論文テーマの妙案はどこからやってくるの?

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、妙案はどこから湧き出してくるのかという話です。

博士課程(PhD)の論文は、「知識を集積することに対し意義深くかつ独創的な貢献をするもの」と考えられていますが、何が「独創的」なのか実用的に語られることはほとんどないため、学生にとってはプレッシャーになっているかもしれません。

イステル・フィリップス(Estelle Phillips)とデレック・S・プー(Derek.S. Pugh)による著書『博士号のとり方[第6版]―学生と指導教員のための実践ハンドブック―(How to get a PhD)』は、独創的な研究とはどうあるべきか、16の手法を説明していますが、残念ながら「独創的なアイデア」がどこから出てくるかは説明してくれていません。別の本も見てみましょう。キャリー・J・デンホルム(Carey Denholm), テリー・エバンス(Terry Evans)による著書『Doctorates Downunder: Keys to Successful Doctoral Study in Australia and New Zealand』には、博士課程を修了させるために有用な時間管理の方法や実験を充実させる方法などの提案が多数掲載されていますが、研究の「独創性」については触れていません。論文を書くために十分に新鮮で、今までにないようなアイデアを生み出すことこそが必要なのに……そのためのアドバイスはどこに書かれているのでしょう。なぜ多くの本を見ても、書かれていないのか?専門分野について十分な知識を有していれば新たなアイデアがいつの間にか浮かんで来るか、知識を積みさえすれば自然に創造力のある研究者になれるとでも言うのでしょうか。

もっと良いアイデアや研究課題に対する解決策が浮かぶようにするには、どうしたらよいのか、何か出来ることはないか記した本をと探したところ――研究について創造性を生む方法を書いた本がありました。私のお勧めは、ロナルド・バート(Ronald Burt)による『Social origins of good ideas』です。

この本の著者バートは、管理者間のネットワーク討論の性質を調査した結果、サプライチェーンのロジスティクス企業(総合物流企業)にいいアイデアがあることを見つけ出しました。物流会社のネットワークには、ブリッジ(仲立ち)とクラスター形成という特徴が見られました。多数の人が身近な同僚(=クラスター)とアイデアを共有しているのに対し、比較的少数の人がクラスター間で話をつなげるブリッジ(仲立ち)の役割を担っていたのです。

この考え方によれば、いいアイデアを持っている可能性を秘めた小さなグループ間をまたにかけたネットワークを持っているマネージャーが「ブリッジ」です。Burtは、ブリッジが幅広い人たちと意見を交わすことが鍵だと述べています。この考え方にどれほどの汎用性があるかを疑問視するかもしれませんが、Burtの調査結果は興味深いものでした。この考えの背景には、クラスター内では、情報や概念、さらに行動までもが時間とともに均質化する傾向があるということです。確かにみんなで固まっていると言動が似てくることもあります。

Burtの主張する重要な点は、ブリッジが幅広い人たちとアイデアを話し合うということです。ブリッジが頭の切れる思慮深い人であれば、他のクラスターとの会話の中に自分たちの問題の解決につながるアイデアを見つけ出したり、いくつかのアイデアを結びつけることで新しいアプローチを見つけたりすることができるでしょう。アイデアの価値とは、生み出した人によってはなく受け取る人によって決定づけられるものである性質上、ある場所ではありふれた考えであっても、別の場所に移すとすばらしい考えと捉えられる可能性もあるのです。

ここで、PhD学生の皆さんに伺いますが、PhDの研究を進める中で最も多くの時間を費やしていることは何ですか?実験?もしくは他の研究者の報告や論文を読むこと?できれば、同僚や指導教官と話しをする機会を持つようにしてください。実は、それこそがアイデアを生み出すよい方法なのです。そして、昼食セミナーなどの機会に参加してみてください。時間の無駄ではないかって?私もPhD学生の時、誰か知人が発表するのでもない限り、わざわざ自分の作業を中断して昼食時間に設定されたセミナーに参加するのは時間の無駄だと常々思っていました。自分の研究内容に直接的な関連性がある可能性は低いと思っていたからです。ですが、間接的な関連性があるとしたら?いろいろなアイデアを交雑させてまったく新しいアイデアを生み出せたかもしれないチャンスを逃していたのではないでしょうか。

最後にいくつか質問を投げかけさせてください。どうすれば物品の輸出入のように、アイデアを外部から取り入れたり、あるいは出したりする、つまりアイデアの「輸出入」ができると思いますか?どのぐらいの時間、自分の考えについて他人と話しをしますか?何かを考えたり実行したりするのに異なる方法を示してくれるような人はいますか?ただでオイシイ話をしてくれる人はいませんので、他者と持ちつ持たれつの関係を作るとしたら、他の分野の研究者はあなたから何を学ぶことができますか? じっくり考えてみてください。

原文を読む: https://thesiswhisperer.com/2010/06/23/where-do-good-ideas-come-from/

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