不安は強い力を生み出す可能性を秘めている(前編)

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。2020年を振り返るとコロナの影響で不安を感じたことが多々ありました。2021年は不安な時だからこそ、具体的に博士課程で起こり得る問題を予想して実践的に準備しようというインガー准教授のメッセージを前後半でお届けします。(元記事は2021年1月6日に投稿されたものなので、新年の挨拶から始まっています。)


あけましておめでとうございます。

2020年、無能な政治家や、がめつい企業の運転するバスに乗り合わせたばかりに、崖っぷちにさらされた無力な乗客のような感覚になることがよくありました。気候変動に関しては常々「崖っぷち感」を感じていましたが、パンデミックはその感覚を悪化させたのです。私は2020年を通じてとてつもない不安を抱えていたので、仕事を含むすべての作業に悪影響を及ぼしていました。
2021年に状況が改善されるとしても、こうした不安の原因となっている問題の多くが霧消することはないでしょう。今年、どんな準備するのが良いのか考えてはみるものの、たくさんの抱負を掲げたところで役に立つとは限りません。
(こうした不安について、自分も当てはまると思う人は、これからお伝えする注意事項を読んで参考にしてみてください。)
無力感や、それがもたらす不安は嫌なものです。抗不安薬(精神安定剤)もある程度は効きますが、気持ちを落ち着かせるためだけに多くの時間とエネルギーを費やさなければなりません。私の場合、雇用と結婚生活を維持するためには冷静さを保たなければならないので、さまざまな戦略を用いています。優しい夫が買ってくれたデッキチェアに座ってセラピストにすすめられたマインドフルネスを実践することもそのひとつ。この夏、特に今年の前半にコロナがオーストラリアを襲った後は、このデッキチェアは私にとって欠かせない物となりました。

マインドフルネスの考え方には共感する部分もありますが、私が不安をコントロールするために行っている主な戦略は、時間をかけて最悪の事態を注意深く想像してみることです。この一見逆効果とも思える戦略について説明する前に、幾つかお断りしておくことがあります。。

まず、私は博士課程での研究を専門としているので、ストレスにさらされた人々と仕事をする経験を重ねてきましたが、メンタルヘルスは専門外です。ですから、ここでお伝えすることは、あくまで私個人の経験や私自身にとって有効だった方法です。

私の戦略は役に立たないかもしれませんし、むしろ状況を悪化させてしまうかもしれません。なので、不安障害かも……と思う人は、適切な医療のサポートを受けることをお勧めします。(ありがたいことに、ANUでは一流のメンタルヘルスのサポートを受けられますし、多くの大学にも同様サポートがあるはずです)。

そして、不安について書いたこのブログを読んで不安を感じたら、すぐに読むのを止めてください。(不安とはいきなり襲ってくるものですし、不安を克服するのは簡単ではないですから。)

不安を軽減する方法のひとつは、どんな状況下でも自分でコントロールできることを探しておくことです。私の双子の妹は、セラピストに次のように言われたそうです。「冷静さとはコントロールすることです。」最悪のケースを慎重に考えることは、冷静さを保つ上で役立ちます。起こりうる、あらゆるひどい事態を想定しておけば心の備えができるので、最悪の事が起きたとしても何をすべきか分かるでしょう。そうこうしているうちに、必要以上に心配することはなくなります。具体的な行動を取らなくても、どう対処するかを想像しておくことで、「何とかなる」と自分をなだめられるのです。不安は「反すう(Rumination)」(訳者注:心理学的な意味での「反すう(Rumination)」とは、物事や現在や過去の出来事を何度も繰り返し考えてしまう思考や疑念を指す)によって増幅されるものなので、自分自身に「どうにかできる」と言い聞かせておくことは大切なのです。

私自身にも言えることですが、反すうとは基本的に強い思考パターンに囚われている状態です。人にはそれぞれ特有の思考パターンがあり、それは多くの場合、個々人の人生経験に基づいています。最悪の事態を想像したら、それが頭の中で映画のように再生されてしまうという形で表れることもあります。(見たくもないのに無限にループ再生されてしまう映画なんて最悪)。反すうが重度になると、起きてもいない出来事に対して感情的な反応をしてしまうのでとても危険です。軽度であってももっと有益なことを考えるのを妨害して、物事を行うことを困難にしてしまいます。

なぜ最悪のケースを想定する思考戦略が私にとって有効なのでしょう?私は、たとえば、飛行機事故に遭ったとして、自分の座席から非常口までの席数をあらかじめ数えておけば、生き残る可能性ははるかに高いだろうと思っています。少なくとも、煙や炎に巻かれた時に、進むべき方向が分かるじゃないですか。

基本的に不安でいることが多い私の場合、常に最悪の事態を想像するのは容易なことです。そのため大抵の場合、ほとんどの人よりずっと前に問題の芽を見つけ出すことができています。この最悪の事態を想像することは不安への対策として習得したことですが、かなり有効なスキルだと思っています。心配性の先祖のサルが、災いの最初の兆候を見つけると不安から逃れるためにすぐに木の上に逃げていたのに対し、逃げた先祖の小心ぶりにあきれつつ悠然と構えていた他のサルは、ライオンに食べられてしまった――かもしれないじゃないですか。

最悪の事態を想定する想像力はある種とても強い力となりますが、どんな力も諸刃の剣で自分自身を傷つけかねないため、慎重さが必要です。この想像力を個人的な不安の解消法として使うひとつの方法は、計画を立てることです。

私は、学術研究生活における日々の行動や参考文献の管理など、苦手なことが多いのですが、計画を立てるのは上手いと自負しています。計画を立てることは楽しいし、計画ツールへのこだわりが私の仕事上の成功の秘訣です。例えば、How to write 1000 words a day (and not go bat shit crazy)という記事には、3ヶ月で60,000単語を書きあげるための執筆計画について書いています。この計画は見事に成功し、博士課程をすみやかに修了することができました。そして、この成功が、10年前にこのブログを始めるきっかけともなったのです。

残念ながら、計画を立てたとしても、博士課程で直面するさまざまな問題は、誰かが「いかなる戦術も、目前の敵には無力だ」と言ったように、そう簡単には解決できません。しかし複雑な計画が良い計画とは限りません。むしろ、凝った計画は危機に陥ると破綻する傾向さえあるのです。実際、2020年、以下に挙げたような予想もできなかった「前代未聞の事態」に襲われ、世界中のもっとも優れた計画者たちすら打ちのめされたことはご承知の通りです。

未来におこるかもしれない未知の出来事をすべて予測することはできませんが、問題の最初の兆候から、それに対処するための計画を考えることはできます。

例えば、パンデミックが始まった時、自己隔離期間を乗り越えるため、夫が食料品をリスト化するのを手伝ってくれました。シートに数式を入れ込み、何がどれだけ手元にあるかを入力すればいくつ購入すべきかが分かるようにしたのです。残念なことに、今この記事を書いている時点では、オーストラリアの首都特別区域(ACT)への入境が制限され、シドニーでは感染者が増加しています。でも、私は冷静さを保っています。そして、ダグラス・アダムスのSFコメディの大傑作『銀河ヒッチハイク・ガイド(原題:The Hitchhiker’s Guide to the Galaxy)』の主人公が、宇宙でヒッチハイクするのに必要なタオルと「ガイド」を準備したように、巣篭りの準備を淡々と進めています。(訳者注:『銀河ヒッチハイク・ガイド』に、「星間ヒッチハイカーにとってタオルとは、持ち歩いてこれほどとてつもなく役に立つものはほかにないというほどお役立ちなもの」という記述がある。安原和見訳 『銀河ヒッチハイク・ガイド』(新版) 河出文庫、2005年、37頁。ISBN 4309462553)

この不安への対処方法を博士課程で感じる不安にどう生かすことができるか、後編は具体的な問題の想定から始まります。

原文を読む:https://thesiswhisperer.com/2021/01/06/anxiety-is-a-super-power/

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