここは一本取られました。でも、私は研究者です。生活のために日々、物事に疑問を抱いているのです。

この本を否定したいと思うほど、納得せざるを得ない指摘がありました。クエスチョナーの強み(データ駆動型、公正な思考、悪魔の代弁者を演じることをいとわない、システムに逆らうことを好む)と弱み(権威を受け入れたがらない、分析まひ、他人が解決済みと判断した問題でも終結を受け入れたがらない)のリストを読んだとき、自分自身を現実的な光に照らして見ているように感じました。

ルービンの分類は、誰にでも適用できるという点で、星座占いのようなものなのでしょうか?そうかもしれません。でも、本を読んだ次の週からこの分類が博士学生の論文執筆にどのように適用できるかを考えるようになりました。不本意ながら、この4つの傾向の分類は魅力的に思えてきました。私が長年博士課程の学生と接してきた中で観察された行動パターンをうまく説明してくれるように思えるのです。

そこで、あまり深く考えずに、この分類がみなさんにとって役に立つかどうか、アイデアで遊んでみました。以下の説明を読んでみてください。あなたが共鳴するものがありますか?

オブライジャー

オブライジャーは、内的な期待ではなく外的な期待に応えやすいため、博士号取得のプロセスに決まった枠組みがないことに苦労します。厳しい指導教員を持たない人文科学の学生は、おそらくたくさん本は読むでしょうが、あまり執筆は進みません。理系のオブライジャーは初期の段階では、たいていうまくいきます。なぜなら、研究室では、機器の使用予約をすること、使用期限内に材料を使うことなど、多くの外的な期待を課せられているからです。しかし、書くという作業になると、理系学生のオブライジャーは失速しがちです。

オブライジャーは執筆の進捗に軽いパニックを感じながらも、メールやSNSに膨大な時間を費やすことで、その気持ちを押し殺せてしまいます。セミナー、執筆グループ、講義などの研究室のあれこれや、上司や同僚のための雑務などにどっぷり入り込む人がほとんどでしょう。必要な作業ように感じられるこのような活動が、実際には必要でないことも知っています。責任感の強い人は、他の人がイベントの企画を自分に任せっきりなことに憤りを感じつつも、断りきれないのです。しかし、修了要件の確認やクロージングセミナーなど、数少ない締め切り日が近づくと、オブライジャーは輝き出します。ヘッドホンをして、思いっきりキーボードを叩き始めるのです。締め切りに直面したとき、オブライジャーは最高の仕事をしますが、その過程で疲労困憊します。1週間寝込んだ後、これからは毎日コツコツと書くと心に誓った矢先の7月に、クリスマスイベントの企画の相談のメールが来て……。

オブライジャーは、それぞれにとっての最良の結果が得られるよう周囲を動かしていくような、仲間たちと「黙々と書く」系のグループイベントから大きな恩恵を受けます。論文ブートキャンプ(Thesis Bootcamp)のような論文執筆合宿が特に好まれます。こちらが完璧な執筆環境を整えるためにこれだけのお金を費やしてきたのだから、あとはそれを利用して論文を書くだけだよ、と私は学生たちによく言っていますが、そのように言ってきた意味がようやく分かりました。自分の作業に集中しろとオブライジャーに言うことは、猫にマタタビを与えるようなものだったのです。

アップホルダー

アップホルダーの学生は、他の学生を圧倒します。それは、アップホルダーが何から何までしっかりやれるからです。アップホルダーは、周囲や自分の期待に簡単に応えることができるので、多少時間がかかっても、博士号取得のプロセスに特定の枠組みがないことにも適応できるようになります。オブライジャーの「黙々と書く」グループに喜んで参加する一方で(グループ内でも概して優秀で信頼できる存在です)、単独で書いていても執筆スケジュールを守ることもできます。アップホルダーの多くは、自分の作業スケジュールについての自分流の「ルール」を持っています。もし、論文執筆をうまくこなせていると感じていて、なぜ他の人たちが時間が足りないと文句を言っているのか不思議に思っているのであれば、あなたはアップホルダータイプです。執筆スケジュールについて、みんながあなたの意見に耳を傾けてくれればいいのですが……。アップホルダーはわがままではないですが、立てたスケジュールを中断させられたら、多少不機嫌になり、無礼にさえなることが予想されます。実際、ルービンはアップホルダーの唯一の弱みは、自分で作った習慣や儀式に「ハマりすぎ」て、それが唯一の方法だと思い込んでしまうことだと書いています。

一般的に、アップホルダーは主体性があり、アドバイスにも柔軟なので、担当教員の評判も良いでしょう。しかし、指導教員の中で意見の相違がある場合は、問題が起こる可能性があります。指導員同士の対立に巻き込まれたアップホルダーは、全員の機嫌を取ろうと翻弄されるでしょう。アップホルダーは完璧主義になりがちですが、これは設定する基準が高すぎることが原因です。指導者が「これで十分だ」と言うのに対し、アップホルダーは「もう少し良くなるはずだ」と考えるのです。アップホルダーの人は、終わりのない完璧主義のサイクルに嫌でも終止符が打たれるような締め切りを設けるとよいでしょう。アップホルダーにアドバイスをすることはこれ以上ありませんが、周囲の人に忍耐強く接するようにしてください。誰もがあなたと同じように、自分をしっかり持っているわけではないのですから。

クエスチョナー

すべての傾向の中で、クエスチョナーは博士課程のプロセスに定まった枠組みが無いことに完璧に適応でき、その中で成長さえします。クエスチョナーは、周囲の期待を内的動機に変換しなければならないので、基本的に自律的学習者(self-directed learner)です。クエスチョナーは分析を好み、スプレッドシートや、山のようなデータ・研究資料に没頭して「なぜ」を解明しようとするのを極上の幸せとします。しかし、文章を書くとなると、少々当たり外れがあります。知識を追い求めるスリルの方が、書き留める作業よりも本質的な面白さがあるのかもしれません。クエスチョナーは、最適化、効率化を求めるのが好きです。一度うまくいく執筆テクニックを見つけても、次々と、よりよいアイデアを探して回ります。

クエスチョナーは、権威を受け入れたがらないので、指導教員にとっては疲れる生徒となります。指導者を信頼できる存在と判断すれば、言う通りに行動しますが、不信感を抱きやすく、提案に抵抗しがちです。クエスチョナーは、論文の特定の種類、特に文献レビューに苦労することがあります。分析が好きなので、文献の深みにはまってしまい、そのまま分析まひに陥ってしまうことがあります。クエスチョナーは、社交的な意味でグループでの論文執筆を楽しむことができるかもしれませんが、オブライジャーやアップホルダーのように習慣が定着することがないため、あまり役に立たないでしょう。執筆意欲の問題に直面しているクエスチョナー(私もこのタイプに属しているようですから共感できます)への最良のアドバイスは、「文書を作成する」という外的な期待を、内的な動機に変換してみることです。クエスチョナーは自分の知識を共有するのが好きです。審査官は新しいことを学ぶために論文を読むのが好きですから、自分の論文を誰かへの大きな贈り物だと考えて愛情を込めて作り上げてみてください。

レブル

レブルは、博士号取得のための決まった仕組みがないことを喜ぶか、全く喜ばないかのどちらかです。レブルは、自分自身の期待にさえ逆らうため、どのように反応するかは予測できません。レブルは、自分で執筆スケジュールを立て、それを守らず、自分を責めて負のスパイラルに陥ってしまうかもしれません。レブルは、何をやってもダメだと意気消沈してしまいがちですが、そんなことはありません。レブルにとって、文章を書くモチベーションは、完全に己の内側から来るものでなければなりません。特に、その作業が好きでない場合、内なるモチベーションを見つけるのは難しいので、熱意が最大の武器になります。レブルは「より崇高な」モチベーションを感じている時に最もよく働くので、新しい知識の探求という博士号の大前提に最も完璧に適応し、特にその研究が他の人を助けたり世界を変えたりすることを目的としている場合はなおさら燃えるのです。自分のテーマに熱中しているレブルは、信じられないほどの苦しみに耐え、目的を達成するために誰よりも懸命に働きます。

レブルの頑固な性格は、強さの源になることもあります。多くのレブルは心の中で、「強いられてやるもんか!」と思っています。他人の意見が間違っていることを証明するために、栄光のうちに博士課程を修了した学生を何人も見てきました。レブルの監督をすることは、本当に難しいことです。クエスチョナーは、権威を受け入れるように説得することができますが、レブルは、たとえ指導者の言い分を頭で認めていたとしても、抵抗するでしょう。レブルを説得する方法は、提案を〈情報・結果・選択肢〉として提示することです。例えば、執筆スランプに悩むレブル学生に「ポモドーロ・テクニックは役に立つとかなり評判が良いみたい」と情報を提供します。さらに、執筆スケジュールを立てないことによる弊害を伝えます。「学位論文は膨大な文量だから、小さな塊に分けて書かなければ、息切れしまうかもしれませんね」と。最後に、その提案を受け入れるかどうかの選択肢を与えます。「ブログの記事を送るから、どうするかの判断に役立ててね」と。

そんな感じで、(ちょっとでたらめな)4つの傾向の分析は、良い診断ツールになった……でしょうか。ルービンは、ほとんどの人が純粋に一つのタイプに属するわけではなく、複数の傾向を持ち合わせていると強調しています。私の場合、内なる動機づけがなければ仕事ができないですが、アップホルダーに傾いています。これは、私の実利的な一面を説明するものです。お金をもらっている場合や、やらなければマズい時は特に、外からの期待に応えようとします。でも、それは自分がそういう人間でありたいからかもしれませんね…ほら、また、疑問が沸いた!みなさんはどうですか?上の4つのタイプのうち、共感するものがありましたか?こういう分析も何かの役に立つでしょうか。ぜひコメントで感想を聞かせてください。

インガーより

原文を読む:The Thesis Whisperer

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